第2話 集中と乱れ
中央にある机に並べられた三つのコイン。それを囲むように並ぶプレイヤー三人、コインを同時に手に取る。
「では一回戦目を始める」
真の王が影武者のスマホをさらにイジリ十分タイマーをリセット。机の中央に配置する。
「まずは第一フェイズ。スタート」
そして、タイマーは動き出し、十分の時を刻み始める。
さっそく森は手にしたコインをティッシュで包み込む。やはり、相手二人も同じ考えのようで長井も影武者もティッシュでコインを包み込んだ。
その後、三人はしばらく動かず互いを牽制するような形になったが、先に動き出したのは影武者だった。それに伴い、森、長井も教室の中に散らばっていく。
さて、情報を整理しよう。まずこの教室内にある物について。
一番数多くあるのは机と椅子だ。ざっと数にして三十位か……。ただし、規則正しく並んではいない。おそらく空き教室であるがゆえ、既に何人もの人がコントラクトの交渉の場と利用した結果だろう。
タイマー用のスマホが置かれた机は中央。その周りに王たちが引っ張り出してきた椅子があったりする。
ほかの机や椅子は教室の端に乱雑な形で追いやられている。向きもバラバラ。
他の物を見ていこう。前にあるのは上下位移動式の黒板。チョークの粉受けにはチョークと黒板消し。また、前に置かれている机の上に、黒板消しクリーナー。何も入っていない花瓶。辞書などが入っていたのであろう本棚。
そして、教壇机。
後ろには、固定式の黒板がある。その下にフタ付きロッカー。掃除用具入れ。ざっとこんなものだろう。
あとは外側の窓にあるカーテンぐらいか。
で、肝心の隠す場所について。まず真っ先に思いつくのは机の中だ。あまりいい隠し場所であるとは言い難いが。
基本的にこのゲームは誰でも探しまわることができる。机の中は簡単に覗けるというわけだ。と言っても乱雑に散らばっている中で、バレないようこっそりいれることができたら悪くはない。
たとえ周りの人たちが机の中を探し始めても、答えにたどり着く前に回収すればOK。ただ、その代わり隠すタイミングは終了間近に限られる。早い段階で隠せば、机の中では見つかる可能性が高すぎる。
また、そういったことを考えたら教室の端は割と隠せる場所が豊富だ。そのどこかに隠したくなる。だが、それはそれで教室の端をぐるりと一週回ればダドリ疲れてしまう可能性が高いのもまた事実。
そう考えれば、この教室。本当に都合のいい隠し場所というのは実に少ない。基本的なオブジェクトは机椅子のみで、それ以外は全て教室の端にあるというのが、その難易度を上げているといえよう。
その中で、相手はどうやって隠すのか。
そうやって思考をしつつ、観察相手である影武者を見続けていた。田村には長井のほうをお願いしている状態だ。
対する長井の側近たちも教室のドアから離れそれぞれのプレイヤーの観察に入っていた。今更教室を出ようとする奴はいないという判断と、負けるわけにはいかないという、意気込みといったところか。
そして真の王だが、彼女は教室の端から全体を見渡すような立ち位置にいた。まぁ、ひとりでふたり分を観察しなければいけないのだから当然か。
「ボブくん……だったかね?」
突如、影武者が圭に向かって喋り始めた。圭の観察した限りでは彼の握りこぶしの中にはまだコインが入っているはず。
「……なんだ?」
「もっとしっかりわたしを見ておかなくていいのかね? どうも今の君は色々と思考しすぎているようだね」
そう言いながらキツネの仮面を圭に少し近づけてきた。
「忠告だ、もっとわたしに集中したまえ。もっと……わたしを見たまえ。肝心なところを見逃しても知らないよ」
プレイヤーの立場でありながら、圭を観察し返す余裕があるのだ、とでも言いたいのか? そうやって、意識を逸らしている間に何かするつもりか?
「ご忠告どうも。お望み通り、穴が開くほど見てやるよ」
圭がそう返すと満足したように圭に対して背中を向けた。せっかくだからそんな影武者に対して、鎌をかけておこう。
「あと、お礼として俺からも一つ忠告だ。その特徴的な喋り方。おそらく、真の王よりも目立つため、というのと普段の自分と雰囲気を変えるためにしているのだろうが……そろそろやめといたほうがいいぞ。
俺たちが勝ったらお前の仮面は外れて顔バレするんだ。そのときは、さぞかし恥ずかしいことだろう」
「クククッ……それは想像したくもないね」
と笑いながらだった。
第一フェイズ開始から五分が経過しようというとき、影武者は急に机を一つ引きずり始めた。わざとだと思うが大きな音を立てて中央近くにまで引きずっていく。
「……何!?」
真っ先に声を上げたのは森だった。確かにさっきから集中により圭たちの会話以外の音が無かった中で、突然の騒音。机を引きずる音がプレイヤーの集中を散らせてしまった。
……まずい。
「田村! 気にする必要はない!」
これに田村まで影武者に視線を寄せ、長井から視線を外されたらダメだ。
「安心してください。そんな程度の惑わされはしませんよ。想定の範囲内です」
が、さすが田村、まるで動揺はなかったらしい。
まぁ、物音を立てるというのはかなり有効な手段だとは思っていた。静かなときに物音が経てば自然とそちらに意識が取られがち。その瞬間何かをされたら気づけない。
しかし……物音を立てるならてっきり真の王だと思っていた。影武者が音を鳴らしても肝心の圭はそのまま影武者に意識を保ち続けられる。視線を外すなら別の場所で音を鳴らさないといけない。
大きな動作をして隠す動作をごまかそうというわけか……。どちらにしても、策の一つであることに変わりはない。
「ふぅ……」
影武者は机を移動し終えると、今度は教室の前まで歩き始めた。以前、右手の拳は握り締められたままではあるが……。一応それとなく移動させた机の中を確認。中にはティッシュの塊が入っていた。
それを確認したあとすぐ影武者に視線を戻す。そのまま中のティッシュを取郎としたその時。
「……しょっと」
なんと前に置いてあった空の花瓶を持ち上げたのだ。その大きさは両手で簡単に持ち上げられる程度の大きさ。
やがて圭の前までやってくる。
「君、邪魔だ。どいてくれんかね」
あまりに謎の行動に気圧され、言われるがままそこをどけた。すると、さっき引きずった机の上に花瓶を置く影武者。
そして……、
――カランッ!――
花瓶の中に何かが落ちる音。そしてそれとともに、タイマーの音が鳴り響いた。
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