第9話 幸運
次は森の手番。それはもう、森に任せるしかない。
「交換は……」
森は自分の手札を見ながら考え込む。視線は一点、圭のほう。
『ボブ? いい加減にしろよ……。アリスは……どう動けばいい!?』
「二枚で」
次郎がイヤホン越しに怒鳴る中、森は二枚を差し出した。
『……どう考えても最悪の手だろ……これ』
次郎の声を聞きつつも、アリスが来たカードを見る。
『うん? あっ、来た! クラブ5とクラブのキングだ! ワンペア!』
……キングっ!?
その次郎からの通信で、自分の手札を思い返した。さっき受け取ったとき、軽く見てそのまま伏せた二枚のカード。
それは……
スペードの3と”スペードのキング”。
ツーペア……しかも、Kハイ。ブタから……一気に進化しやがった……。
仮面の裏で笑み溢れるが……まだだ。最後、仮の王の交換は?
「わたしは一枚だけ交換するよ」
そう言って仮の王は一枚を切り、山歩だから一枚引いた。
田村と仮の王……どちらも一枚交換か……。最低でもツーペア……。やはり……この役で浮かれるわけにはいかないな……。
「では、セカンドベットを」
セカンドベットは圭から……。
どうするか……。
もし、相手もツーペアならこの勝負はほぼ勝ちだろう。こっちはKと5のツーペアだ。Aハイのツーペア以外なら勝てる。
だけど、この交換の仕方だと、スリーカード以上もあり得る……。
対してこちらはふたりとも二枚交換、全取っ替えだ。もし、カードをのぞき見できていないなら、この全取っ替えからツーペアになると予想はしづらいだろう。
ひとまず、弱気なアクションを出してみるか……。
「……チェックで」
続いて田村。
「チェックですか……そうですね……」
田村は自分の机に並べる裏向きのカードを、仮の王の前にある二枚の裏向きカードを高度に見た。
「ベット二枚」
……二枚……随分と弱気だな……。もっと張り上げてくると思っていたが……。いや……仮の王に判断を委ねたか。
そして、森。
『なあ、これってどうなんだ? やっぱり、フォールドすべきじゃ……。この二枚、どう考えても誘ってきてるだろ? フォールドさせないために』
森は思考を重ねる動作をしつつ、仮の王に視線を向けた。
「……ジュリエットさん」
「うん、なに?」
「ゲーム終了後にできる契約条文の数って、チップ差で決まるんですよね?」
「えぇ。十枚差につきひとつという契約よ。つまり、百枚VS百三十枚で勝負が決まったら、勝者が三つ契約条文を設定できる」
森は仮の王に質問したあと、すぐ圭のほうへ視線を向けていた。一応、それにさりげなく応えるべく、圭は自分が持っているチップに視線を送り、少し触る動作をしてみせる。
「今のチップ差は……52……ですよね? わたしたちが負けてる」
「う~ん……と、たぶんね」
そこまで会話したあと、森は仮面越しに手を顎に当てた。そして……「ふっ」軽く笑いをこぼす。
「ボブ……このままじゃ、どのみち負けるね」
唐突、圭に対して言葉をかけてきた。
「あぁ、そうだな」
「……なら、足掻くしかない。コールで」
『お……おい』
森の手で二枚、ポットに入れられた。
そして、仮の王の手番。
ここでの選択肢、コールかレイズか。
圭なら……レイズか……。何しろ、こっちは全取っ替えしているんだ、畳み掛けるなら、ここしかない。
だが、田村は2枚で抑えていた……この意味が……。
仮の王が、さっきの会話をどう捉えるか……だな。
弱気でのイチかバチかのコールだったか、仮の王たちを乗せるためのコールだったか。そして、彼女らの手札の役は……なんなのか?
可能性として挙げられるのは、ツーペア、スリーカードあたり。
……レイズ以外の選択肢、なさそうだぞ、おい! まずいな、それはきつい……。
「コール」
……えっ?
「これにてベッティングを終了」
仮の王は淡々とゲームを進めていく。
レイズ……しなかった? いや、まあいい。結果だ……。
「いいね? ショーダウン」
仮の王の合図とともに、全員の手札が一斉に開かれた。
圭たちのチームの手札はクラブキング、スペードキング、ダイヤ5、クラブ5のツーペアだ。
対して相手チームは……ハート8、ダイヤ8、ダイヤ2、ハート2のツーペア。……ツーペア!?
あっぶねえ……ランク差でぎりぎり……圭たちの勝ち。
「よ……四枚全部交換で……ツーペアですか」
田村が圭たちの役を見て声を漏らす。だが、そこに仮の王がやたらと鋭い視線を見せてきた。
田村はそれに素早く反応しては、不敵な笑みを浮かべる。
「これは……失礼しました」
……この田村の反応、そして仮の王の牽制……。
やはり、圭の手札の情報が漏れていなかったのか? いや、元々漏れていなかったら話は別だが……、でも序盤を見る限り、漏れていた可能性はやはり高い。
実際、圭が手札を隠し始めたことで、ランク差で勝てる勝負がでてきているんだ。
そして、さっき仮の王がレイズしなかったのは……圭の手札の情報が不確かだったから……下手にレイズして逆転されるのを危惧した?
さて、ここでチップ12枚が圭たちのチームに流れる。これで101対129、残りチップ差、28枚。
次のゲームで十四枚勝てば同点、24枚以上勝てば……目標の二十枚差にすることができる。厳しいが……まだ可能性は残っている。少なくとも同点だ。
次、最後のボタンになる圭が山札を回収しているとき、森はこちらに向いてひそかにつぶやいた。
「そうか……そういうことか……」
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