第2話 解散の儀

 圭は放課後、特別棟四階にある今は使われていない教室へと足を運んでいた。


 たびたびコントラクトに関わる暗躍やゲームに使われていた場所の一つ。もはや、少し慣れ親しんでしまっている自分すらいる。そして……今回もまた……実はコントラクトがらみの集まりの場をなっていた。


 圭の次に教室へ入ってきたのは森太菜だった。仮面はつけておらず、素顔で教室のドアをくぐってくる。


「先輩、随分と早いんですね」

「まぁな……森さんだって早いだろ?」


 ケータイで時間を確かめつつ言うと、森は口に手を当てクスリと笑う。


「なんか、森さんって呼び方……ものすごい違和感なんですけど……」


「……出会ったころ……お前の……君のことをどう呼んでいたか覚えてないな……」

「わたしが自己紹介したあと、すぐわたしは……アリスになっていましたからね……。あっ、別にお前扱いでも全然かまいませんから」


「……」

 アリス相手なら躊躇はなかった。だが、いざこうして改めて会えば……やはり、他人という感覚が表に出てしまう。やはり……圭たちはそれなりの期間、一緒にいたが……友ではなかったのだなと……実感する


「思えば……こうして……仮面もつけず、腹の探り合いもなしで会話するのは……初めてなんだよな」


「……そうですね……。やっぱり、今までは……あくまでアリスとボブでしかなかったんだろうと思います……。多分いまでもどこかしらは……」


 少し遠くを見るような表情で森は教室の窓を見る。すると、急にこちらに無理向くと、頭を深く下げてきた。


「今まで、本当にありがとうございました。本当に、ここまで来れるとは思っていなかったです。想定すらしていなかった……。おかげさまで無事、友人含めてキングダムから解放されました」


「……ど……いきなりどうした?」

 

 圭の質問に答えず、さらにもう一段階頭を下げる。

「それにそ……なんか、その……いろいろいすみませんでした」


 一向に頭を上げる気配がない森に対し、圭は頭に手をやりながら答える。

「……それって、コントラクトで俺を無理やりキングダムに挑ませたことに対する謝罪か? まぁ……別にたいしたことじゃないだろ……。もう、この行動に至ったことに……後悔はないしな……」


 このまま森が頭を上げるのを黙って待つつもりだったが、それよりも先に教室のドアが開いた。森もパッと顔が上げられ、そちらに向けられる。


「圭くん、こんにちは。ちょうど、そこでばったり西田くんと会いまして」

「いや、目的地が同じなのにばったりって言います?」


 入ってきたのは田村と次郎。これで、待ち合わせしていた人が全員集まった。次郎の突っ込みに「そう言われれば……いや、でも言うような」と首を傾げたりしている田村。


 次郎は圭と視線が合うと「よっす」と軽い挨拶をかましてきた。

「お前、なんで先に教室出たんだよ。それこそ同じとこ行くんだから、一緒で良かっただろう」


 それは言われればそうなんだろうけど……、

「……まぁ……ケジメってところかな……」

 なんと言うか、次郎とも本当の意味で仲直り出来ていない気がして、それができるのは、この後なんじゃないかなって思っていたりもして……。


「そうですね。じゃぁ、ここでケジメをつけるとしましょうか」

 そういい、田村がスマホを取り出す。合わせて圭も出そうとしたが、それより田村が一歩森の前に出た。


「の前に……あなたは誰ですか?」


「……ですよね」

 森が少し困った表情で笑う。


「まぁ、でも、あなたがアリスさんの正体なんでしょうね。まさか、最後に正体を知れるとは思ってもいなかったです。仮面はつけないんですか?」


「もう、必要ないと判断したので……。ところで、わたしの正体はどこまで?」


「……まったくですよ。推測はしていましたが、君はその外でした。圭くんとの接点も見受けられなかったですし、実質初対面ですし……さすがに想定できるはずがなかったですね」

 

 田村と森は少し違和感が残りつつも笑みを浮かべあっている。


「これが終わったら、お名前でも教えて頂けますか?」

「……はい」

「あっ、これ、別にナンパとかではないですよ!?」

「分かってますよ!!」


 田村と森のボケ突っ込みが一段落つき、教室の中に緩やかな空気が流れる。この空き教室では……初めて得た感覚だった。


「じゃぁ……今度こそ、ケジメ……つけましょうか」

 田村が再びスマホを前に出す。合わせて、圭、森、次郎のスマホも前に出される。


 圭は一度咳払いして、噛みしめて声をだす。

「では、これで解放者契約と……共闘契約を……解除します。解放者グループも、打倒真の王を掲げる仲も……これにて解散……ですね。

 まずは解放者と田村先輩の間にある共闘契約から……」


 圭がスマホをタップする。同時に森と田村のスマホ画面に契約破棄申請が表示された。むろん、全契約者同意により契約は無事解除、破棄される。

 続いて、解放者契約のほう、次郎と森に契約破棄の画面が流れ出てくる。


「圭くん、最後に何かリーダーボブとして、ご挨拶をどうぞ」

 田村が突然、不敵な笑みで圭に難題を吹っかけてきた。

「……いや、無茶ぶり振るのやめましょ?」


「ぜひぜひ、この状況ですから、校長張りに長い話でも聞いてくれますよ」

「じゃぁ、その間俺、寝てていいか?」

「スマホいじってるんで話終わったら声かけてください」


「……実質解放者でない先輩しか聞いてくれないみたいですよ」

「え? わたしは聞きませんよ? その間はスマホゲームして待ってます」

「もう、そうなれば痛い独り言ですね!?」


 そんなこんなで解放者はあっさり解散となった。本当にあっけなかった。解放者が結成される時のピリピリ感は、もうそこにはない。

 こうやって、また一つずつ、終わっていく。


 最後に、圭と森との間にあった契約を解除し、この場における契約はすべて破棄されることとなった。

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