第6話 探り合い
森と田村がいる教室の前まで来た。窓から覗き込むと森と田村が無言で向かい合っている姿が映る。
俺がドアを開け教室に入ると二人の視線が圭の方に集まった。
「やぁ、ボブさん。お久しぶりです。会いたかったですよ」
「そいつはどうも」
一発殴ればどれだけスッキリするだろうか、そう思える笑みを田村は浮かべ圭をお出迎えしてくれる。
さらに圭は森と仮面越しに視線を一度合わせる。圭は森の手に握られた圭のスマホを手に取り、田村の前に立った。
「もう既にお前は分かっているようだからはっきりと自己紹介させてもらうぞ」
圭の言葉に田村は広角を釣り上げる。
「俺こそが解放者のリーダーだ。そして、お前が協力したいとメッセージしてくれた仮面ファイター5103でもある」
そう言ってスマホを顔の横に持ち上げた。
「はい。知ってました」
田村はそう言うと一歩圭に近づいた。
「元から、君に向けてメッセージを送ったんですから」
田村が圭の顔を覗き込もうとしてきたので、慌てて仮面に手を当て後ろに下がる。
だが、田村は不敵に笑う。
「大丈夫ですよ。仮面を取って素顔を見ようだなんて思っていませんよ。それに……もしわたしが強引に取ろうとしても助手の彼女がわたしを全力で止めに来るはず。逆もまた然り。
アリスさんを先に寄越した理由は、この状況……すなわち、二対一の状況を作り出すためでもあったんでしょうね」
そう言いながら田村は椅子を並べ始めた。ひとつの椅子と二つの椅子が向かい合うようにセッティングされる。
「本題に入るまえに、まずは座りましょう」
圭と森、互いに顔を合わせ頷くと椅子に座り込んだ。
「さて……もう内容はご理解頂いているでしょうけど、改めて。わたしはあなた方解放者に協力したいと思っています。
と言っても、それだけでは納得されないと思います。たぶん、君たちはわたしに質問したいことがあるはず。何でも聞いてください」
まぁ、こうなるだろうことは想定していた。
少なくとも、あの田村だ。一方的に「わたしを信用してください」なんて臭い文句を言うことはなかっただろう。
可能性として、自ら信用させられるネタを持ってくるか、こうやって質問させるかのどちらかであったはずだ。
「まず、端的な質問だが、協力するのは俺か? それとも解放者か?」
「解放者ですね」
「……であるならば、アリスとボブ含めてということか?」
「いいえ」
いいえ? どういうことだ……。
しばらくじっと田村の次の言葉を待つが返ってこない。
「ちっ……いいえとはどういうことだ?」
「解放者というグループに対してです。各個人に協力するつもりはありません」
「……なるほど」
田村の言葉を頭でしっかり整理しながら次の質問の候補を出す。そして絞り込み……。
「協力するというのはどういう意味だ?」
質問したあと、しばらく待ってから田村が口を開く。
「といいますと?」
まどろっこしい。
「解放者に従うという意味か? 解放者の目的に手を貸すという意味か? それ意外ならどういう意味かと聞いている」
そこで田村は少し考える動作をした。
「そうですね……目的ですね」
そこまで来て、圭は一度こめかみへ手を当てた。頭を横に振って気持ちを抑えつつ、田村と向き合う。
「もう少しいろいろ話せ。質問に対する答えが短調すぎる」
「わたしは質問に対して答えを出しているだけです」
「それがダメだと言っている。一を聞いたら十を話せ」
少し食い気味に圭が言うと、田村が体を前に傾けた。
「それは、君の質問しだいですね」
「あぁ? どういうことだ?」
「君がした質問にわたしが答えたいと思えるようなものがあれば、いくらでも喋ります。君がわたしに探りを入れているように、同時にわたしもまた、あなたに探りを入れているんです」
身を乗り出す田村に対して、圭は椅子にもたれかかった
「……それはまるで……今、すべてをさらけ出すことはできないと言っているように聞こえるが……。いや、それどころか、お前もまた、俺のことを信用していないというように聞こえるが?」
「当然ではないですか」
「……はぁ?」
あまりに想定外の言葉に本音が漏れてしまう。向こうから協力したいと言っているのにこの言い方はおかしいだろう。
当の本人、田村は圭の反応が良かったのか広角をぐっと釣り上げている。
「だって、わたし。今でもキングダム側の人間なんですよ? わたしは今なお、キングダムの支配下にあるんです。この立場関係にあるのならば、慎重になるのは当然でしょう。
下手なことはそもそも、キングダムの契約によって話すこともできないですし」
そう言うと、田村は森のほうへ視線を移した。
「しかし、アリスさんというわたしと同じ境遇でありながら、解放者についている者を見て、わたしもそちら側につくことができると考えたんです」
圭は目を閉じぐっと思考に意識をさく。周りの情報に流されず、田村の言葉のどこが正しくてどこがおかしいか、しっかり判断を重ねた。
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