第7話 田村の目的、圭の提案
「その質問を待ってました」
次郎が質問した「解放者の目的を探る意味」に対して出した田村の反応。指で次郎を差しながら笑う。
「さて、次郎くん。君は解放者の演説を聞いてどう思ったか、君に訪ねたことを覚えていますか?」
次郎は田村の質問に対して丁寧に首を縦に振った。
「えぇ……覚えています。俺は確か……結局奴らは何がしたいのかよく分からなかった、といった感じに答えたはずですね」
「えぇ、そのとおり。まさにそれなんですよ」
田村は次郎に対し何度も激しく指を指した。
「彼らの演説に、具体的な目的や行動を全く示さなかった。言ってしまえば、理想を語っていただけなんです。
同じく支配される側であるわたしとしても、解放者という存在は歓迎したい。ですが、わたしから見ればどうも胡散臭い。正直、仲間を集うとか、演説でなにか仕掛けてくるんじゃないかと睨んでいたんですが、そんな事は一切なかった。
それに……」
田村はひと呼吸おいて、チラシの解放者という文字を指さした。
「彼らが本当にネイティブを倒した解放者だという証拠は何もないんです。いくらでも成り代わることはできますからね。もし、本当に奴らが名前を借りているだけの存在なら、ただの目立ちたがり屋か……、ホラ吹きか。
わたしの立場としては、基本的に解放者という存在は肯定します。応援したいですし、出来るのであれば手助けをしたいんです。ですが、相手の素性がわからない段階では、手を貸す気にはなれません」
素性がわからない相手には手を貸さない……か。それは本心なのだろうか……。
すでに本物の解放者と手を組んでいる田村からこのセリフを吐かれては、同反応していいのか……。
もし、本心だとすれば、実はすじょうが分からない圭たち本物の解放者の手を貸す気がないのか。はたまた、田村はすでに圭たちの素性を知っているのか……。ただのこの場での方便だとすれば、その限りではない。
いや、圭たち本物の解放者の目的ははっきりしているんだ。それもこれもない。
「だからこそ、彼らの目的を探り、わたしが応援するだけの価値が有る、手を貸すにふさわしい存在なのかを見極めたいんです。
そのために、圭くんには力を貸してもらいたいと思っています」
圭は田村の言葉に対し、考えるふりをした。顎に手を当て、俯かせる。
まぁ、この状況を本物の解放者と手を組んでいることを隠しながら説明するための、方便ってことだろう。
ただ、目的が偽者の目的を探ることであるのに違いはあるまい。
「分かっていただけましたか?」
田村は最後に次郎に向かって首を伸ばしてきた。次郎はそれに少し怯んだのか、後ろに体を反らす。
「……まぁ、はい。先輩の思っていることは……」
次郎だって、これ以上の言及は無理だ。さっきのは嘘なんでしょ? なんて言ってしまえば、自分が解放者と関係を持っています、と言っているようなものだ。
もちろん、次郎だってこの田村のセリフが嘘の方便だというのは理解しているだろう。
「で、圭くん。どうでしょう? 引き受けてはいただけませんか?」
圭は田村に改めて言われ、今度は本当に思考してみた。
もし、これに対する答えで圭が解放者であるかどうかを指標してくるとしたら……どうだろう。
演説してきた解放者の目的を探るため、コントラクトと関係のない圭に近づいてくれるか、という提案。
本物の解放者として正体を隠しながら田村と接近しつつ、ただの圭はスマホを持っていないという設定で田村とやり取りしつつ、偽者に近づく。
普通に考えれば、こんなことをすれば田村に正体を掴まれる可能性がぐっと上がってくる。であるならば、維持でも断るのが得策だろう。
だが、そうやって断れば、圭が解放者であるという疑いは田村の中で消えることはない。むしろ、解放者としての可能性が高まる。であるならば、あえて提案に乗っていくほうが、怪しまれずにすむ。
だが、こういったことを抜きにして、関係ないのに面倒なことにメリットなしに首を突っ込むかと言えば、それはそれでどうだろうか。ここで、メリットもないのに提案に乗るのは、それはそれで解放者っぽい……か。
「……メリット次第ってところですかね……。確かに、コントラクトを持っていない俺からすれば、たいしたリスクを負うことなく近づけるのかもしれない。でも、厄介事であることに、変わりはないですよね?」
田村から見た圭の評価は頭の回転がいいやつということになっているらしい。であるならば、これぐらい食い込んでもキャラは崩れまい。
「……メリットですか……。圭くんはなにか望みでも?」
「それは先輩が合わせて提案してくださいよ。俺に行動してもいい、と思わせる提案を」
田村はついにしばらく黙った。そのままチラリと次郎の方に視線を向け、再度圭のほうに向ける。
「分かりました……。しかし、すぐに提案は出てきません。わたしから持ちかけておいてなんですが、後日改めてお話することできますか?」
「いいですよ。待っています」
そう返すと、田村は最後に礼をし、席を離れていった。
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