第19話 ゲームの行方……そして

「ふふふっ……なるほどね。……そういうことだったのか……」

 長井によって田村の解放を迫れられることとなった真の王。肩を大きく揺らして笑う。


「わたしに牙を向こうとしているのは分かっていた……。再び王の座を狙っているのだろうと思っていた。だが……偽物の解放者がお前の差し金だったとはな……。てっきり、解放者がわたしに近づくため生み出した存在だと思っていた……。


 おまけに……本当の解放者を欺いていたのか……。随分と……乱暴な策を仕掛けてきたもんだな」


「……乱暴……ですか。あなたにだけには言われたくありませんね……。もともとキングダムは支配グループからの対応策としてできたグループであったのに……あなたが無慈悲な支配形態に変えてしまった。


 わたしは……そんなあなたを許せないんです。だからこそ、こうしてわたしはあなたの前に立っているんです」


 真の王はしばらく黙って田村をにらんだが、やがてそっとため息をついた。

「あくまでも解放はお前自身のみだ。そういう契約だからな」


「当然……分かっていますし、それで問題はありません。その代わり……ここではっきりと宣言させてもらいましょう」


 田村は指を一度天井に向けたかと思えば、ビシッと真の王を目掛けて差した。

「必ず王の座を奪い返して見せます。グループ:キングダムは……わかしが必ず救い出して見せます。ですから……」


 そう言いながら田村はこんど、圭のほうへと視線を向けてきた。

「解放者ボブさん、あなたも安心していてください。必ず、あなた方の目標も成し遂げて見せましょう。契約でわたしたちの打倒王計画の邪魔をすることはできませんが、まったくもって心配はありませんからね」


 完全ンに騙され、長井……と田村に敗北した。完全にやらかした……だが、問題はない……。

 力が必要以上に入っていた握りこぶしを一呼吸置くとともにほどく。


「お前とのその契約はさして問題ない。俺の目的はあくまで王。お前とはお互い四点……同点の状態だ。もはや長井と田村もどうでもいい。

 決着をつけようか」


 こんなところで取り乱したらそれこそすべてが終わりだ。田村にしてやられたのはひとまず置いておく。負けたことを悲観するのはまだ先だ。

 今、一番やるべきこと。一番の目的を忘れることだけは絶対してはならない。


 森もハッとしたのか、クルリと体を真の王へと向ける。

「そうだったよね。第五回戦へ、ゲームを進めてもらおうか」


 影武者がそれにこたえるように一歩前に出てくる。森と田村、両プレイヤーが教室の中央に置かれる机の前に立つ。

 そして、真の王のゲーム進行を待った。


 だが、一向に動く気配を見せない。田村の前で黙って突っ立ったまま……。

「どうした、王? ショックでも受けているのか?」


「……お……王?」

 後ろを振り向き、心配の声をかける影武者。


 これはもしかしたら、圭たちより真の王のほうが、敗北に痛みを感じているのかもしれないな。確かに、田村の解放というのはかなり痛い話なのかもしれない。なら、このまま一気に叩き込んで、二位にはこぎつけられそうだ。


「あ~あ、もういい!」


「……え?」

 王が突然そんな声を上げたかと思えば、田村の肩を思いっきりどかし、影武者の隣に来た。


「もういいよ。降参、わたしたちの負けってことでいい」

「え? ちょ……王? なにを?」

 反論しようとする影武者を強引に静止させ、影武者よりさらに前へと出る真の王。


 ここにきてさらに想定外の話を持ちかけてくる王。それが策なのかと深く考えこもうとするが、そんな策は見当たりそうもない。

「……それは……文字通り、敗北宣言……ということでいいのか?」


「あぁ、そうだ。お前たちが二位で、影が三位ということでいい。はい、これで決着、ゲームは終了!」

 真の王は完全に投げやりになった感じに両手をヒラヒラ振ってゲームを終了させていく。


「……待てよ……、どういうつもりだ?」


「なに? 不満でも? 二位だよ、よかったではないか。二位でも不満だというのなら、一位の座を取られた自身の力の無さを恨むといい。わたしも同様に恨んでおくとしよう。


 そもそも、こっちから提案したゲームなのに、一位を取られて、おまけに二位争いまでこぎつけられているこの状況。実質負けみたいなものだ。これ以上やっても、わたしたちが無駄な足掻きをしているように見えてダサいだろう」


 そういいつつ、真の王は田村に近づいていく。

「それに、もうお前に勝っても、こっちが得られるものは何もないからな。田村と解放者との間にある契約など、もうすでに意味はなしていないはずだ。

 頑張り損だ」


「……だが……、影武者の顔を俺たちは知ることになるんだぞ。それを阻止するという意味でも」


「あぁ、それね……いいよ。影、この場でさっさと仮面外してしまいな」

「……それで……いいのかね?」


 あまりにあっさりと言ってくる真の王に対して、戸惑いを明らかに隠しきれていない影武者。だが、そんな影武者の背中を強引に押し出してきた。


「いいから取れ。契約で絶対取ることになる。自分から取っても一緒だろう」

「しかし……長井たちや田村にまで見せる理由は……あっ」


 影武者が言い切るより先、真の王が影武者の仮面に手をかけた。それを躊躇なく外していく。そして……仮面の奥に隠された顔が露わとなる。


 その瞬間……圭の息が完全に止まってしまうのを覚えた。仮面をしているからその表情が見えることはないが、完全に驚愕の表情を出してしまう。

 だが……これ以上の動揺は絶対してはだめだ……。


 一人の解放者として……、謎の人物解放者ボブとして……、影武者の顔を見たとき、聞こうとしていた質問だけを……冷静に口から放て……。


「聞かせて貰おうか……お前の名前と……学年、そして組を」


 影武者はしばらく顔を俯かせていたが、やがてしっかり顔を上げゆっくりと腰を折った。


「2年一組。西田次郎。以後、お見知りおきを」

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