第8話 泥沼の悪手

 大きく息を吐きカードを伏せたまま、カードを中央に集めた。ちなみに圭のホールカードはクラブ9、クラブQ。ただのブタだ。つまり、完全なブラフ。


 ともかく、これでチップ七枚が流れる。その差は52になった。

 現在、89対141で負け越し


 シャッフルする次のディーラー、仮の王をよそに、得た情報をまとめる。


 今回、手札を隠しながら行った。それによってブラフは読まれなかった。もし、こんなクソ手札が見られていたら、相手はほぼ勝負に乗ってくるだろう。


 相手は手札交換から察するにワンペア以上はそろっていたみたいだし、間違いない。だが、結果はフォールド。


 もちろん、イカサマがばれるのを恐れて敢えてフォールドした可能性もあるだろう。だが…その可能性は低いとみている。


 少なくとも圭が今までと違う動作をしたことに対して何らかの疑問を持ったことだろう。特にイカサマ対策をしだした、というぐらいには。


 それに対してもし、まだ情報が遮断されず相手にわたっていたとしよう。


 次はもっと対策を施されて情報が完全に遮断されたら、この後いい役が作れなかったら、そんな可能性を考慮すれば、ここで勝負して大量にチップを得た方がいい。


 そこでイカサマがばれても、イカサマが発覚したらゲームを中断できるとかいう契約は作られていない。


 イカサマの対策がされて、そこから情報が遮断されても残りはたった二戦。ここで大勝しておけば、逃げ切るのはそう難しい事ではない。


 よって……カードを重ねて見えなくするこの対策は有効であるとみた。


「ブラインドベットを」

 仮の王がゲームを進める。


 この対策を参考にしながら、七戦目をスタート。


 手札が配られる。

 コミュニティカードは……ダイヤ8とダイヤ2、そしてダイヤ5。すべて同じスートか……。


 SBが圭でBBが田村なので、UTGである森からベットが開始される。とにかく、圭の策に気づくよう念を森に送った。


 が、残念ながらまだ森は圭の意図を察してくれてはいない。


 しっかり手札を持ち上げて、カメラを通している。やはり……敵に情報を与えてでも、さっきの圭の手札を森に見せておくべきだったか?

 いや、見せたところで「ブラフをかけたのか」程度に思われるのが落ちか……。


『おい、アリスの手札はクラブジャック、ダイヤ6だ。そっちの手札はなんだ? 見せろよ。そっちの手札二枚が347のどれかだったら、ストレート作るチャンスだぞ? ダイヤならフラッシュだ!


 手札はなんなんだ? アリスもこれじゃ動けないだろ』


 いい加減察しろよバカどもが。こっちが執拗に手札伏せている意味を理解してくれ。


 だが、そんな思いはむなしく散る。ちなみに今の圭の手はハート10、ハートK。現状はすがすがしいほどのブタである。ストレートもフラッシュもくそもない。


「……コール」

 森は個人の意思で二枚賭けを選んだ。まあ、様子見の一手か。


 ここは無難にいくのがベストだろう……。この手札ならフォールドしたほうがいいかもしれないが、残り一戦で逆転できる保証はない以上、とにかく勝負に挑むしかない。


 だが、森の次の手番、仮の王の口からこう放たれた。

「レイズ二枚」


 思わず仮の王に視線が向けられてしまった。だが、慌てて顔を元に戻す。とんだポーカーフェイスだ……。


『おい、どうするつもりだよ?』

 耳に次郎の声が聞こえてくるが無視。


 ここはどうするか……。無難な選択肢……というよりまともに選べばフォールドするべきだろう。


 ……ここでフォールドすれば……損失は圭が払ったSB分1枚と森の2枚……計三枚のみ。

 だが89対141、差は52。最終戦で最低の同点にするには、二十六枚勝たなければならない。


 しかし、同点では意味がない。こちらの条文を作るためにも最低十ポイント差、できたら二つ要求したいので二十ポイントの差が欲しいところ。


 それを満たすには三十六枚勝たないといけない。一戦では不可能な数字だ。欲におぼれれば負けるかもしれない。

 でも……一戦で二十六枚勝つのも厳しいだろう。勝つためには……。


「……コール」

 とんだ悪手を選んだ。こっちの運と相手がブラフであることを信じての一手。


 全員がチップ四枚でコールが終わると、圭から手札交換が始まる。

 だが……ここはどう動くべきだ?


 コミュニティカード、ダイヤ8とダイヤ2、そしてダイヤ5。

 圭のホールドカード、ハート10、ハートK。

 森のホールドカード、クラブジャック、ダイヤ6。


 ストレート狙い……、それともフラッシュ? 無理だ……どう考えてもそれは無謀……。やはり、どう考えても……二枚交換しかないか……。

 さっきから、この一戦、間違いなく泥沼のパターンだな……。


「二枚とも交換で」

『はぁっ!?』

 次郎は容赦なくイヤホンに大声を放ってきた。


 二枚交換をした圭に対し、次郎がイヤホン越しに抗議を重ねてくる。


『おま……どういうことだ!? もしかにて、完全なブタなのか? ストレートもフラッシュも狙えないのか? でも、さきコールしたのか?

 訳分かんねえよ、お前のアクション!』


 次郎の声が次の田村に聞こえるはずもなく、田村もまた、淡々と交換。一枚。


 一枚のみ……。やはりワンペアがそろっている状態か。

 いや、そうじゃない。レイズを仕掛けたのは仮の王。


 ということは、仮の王の手札とコミュニティカードを合わせた時点でワンペア……レイズしたのだから、おそらく8。


 そして、田村もまた、一枚交換……、ってことは最低でもツーペア……。


 いや、待て待て待て!!

 そもそも、こいつらは互いの手札を共有し合っている可能性が高い。仮の王は田村の手札まで考慮した上でレイズをかけた可能性もあるんだ。


 もちろん、それをすることは、手札の共有の裏付けとなる。だが、ゲーム終盤、バレたところでたいした影響はない。むしろ、それがバレている前提でレイズし、圭たちを混乱させようとする手だって……。


 変に今の情報を鵜呑みにするのはダメだ……もっと、幅広く情報を見直さないと。

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