第4話 森の今後

 再び下駄箱の前につき、今度こそ外靴と履き替える。そして、そのまま下校しようとした矢先のことだった。


 校門のすぐ近くで壁にもたれかかる人物の姿が目に映る。……森太菜だ。そいつは圭が校門のほうまでやってくると、こっちに少し目をよこした後、先に校門をでていった。


 圭もまた校門を出て自分の家がある方向に延びる道に目線を向ける。その少し先で淡々と歩く森の後ろ姿。

 圭は思わずため息を漏らしたが、ひとまずそのあとをついて自分も足を進めた。


 しばらく歩くと、森は角の先でまた壁にもたれかかる。そのままポケットからスマホを取り出した。

 圭はそんな森を……無視してその横を通り過ぎ去ろうとしてみた。


「……いや、普通……止まってくれません?」


 やはりそうなる。億劫ではあったが足を止め、首は向けないまま口を開く。

「……なにかようか?」


 圭が顔を合わせないでいると、森もスマホに画面を向けたまま話を続けてきた。

「ケータイ……スマホはどうされたんです?」

「電源切れてんだよ」


 実物をカバンが取り出す気もなく、ただ吐き捨てる。森は「そうですか」とつぶやきつつ、スマホをポケットにしまった。


「まぁ、いいです。結果として直接また顔を合わせる口実になりましたし」

「……」


 そういえば、仮面をつけずに森と顔を合わせるのは久しぶりだった気がする。といっても、今も顔を合わせていることはないのだが……。


 圭が特に反応を示すことなく待っていると、森はもたれかかていた体を壁から少し話した。

「単刀直入に聞きます……。これから先輩はどうされるんです?」


 まず間違いなく来ると思っていた質問。それに対して特に頭で思考することもなく、前もって作っていた回答をただ述べる。


「……別にどうもしない。どうやら、俺はもう見物しているだけでいいらしい。あとは田村零士が俺はお前の目的も達成してくれるだろうよ。

 任せておけばいいだろう」


 すると森は小さく首を縦に振り、少し目線を空に上げる。

「……まぁ、確かに……先輩は本来、キングダムを倒す理由など持ち合わせていなかったのですから……ね」


「あぁ……お前の手で契約させられ、強引に立ち向かわされていただけ。尤も……その契約はまだ継続中。お前が俺に全力で王に立ち向かえというのならば、行動しなければいけないのだろうがな」


「さすがにそれはしないですよ」

 それは不意を突かれるほどに即答だった。


「……少し意外だった」


 ここばかりは少し本音を漏らしてみた。すると森は小さく含み笑いをこぼす。

「今回の件で……先輩が今、どういう状況に立たされているのかはそれなりに理解しているつもりです。というより、先輩の心情はわたしでは測りしれないのでしょう。この土日で……先輩はどういう……。


 そんな状況を知りつつなお、先輩に打倒王の契約を執行する。そんなことをすれば、わたしがあまりに鬼畜になってしまいますよ」


「……すでに鬼畜の屑だと思っていたが」

「……」


 しばらく森の口が閉ざされたが、強引にせき込みを入れてきた。

「ここまでは想定通りの話なので……本題として、先輩に報告しておこうと思います。わたしは……解放者アリスとして田村零士と手を組もうと思っています」


 ……っ!

「……そうか」

 少しばかり動揺したが、特に止めることもなく流す。


「というより、田村先輩に協力するという形になるでしょう。先輩が言ったように、わたしの目的もまた打倒キングダム。田村先輩との利害も一致していますから。


 わたしは……黙って見ているつもりはありません。だからこそ、解放者アリスという自分の今の立場があるのでしょうね。


 ですが、まだわたしは解放者アリス。解放者ボブと……チャーリーとの仲間。ボブとしての意見があるのであれば、聞いておこうと思います」


「……好きにしたらいい。俺に止める理由はないし、どうでもいいことだ。基本、俺たちの関係は対等。お前が望むようにしたらいい。ただし、俺はもうかかわらん」


「……分かりました。あと、先輩にもう一つ、質問をさせてください」

 森は圭の背中に向けて息を大きく吐いた。


「西田先輩のことは……どうされるつもりですか? わたしは当然敵対……、倒す人物の一人としてカウントしていますけど」


「……」

 分かりきっていたことだ……。今更驚くことは何一つとしてない。だけど、意識して考えないようにしていただけあって、一瞬思考停止してしまう。


 だけど、それはすぐに動き出す。今の圭にとって次郎など、たいした存在ではない。ただの人だ……。


「お前が倒したいというのであれば、倒せばいい。今この場にあるのは……西田次郎が真の王の側近、影武者であるということのみ。ほかはなにもない。


 いや、むしろ、お前……次郎に近づいてみろよ。あいつの雰囲気から見れば、お前たちの味方として動いてくれる可能性は十分あるぞ。せいぜい、次郎の立場を利用して、勝利をもぎ取るといい」


「……先輩……やはり、西田先輩のことをまだ信用?」


「ただ事実を述べたまでだ。おそらく、あいつは真の王だけの味方ではないだろうという推測を話しただけ。それに……。


 今のあいつと俺との関係は、それとは無縁だ」


 あいつがどっち側であろうが、俺はこれ以上、あいつと仲良くできる自信はない……。あるわけがない。


「じゃあな。検討を祈ってるよ」

 最後、こっちか強引に話を切り上げ、自宅に向かってそそくさと歩き始めた。

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