第9話 切り替えは重要

 契約が終わりあの場では解散した。

 本来ならばあそこで打倒キングダムに向けて打ち合わせという流れもよかったのかもしれないが、田村がそれを断った。

 まだ準備中、これも準備のひとつだと、そう言っていた。


 もちろん、そのセリフを聞いた後すぐ、圭にプレッシャーをかけるためだけにこのような行為にでたのではと、考えはした。だが、契約は絶対だ。田村がキングダムを打倒するため動くことに変わりはない。


 それに、あくまで協力したいと言ってきたのは向こう。であるなら、再び向こうからまた接触してこようとするだろう。その時、合わせればいい。

 それまでは、こちらで出来ることをしておく。


「あっ、これうめぇ」

 と言いつつも、圭は次郎と昼休み、フライハイトでメシを食っていた。


 圭はいつもどおり、卵サンド。対して次郎は新発売のサンドイッチをほおばっていた。そのガッツキ具合からいって、本当にうまいのだろう。


「なんだよ、その顔? お前も欲しいのか?」

 圭は次郎の言葉に対し、首を横に振った。

「いや、全然」

 そうして卵サンドにかじりつく。


 例の真の王がらみの話について説明しておくことといえば、進展なしの一言だ。あれから、LION越しでいろいろ話したが特に得られるものはなかった。


 仮の王も田村も、真の王の顔走らないし、影武者のことは離せないときていたのだ。正直、ここまで真の王の情報がブロックされているとは思っていなかった。

 順当に行けば真の王にたどり着けると思っていたが、そう甘くはないらしい。


 今わかっていることとしたら、キツネの仮面をかぶった女子生徒というだけ。遠めだったので、下手すれば女装した男子であったとしても、見分けがつかない。

 この情報だけでは、特定はできなかった。


「にしても、いっつも卵サンドだな。そんなにうまいか? ってか、飽きないか? そのうち、卵になってしまうぞ?」

「なるか!! ったく、別にいいだろ?」

 思わず手に力が入り卵サンドを押しつぶしてしまう。溢れかけた中身の卵をかじりにいった。


「見てるこっちが飽きてきたんだよ。お前、知ってるか? 最近、卵サンドみたいな顔になってきてるぞ」

「どんな顔だよ!? 卵みたいならまだしも」


「いやぁ、そりゃね。こう、直角三角形で」

 次郎が顔の前で手を使ってサンドイッチの型を取る。

「それ、カツサンドやチーズハムサンドみたいな顔も同じじゃねえか? ってか、んな器用な左右非対称顔になってたまるか!」


 次郎の強引なボケにツッコミをしっかり入れつつ、卵サンドをかじる。ついで直角三角形の顔になってないことを確かめるため、顔を触って輪郭を確認しておいた。


 にしても、次郎。こいつだってついこの前、直接ではないにしろ、仮の王とのゲームに巻き込まれていた。なのに、本当に何もなかったかのように振舞っている。

 無論、切り替えができないようなら、周りに疑われる。それにもし、そんな切り替えも出来ない奴なら、解放者のメンバーにしていない。


 次郎の力も買って一緒に闘っているのだから、それでいい。それでいいのだが。


 どうしても、次郎が二重人格なんじゃねえか、なんて思ってしまったり。それもこれも、次郎が本当はどちら側の人間なのか、はっきりしないのが原因か。


「なに暗い顔してんだ? なんか怖いことでもあったか? 危険なギャンブルでもしてきて、疲れたりしてたんじゃないだろうな?」

「……!?」


 思わず、ぐっと視線を次郎のほうに向けた。だが、その反動で落ちかけたサンドイッチの具を手で押さえ口に運ぶ。

「いやぁ、それはないな」

 圭は笑って答えた。


 危ないところだ。変に次郎のことを疑いすぎて、逆に圭が解放者としての自分と切り替えがしきれていなかった。

 自分がそれを怠ってどうするんだよ!?


 しかも、それを次郎によって悟らされた。

 次郎は特に表情も変えることなく、中庭に視線を落としている。本当にこいつは友人で、心強い仲間だ。

 たとえどういう状況でも、そうであることには変わりはない。


 そう、どういう状況であろうと。


 そう思って、圭は中庭セカンドパティオを眺める次郎に顔を向けた時だった。その次郎の後ろに立っている人物がいた。その人物が人物であっただけに、圭の視線は動かさざるを得なかった。


「……こんにちは、田村先輩」

 まぁ、近々来るだろうと想定していた。驚くことは何一つとしてなかった。ただ……少し前、オセロをやった先輩と再開しただけ。


 問題は次郎がどう反応するかだ。だが、次郎のことを考え変に避けて、声をかけられるのを待つよりは、こっちから仕掛けたほうがいいと踏んだ。


「こんにちは。また、会えましたね」

 そう言って田村はさっきまでいじっていたスマホをポケットに入れて、こちらに視線を向けてきた。


 突然の状況にハッ後ろを振り向くのは次郎。田村と次郎、視線が合う。

 しばらくその状態で硬直。そして田村零士は、不敵に笑っていた。

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