第5章 友だちから
第1話 解放後の解放者
グループ:キングダムは解放、全員の独立が真の王、亜壽香に認められる形となった。それは結果的に、学校中全体のコントラクトによる支配を終わらせていくに至った。
やはり、後半はニューキングダムとキングダムが大半を占めていたということらしい。
そして……解放者という存在は正義となった。それに合わせて、解放者と名乗っていた長井敏和は、さらに一段と校内で注目を浴びるようになっていた。ただ、長井はその評価を頑なに拒んでいた・
実は解放が進んでいったとき、長井からまた声を掛けられていた。
――
「……小林くん……、ありがとう。本当に成し遂げたんだね」
会って真っ先に掛けられた言葉は例の言葉だった。
「……別に先輩に俺を言われる筋合いはありませんよ……。それどころか、俺は先輩たちの……友情を壊そうとさえしていたんです。
むしろ……攻めて頂いても……俺は文句をいいませんよ」
本心から思っていたことだったが、長井は爽やか笑みを見せた。
「別に気にしていないよ。君に言われた程度で壊れるような仲ではないからね。零士くんも、まだ君のことは大切な友として見ているらしいよ」
……そうなんだろう。あの人はどこまで行っても変わらない気がする。
「それより、むしろ謝罪するなら僕のほうだと思ってる」
長井は笑みを少し薄めにして真剣な表情で言ってくる。
「……何を謝るんです?」
「君の手柄を実質、横取りするような形になる現状にだよ」
そう言われ「あぁ」と声を漏らす。確かに、この学校にいる大半の生徒は解放者が長井のことだと思っている。ネイティブの時ですら、解放者という存在がでっち上げるくらいに広がったんだ。キングダムが解散すれば、必然的に解放者とされる長井がやったのだと評価されるのだろう。
「そんなの、それこそ気にしませんよ。別にヒーローになるため、注目を浴びたいために解放者やっていたわけじゃありませんから。というより、行動理由の大半は脅しと契約と……エゴでしたし」
圭は自分自身を確かめる意味も込めて、言葉を噛みしめていう。だけど、長井はそれを軽く上塗りするかのように、身を乗り出してきた。
「ここで一つ、小林くんに提案があるんだよね」
指を一本立てて圭の上を指さす。
「本当の解放者は、君であったことを打ち明けようと思うんだけど」
「……はい?」
唐突な提案に目が点になる。
「僕は影武者で君がすべてを引っ張るリーダーだといえばいい。いや……いっそ、僕が勝手に名前を借りていたと打ち明けてもいい。最後の演説のとき、君が隣にいたんだから、流れも自然にしやすい。
いまの僕なら……きっと伝わると思う」
あまりにも素直で、律儀な提案……あきれるほどに。多分、長井という人物の本質は真面目なのだろうと理解する。
そのうえで、圭は首を横に振った。
「……すみません。それは全力でお断りさせてもらいます」
「いや……でも……このまま僕が解放者として見られるのは……さすがに僕自身も結構つらいところ……あるんだけど」
「だったら、それが勝手に存在を利用した罰だと受け取っておいてくださいよ……。そんなの受けたら……面倒くさいのが一気に降りかかってくるのが目に見えてくるんです。代わりに引き受けてもらえますか?」
「……小林くんがそういうのならば……僕は甘んじて受け入れるけど」
「良かった……それは本当にお任せします。正直、そんな後出しみたいなこと、恥ずかしくて出来ないですし……」
なにより、もう一度友とやり直そうというときには、邪魔すぎる。
「引き続き……表の解放者として……よろしくお願いいたします」
最後、圭は深く頭を下げて長井に解放者のすべてを託した。
話している途中、難しい表情になっていた長井も、最後は笑顔を圭に振りまいてくれた。
――
そんなこともあり、世間は、解放者として陰から尊敬のまなざしを向けられる長井と、それを否定する長井の構図が出来上がっていた。長井の否定は本心だろうし、周りから見たら謙遜として映り、その形は強固になってきているといえる。
こうやって、コントラクトによる大きな支配は静かに消えていった。だが、コントラクトを知る前はこんなことが起きているなど知る由もなかった程度に、コントラクトの影響は水面下にある。
まだまだ、圭が知りえない場所では残党が残っていることは否定できない。きれいごとを言うのならば、そこまで手を出して完全にすべてを終わらせるべきなのだろうが、……その方法は今の圭には思いつかない。
下手に動けば、むしろ余計な争いを生み出し、また悲劇を生み出しかねない。
そこに関しては……申し訳ないが……どうしようもない。
代わりに、今の圭に出来ることを……やっていくしかない。
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