第11話 仮の王たちのイカサマ

「スリーペアは……ツースリーのひとつ上の……役だ」

 仮の王がそう宣言する。


 ツースリーは仮の王と田村ペア。そして、

 スリーペアは圭と森ペア。


 すなわち……。


「「『……勝った……』」」

 圭と森、どちらもただその一言のみを発し、一気に力が抜けきっていた。おそらく、次郎も……。


 緊張の糸が一気に切れ、完全に椅子へもたれかかる。森もまた、机に肘をつき、頭を押さえ込んでいる。


 なんとか……勝利……。実に運要素が大きい勝負だった……。本当に……ひたすらに……運がいい、自分でもそう思う。


 しかも、最終的にチップは131対99。差は32。これによって……条文を三つ要求することができる。


「では……契約を結ばせてもらいます」

 森は自分のやるべきことをするべく、動き始めてくれる。仮の王に顔を向け……あらかじめ決めていた要求を伝える。


「まず一つ目の要求は集団契約の解除に対し同意をしてもらうことです。王による解除の意思が来た場合、必ず同意してもらいます。

 

 二つ目はグループ:キングダムの組織において、あなたから見て『上の立場』となる人物の情報を開示することです」


 とにかく、この二つは最優先事項だ。

 これが一番の目的だったのだから……。あとは……


「あとは……ここで起きたことを発信及び口外しないことを約束してもらいます」


 それが……妥当なところだろうな。圭が口をはさむ必要はなさそうだ。あくまで、解放者という存在は秘密にしてもらいたい。

 とにかく、これで相手は拒否する権限もないのだから契約は成立だ。森がエンゲーム契約を改正し始めた。


「しかし……なあ、あんたら、イカサマしてたよな?」

 どうしてもこれだけは我慢できず、圭は口にしていた。


「ん? なんのことかな?」

「今さらとぼけるな。お前らはお互いの手札の中身を知っていたおろか、こっちの手札まで読んでいたんだろ?

 その証拠に俺が手札を隠した途端、フォールド以外でゲームに勝てるようになった。さすがに不自然に思えるんだが?」


『あ、あれ作戦だったんだ!?』

 遅いよバカ。


「たかが八戦だよ? 偶然だとは思わない?」

「本当にそうか?」

 仮面越しで、できる限り低いトーンで仮の王に詰め寄る。だが、仮の王はそれに動じることはなく、笑ってみせる。


「知りたければ、契約条文に答えるよう書いたらどう? どれか条件一つをあきらめて」

 それは無論、論外だし、相手もそれを飲んでくるなど思ってもないはずだ。くだらないセリフを吐いてるだけか。

「俺は可能性として隠しカメラかと思ったが? 違うか?」

 もし、違った場合を考慮して次郎買収の可能性はあえて伏せるが……。


「さあ、どうだろうね?」


 どうにかして聞き出したいんだがな……。

 まだキングダムとの戦いは終わってない。このゲームが王によって作られたゲームなら、そのイカサマ方法も知っておきたいのだが……。


「ああ、そのことで気になっていたんだけど……」

 森は契約条文を作りながら突如発言し始めた。

「トランプの裏を執拗に見ているように見えたのは気のせいでしたか?」


 トランプの……裏?


「裏? そんなの視線をごまかすためだよ」

「否定はしないんですね。ってことは……もしかして……トランプの裏に仕掛けがあるとか?」


 森がそういったとき、一瞬相手の表情に変化が起こったのを圭は見逃さなかった。田村はその横で不敵な意味をより大きくしている。


「アリス……それはいつから気づいていた?」


「最初のほうからかな。でも、それは相手の言うとおりカモフラージュかと思っていたけど。こっちは仮面かぶって表情を読めないからその代わりにって感じで。

 でも、明らかに不自然な言動が……ゲーム中にあったよね」


 そう言って森は仮の王へぐっと顔を近づけた。

「なにが遊○王ですか。あの時はくだらない話だと思って強引に打ち切らせてもらいましたが……、あとで冷静になったら、どう考えても話を逸らしたようにしか思えなかった。


 であるならば、なぜ手札の二枚を裏向きで並べて机の上に伏せていたか……。それはトランプの裏になにかしらの仕掛けがあったから。

 互いに見えやすいように、並べて置いていた。


 しかも、あたしたちは手札を上に持ち上げていた。であるならば、その仕掛けで、あたしたちの手札まで透けていたのでは?

  実際、手で隠したら、読まれなかった」


 そこまで言うと、今度は圭のほうに向く。

 

「ボブが意図的に手札を隠しているのを悟って、そのトランプの裏の仕掛けがあるのかも、という思考になった。ていうか、てっきりボブの作戦が、その仕掛けを看破し、裏を読まれないようにするためだと思ってたけど」


 圭は全然気が付かなかった。

 とにかく、相手に情報を漏らさないことを一番に考えていた。


 ゲームの勝利方法と相手のイカサマ方法を考えるのに神経を集中させすぎていたというわけか……。

 相手の動きの観察を……肝心なところで怠っていた……。


 そう思いながらゲームで使用されたトランプの裏を何枚か見比べてみる。トランプは非常に複雑な模様が施してある。もしかしたら……この裏にトランプの中身が分かる記号が仕組まれているのかもしれない。


 むろん、知らない圭たちには簡単に見つからない違いが仕込まれている、と言うことか。いわゆる手品用トランプの可能性があったわけだ。

 でも、もしそうならそれで納得だ。手札を持ち上げれば裏の記号を相手に読まれる。逆に重ねて隠せば裏も読まれない。


 できれば記号とランクスートの組み合わせも教えてもらいたいところだが、それを命令できる権限はもうない。トランプのイカサマである可能性が高くなった、と言うだけでもいい収穫だったということにしておこう。

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