第10話 最終回、八ラウンド

「そうか……そういうことか……」


 森が圭を見てそう呟く。

 ついに……圭の策を……理解してくれたのか?


 確かに、さっきのゲーム、今までにはない勝ち方をした。今回、お互いツーペアで数字も近いという接戦を制して勝ったが、今まではそんなことはなかった。


 なぜか、それは相手がこちらの手札を知っていたから。本当ならあの勝負相手は降りていたはずなのだ。だが、情報が森の手札だけだったので、このツーペアを読み切れなかった。


 これで気づいてくれたのか……。

 いいね、まだ、チャンスはありそうだ。


 圭は丁寧にシャッフルをし始めた。カードの端をしっかり抑え、束を整えつつ、シャッフルを続ける。


「落ち着いてね。ゆっくりでいいよ。もちろん、失敗してもちゃんと拾ってあげるしね」

「……ご丁寧にどうも」

 仮の王のアドバイス通り、丁寧にシャッフルをさせてもらった。


「カットお願いします」


 そう言って圭は田村に束を差し出した。

「承知しました」

 束を二つに分け、下を上にする。


 それを受け取り、カードを配るため、上の何枚かを触る……。


「では……八回戦目、最終回だ。まず、カードを配る」

 圭は素早く全員にカードを行き渡らせた。


 その間注目していたのは森の手。森は、受け取ったカードを素早く受け取ると手で隠す。そして二枚目を重ね、両手で完全にカードを覆った。


 圭はとうぜん、自分のほうのカードも、肘や体の影で隠しながら配り終える。

 来た。これで相手に情報は完全にわたらない……はず。


 だが……、それは同時にお互いの手札がまるで分からないという状況でもあった。奇しくも圭たちが立てた作戦が自分たちの首を絞めた挙句、最終的にこちらだけ本当のタッグポーカーのルールで戦うことになったわけだ。


 まあ、はっきり言って不利だな。相手はおそらくお互いの手札が分かっているのだから。でも……まだ、勝負は終わっていない。

 コミュニティカードを三枚オープンし、その後、自分の手札を完全に隠した。


『おい、どうした二人共!? 手札分からねえぞ。伝えられねえって』


 未だ理解していない次郎(バカ)を無視し、場を確認。


 コミュニティカードは、クラブQ、スペードQ、クラブ8。

 公開カードでワンペア。


 続いて、自分の手札を確認。

 一枚目はダイヤ10、そして二枚目は……。

 ふっ、来た……。


 悪魔のカード。ネイティブのとき、痛い目を見たカード。だが、今ここでは最強のカードとなる……。そう……ワイルドカード、ジョーカー。

 現時点で……スリーカード。


「では、ファーストベット」

 圭はまずUTGである仮の王に手を伸ばした。仮の王は机に伏せられた二枚のカードを見て、無表情に手元のチップを手にとる。


「レイズ三枚」


 マジか……。レイズ三?


