第20話 最終ゲーム

 仮面を外し、素顔を見せる亜壽香。その素顔は、圭の知る幼馴染の物よりずっと険しく、鋭く……それでいて……、悲しい。

 その亜壽香は両手を広げ、圭に視線を突き付ける。


「さぁ、小林圭……。最後のゲーム、第五ゲームだ。ゲームを提示しろ。お前がわたしに勝たない限り、わたしは止まらないぞ」


 ……もう、どうしようもない……。

「分かった……第五ゲームをしよう」


 亜壽香がタイマーを手に取り、十分間を図ろうとする。だが、それをすぐに制した。

「タイマーは必要ない。もう、第五ゲームは決まってる」


 そういい、少し後ろに下がり、田村の並べた道具からコインを二枚取り出した。それを亜壽香に見せながらゲームを提案する。

「俺が提案するゲームは「硬貨探索者(コインサーチャー)」だ」


 教室の中にどよめきが走る。このゲームはこの教室にいるものなら全員が知っている。三つ巴のエンゲームで行った、真の王が提示したゲームだ。


「……この状況でわざわざわたしが作ったゲームを選択するのか? 慈悲のつもりか? それか、独自のルールを提示するのか?」


「うん、基本は同じだけど、独自のルールはいろいろ提案する。まず、ミニゲームだし、時間は短縮してやろう。隠す時間は一分、そして一点先取性だ、一方がコインを見つけ、相手が外した時点で終了。


 それに面倒だから、質問タイムをなくそう。お互いにコインの場所を当てあうだけのゲームにしよう」


 スマホの画面をタップし、契約条文を作成。

第五条 甲と乙は一分間でコインを隠す。この隠す場所はこの教室の範囲内とする。隠す時間である一分経過した瞬間、コインがあるとプレイヤーが認識した場所が隠し場所となる。


 第六条 回答タイムにおいて、プレイヤーは相手プレイヤーの隠したコインの場所を指定することになる。その時の世界不正解の判断に、嘘を用いてはならない。


「これは契約条文だ。いいよな?」

「……いいけど、第五ゲームがこれでいいの?」


 圭は条文が成立したことを確かめつつ、コインを一個、机の上に置いた。

「このコインが亜壽香の隠すコイン。こっちの俺が持っているほうが、俺の隠すコイン。だが……ゲームを開始するまえに……」


 一度森と田村に視線を送り言う。

「アリス、田村先輩、真の王を拘束しろ」


「え?」

 状況に似あわず間抜けな声を漏らす森。


 状況を真っ先に判断したのは亜壽香だった。跳ねるように自分が隠すコイン目掛けて走り出す。だが、同時に田村も意図を気づいてくれた。亜壽香がコインに触れるより先に田村が亜壽香を床に押さえつけた。


「アリス! 早く!」

 二度目の声掛けでやっと動いた森が亜壽香の足を拘束。亜壽香は二人の手により床に張り付けの状態になる。


「……け、圭! どういうつもりだ!」


 亜壽香の叫びを無視してハンカチを手に取る。

「藤島さん。申し訳ないけど、このハンカチで真の王の目隠しをしておいてもらえる? お願いする」


 藤島は最初躊躇したが、アリスを見た後、無言でハンカチを取り、亜壽香の目を覆い隠してくれた。


「じゃぁ、ゲーム開始だ。一分間、スタート」

「待てよ、おい! ふざけるな!」


 一分間を刻むタイマーがスタート。圭は教室を巡回しながら言う。

「ふざけてないよ。真剣に硬貨探索者ゲームをやっているだけだ。ただし、今回はプレイヤー外の人物がプレイヤーに接触するのは禁止してないけどな」


「これはおかしいだろ! これは第五ゲームじゃない! ゲームの公平性が明らかにかけているだろ! こんな不公平なゲームが提示できるわけがない」


 床から一歩の歩けない亜壽香を遠くから見下ろし言う。

「このゲームは公平だよ。俺はたまたま周りに仲間がいた……。けど、お前は一人だけだった。お前は仲間がいない。なぜ、それをわざわざ考慮しなければならない?

 一人で挑むことにしたお前が悪いんだ」


 自分で言っていて辛い。……そもそも、こんなやり方は間違っていると思う。だけど……ここで亜壽香を止める方法として……確実なのは……。


「……これってさ……、圭が否定しようとしていた暴力なんじゃないの? 暴力で確実性を保とうとしているんじゃないの? これで……本当にいいの?」


 ……、それを言われれば返す言葉はない。でも、当然、それは理解した上でこの手段に出ている……。


「くそっ……、おい、西田次郎!」

「先輩、奴の口をふさいでください」


 圭が言い切るより先に、田村は見事に亜壽香の口をふさいだ。一応、次郎を見て確認するが、次郎が動く気配はない。


「次郎はお前の支配下にあるのは間違いないのだろう。次郎の行動から考えてれば、契約内容は……ゲーム中、わたしの指示なく勝手な行動をとることを禁止する、ってところだろうか……。無駄口も叩かせないようにしているよな。


 少々強めの契約だが、ゲーム中などといった制約を設ければ、ギリギリルール適用内で効果を発揮するんだろう。だが、それは、お前の口を封じれば次郎の行動も封じるとことになる。


 もし、契約内容に真の王を手助けをするような内容にしていれば、ここで次郎が代わりにコインを隠してくれたかもしれない。だが、お前はそんなことしていない。そんな自由を与えれば人質ではなくなるし、そもそも裏切る隙ができかねない。


 お前は、一人で戦うことを選び、そしてそれが敗因となり、ここで敗北する」


 再び、亜壽香の前に戻ってきたとき、一分間を告げるタイマーが鳴った。

「さぁ、ゲーム終了だ。回答タイムといこうか……。真の王の目と口だけ解放してもらえますか?」


 藤島のハンカチと田村の手がどけられ、亜壽香の口と目が自由になる。だが、亜壽香は特に圭のほうを見ようとも、文句をぶつけようともしなかった。

 代わりに言う。


「わたしの負けで……いいよ。いや……もう、決着はついたかな」


 亜壽香が隠すことになっていたコインが机の上にまだあるのを確認。

「……以外だな……。こんなやり方をされて、素直に負けを認めるのか……」


「……わたしがずっと取ってきたやり方だったからね……。田村先輩もこういうやり方で丸め込んだんだし……、やられ返されただけって感じかな……。

 でも、逆に言えば、圭は……圭が否定したやり方で、わたしに買ったんだよ」


 亜壽香の表情が真の王また亜壽香に表情に変わりつつある。

「……負けを認めるから……もう、拘束は解いてもらってもいいかな?」


 その言葉に圭はうなずき、拘束をする三人に合図をする。そっと三人が離れると、亜壽香はスカートについた埃を払いながら立ち上がった。


 そして、そっと両手を広げ、……表情を険しいものへと再び変貌させる。

「じゃぁ、エンゲームの賭けの清算をしよう。さぁ……わたしを支配して……わたしをさっさと倒せよ、解放者」

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