第10話 圭参加の解放者演説

 セカンドパティオの中央に立つのは、長井とその側近、藤島&武井。そしておまけで圭。

 周りにいる人は本当に数える程度。パラパラとしている。この演説を聞こうとしている人の大半は教室や廊下……すなわち建物の中にいる。


 この状況を見ると、やはり集まったのは本当に慎重になっている人たち……。すなわち、解放者のことに対して本当に興味を占めている人たちだと分かる。


 長井の陰に隠れつつ、集まった人たちのメンツを見てみた。学年はバラバラ、一年から三年までいろいろいる。男女もバラバラ。


 知っている顔を見かけた。一人は田村零士、様子を見に来ているらしい、フライハイトにて陣取っている。

 そして、そこから離れるように遠い位置に見られたのは次郎の姿。

 圭の幼馴染、亜壽香の姿を見受けられた。


 ほかにも、真の王の正体候補とある圭と同じクラスの生徒もちらほら。といっても、今の圭にはどうしようもないか。


 長井がポケットからスマホを取り出し時間を確認するしぐさを見せる。少しうなずいて見せ、圭たちに一度視線を送ってくると、背筋を伸ばした。


「皆さん、またお集まりいただき、感謝する。もう、皆さんご存じの通り、我々は解放者だ」

 長井は両手を広げ、悠々と演説をし始めた。


「先日、ここでキングダムのリーダー……の影武者とここで対面したことは覚えていることだろう。その時、同時にぶつかり合うことを宣言した。

 そして我々はつい先刻、実際にキングダムのリーダー、王と対決……すなわちエンゲームを行った!」


 長井の口から放たれた『エンゲーム』の一言が周囲にざわめきを生み出す。そのざわめきが鎮まるチャンスを待ちしばしの沈黙を図る長井。


「そして我々は王に勝利した!」

 今度は瞬間的に歓喜の声が上がる。だが、本当にそれは一瞬で、一気に静まり返っていく。


 その意味は分かる。勝利したのなら、なぜ自分は今なお、支配下にあるのかと、疑問に思ったものが続出したからであろう。それが連鎖し、瞬く間に沈黙という形で、疑心を伝えてくる。


 だが、同時に長井が発する次の言葉に集中させるという意味で効果的だったのだろう。沈黙が来たとの確かめるように小さく頷きを見せる長井。


「おそらくここにいる人たちは何となく悟っただろう。そうだ……まだ何も終わっていないということに。そうだ、あくまでも今回の勝利は一時的なもの。残念ながら、君たちの解放にはでは至れていないのが現状。


 だが! この勝利は間違いなく、我々解放者を勝利への大きな一歩となったことははっきりと告げる」


 一度こぶしを握り締め宙に向ける。それを周りの人たちに見せた後、ゆっくりと下した。


「キングダムはもともと、ある人物の元に結成された支配から逃れるためのグループだった。だが、今王座についている……我々が真の王と呼んでいる人物がその人物を打倒した結果、今のキングダムであることは……ご存じの方も多いことだろう。


 我々は先刻のエンゲームにて、その人物の解放に成功したのだ! この意味が分かるか!」


 今度はより強いガッツポーズを見せて、それを天に掲げる。

「我々解放者は、その人物、元王とともに、新しいキングダムを再結成することをここに宣言する! 我々は支配形態に変えてしまった真の王と立ち向かう!

 かならずや、新しいキングダムはみなを救うグループになる!」


 そのセリフのあと、長井は後ろに立つ藤島に目を向けた。その背中を押すようにして、藤島を前に立たす。


「ここで一人ある人物を紹介した。彼女はわたしの側近として力を貸してくれていた人物の一人だ。そして、今後、キングダム再結成の中心となってくれる人物だ。

 新しいキングダムは元王と彼女を中心に再建していく」


 長井は指を一本立てるしぐさをしだす。


「我々はここで仲間を集うことにする。打倒キングダムを掲げる同志よ! キングダムの支配から逃れながらも、不安に駆られる者たちよ! いや、コントラクトという不条理に悩まされている者たちよ!


 彼女のもとに来い! 再びキングダムを立ち上げるのだ! 偽物のキングダムを打倒すのだ! 我々には必ずできる。やならなければならなし。

 そしてそれができる場所はここにある!」


 長井は少し場所を移動し、今度は圭の近くまでやってくる。

「また、彼女が同志を集う間、わたしはわたしで、これからも動き続ける。打倒キングダムのために動き続ける」


 そういって圭の肩をポンと置いた。圭は言われた通り、特にリアクションを取ることなく、ただ黙り続ける。


「我々が必ず王を打倒す。皆よ、希望を持て! そして、皆よ、力を貸してくれ! 解放は……すぐそこにある!」


 長井の演説がこうして終了。本当に数少ないまばらな拍手と共に退場し始める長井。この雰囲気では、どれほどの手ごたえがあったのか、圭には分からない。

 だけど、今は黙って長井の背中を追って同じように退場するしかない。


 それは側近二人も同じ。ただ、藤島は自身の役割を承知しているらしく、周りに対して笑顔と手を軽く振りながら退場する様子もまた伺えるのだった。

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