 ファーストベット上限五枚をいきなりぶち込んできやがった。しかし、大して怖くはない。こっちはジョーカー込みのスリーカードだ。勝負は絶対にできる。


 圭は迷わずコール。田村は一瞬考え込む動作をしたあと、コールといって、五枚をポットにいれた。

 それに対し森も「じゃあコールで」と全員五枚で勝負が成立した。


 続いてカード交換。

 まず田村は一枚のみ交換を果たした。


 この時点でブラフじゃなければ、田村の手札の一枚はクイーンか、8の可能性が高い。クイーンのスリーカードであれば、現状互角だ。……キッカー※で決まる。


※キッカー:役を作る上で余るカードのこと。クイーンのスリーカードである場合、このゲームだと、残りの四枚がキッカー。

 どちらもクイーンのスリーカードとなった場合、キッカーのランクが高い方が勝つことになる。


 森は二枚交換。


 続いて、仮の王。彼女は……一枚交換。


 って、ああ? どういうこっちゃ……まさかフォーカードの可能性が!? たしかにいま圭の手札にはクイーンは一枚もないけど……。


 ディーラーである圭が仮の王に一枚を渡しながら、思考する。


 いや、……そうだ、二人は情報を共有し合っている……、相手の手札交換で新たにペアが揃ったというわけだ……。うん、それでも最低、ツースリーか……強いな……相手も。


 ツースリーかフォーカードか……。どちらにしても、スリーカードのままでは勝負にならないか……。


 いや、大丈夫、ジョーカーがこっちにあるんだから……なにか派生してくれる。とにかく、圭がいまできることはこのジョーカー以外のカードをチェンジすること。

「一枚交換で」


 ダイヤ10を捨て去り、一枚引く。さあ、こい、こい、こい。手札は……


 ダイヤ……の……7……。残念進化せず。むしろキッカーが退化。


 いや、まだ! まだ! 森、お前の手札はなんだ!?


「ではセカンドベットへ」

 冷静を装い、ゲームを進行。


 今度はSBの田村からベッティングが行われる流れ。


 さて、やつはどう出る……正直言って、相手の手札が強いことに変わりはない。であるならば、強気な勝負にでるか……。


「ベット三枚」

 変に強気に出て、負けたら逆転される。余裕を持って絞ってきたか……。


 続いて、森と仮の王、どちらもともにコールした。


 そして、圭の番……だが……。

 弱気になったところで……意味はない。ここは思いっきりベットするしかない。なら……目標の数字にするために……必要なベット数は……。


「レイズ四、七枚!!」

 さあこれでどうだ!


「レイズ三枚!」

 田村はこっちが放った渾身の一撃に対して間髪入れず上限いっぱいの十枚をポットにぶち込んできた。

 そして浮かべる不敵な笑み。

 

 こいつ……それは脅しか? こっちにフォールドでもさせる気か? 


 森はそんな脅しにばっちり引っかかってくれたようで、萎縮していた。

「……冗談でしょ? いくら最終戦だからって張りすぎじゃないです?」


 森は手元に有るチップを震える手で握り締め、圭のほうへ視線を寄せてくる。

「……」

「……」


 会話はしない。ただ、黙る。

 だが、森は思い切ったようで、正面に向き直ると高らかに宣言した。

「コール!」


 チップ十枚が森の右手で押されポットの領域に入り込んでいく。


 ああ、そうだ。この状況ではもはや勝負するしかない。ここで勝負しなければ負けを認めるも同然だ。


 どうせなら……己の運を信じてあがいてみよう。それが解放者である圭ができること。ただ、自分と仲間を……信じてベットするだけ。


「わたしもコール」


 こうしてポットには六十枚貯められた。最高数であり、このゲームの勝敗でチップが三十枚動く。間違いなく、この一戦の勝者がこのゲームの勝者となる。


「さあ、最後の……ショーダウンだ」


 圭が掛け声を放つ。それと同時に隠された四人の手の中にある圭十枚のカードが公開される!


 まず相手の役は!? ……クイーンが一枚田村の手札に……スリーカード……そして……仮の王と田村、それぞれの手札にランク2のカード……。


「くっ、ツースリー……」


 ……フォーカードよりは下だが、スリーカードより一段強い役だ。予想通りの役……これを越えるにはスリーカードでは絶対ダメ……。


「俺たちの手札は……?」


 恐る恐る、森の手札に視線を寄せていく。その二枚の手札は……一枚目は……スペードの3……違う、これじゃない……二枚目は……ハートの……7。


「ん? これって……」

「「「ジョ……ジョーカー……」」」


 三人揃って圭のジョーカーに視線が向けられる中、ひとつの役が頭の中で組み上がる。


 コミュニティカード、クラブQ、スペードQ、クラブ8

 圭のホールドカード、ダイヤ7、ジョーカー

 森のホールドカード、スペード3、ハート7


 コミュニティカードのクイーン2枚。圭と森の手札にある7のペア。そして……ジョーカー……とクラブの8でペア。3のキッカー。


「スリーペア……。これって……」


 普通のポーカーではありえない役なので上下関係が今ひとつピンと来ない。

『おい……この役……』


 次郎もイヤホン越しに疑問を投げつける中、圭と森は仮の王に視線を送りつける。対して仮の王は目を真ん丸にしながら呟いた。


「スリーペアは……ツースリーのひとつ上の……役」

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