月のライン 6-5


 次の日、フラワーショップ・ナヤの前に、たくさんのスーツの男がやってきた。


 観光客が、彼らを横目に過ぎてゆく。


 しかし誰の目にも、その騒ぎの真相は分からなかった。


 ただひとり、店の前の噴水近くから、そちらを見ていた少年以外は。


 少年はただ黙って、不審な男たちの行動を遠目に見ていた。


 店の写真を撮ってゆく者、花を押収する者、みな静かだったが、迅速に、それぞれの仕事をこなしている様子が見えた。


 少年は噴水のふちに腰を下ろした。


 背後に、水しぶきの音。ずっと前方からは、海の波音が聞こえてくる。


 潮風に吹かれて、雲の流れが速くなる。


 あっという間に日が沈み、空に冬の星座が昇る。


 雲に隠れた月が、その隙間から町を見ている。


 男たちが引き揚げるのを確認してから、少年はゆっくりと腰を上げた。


 群衆の中に、少年が待っていた男の姿は、見られなかった。


 店の中から、線の細い女性が出てきて、少年を手招く。


 駆け出す少年の足取りは軽やかだった。


 明るく微笑む女性の顔に、何の問題もないことが表れていたから。


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