第2話 俺は……

 あれから日々が過ぎ、土曜日。


 圭はひとり、ショッピングモールに足を運んでいた。念のためガラケーで現時刻を確認。ガラケーのデジタル時計が示す時刻は十時過ぎ。やはり休日とあってかなりの人がモールで賑わっていた。


 そんな中で、圭はまず百均に寄った。


 さすが百均と言ったところか、本当に様々な商品が並んでいる。この中にある道具をうまく使えば、なにかしら面白いことも出来るのかもしれない。

 だが、ほかの商品には特に目を移すことはなく、ただ黙ってパーティグッズがある商品棚に向かっていった。



 買いたいものを購入。レジ袋をぶら下げて今後はフードコートに向かった。

 フードコートの壁に掛けてある時間を確認。十時半。まだ昼食には早い時間帯ではあった。が……。


「まいったな……。もう、ここまで人が居たか」


 圭の予想では人がゼロであることはないとしても、まばらに人が席にちらついている程度だろうと思っていた。だが、この時間帯でも結構な人がフードコートに賑わっていた。


 圭が住んでいる場所、学校は割と田舎町といったところ。そこから電車とバスを乗り継いで三十分ほどのここであっても、都市部には届かない郊外。


 だが……いや、だからこそというべきか。大きな敷地に建てられたこの大きめのショッピングモールは、土日という条件も合わせると、どこも人でごった返すというわけだった。


「まあ、だからこそ、ここを選んだんだ……」

 このフードコートに人がたくさんいることはさして障害ではない。むしろ、それを望んでいたのだから問題ない。


 だが、圭に本来の意図としては、早めに来て話し合いに有利な席を取っておく。そして、人だかりが多くなる時間帯で話し合いをするというものだった。



 しばらく、フードコートの中を歩き回る。まだ、さすがに空いているテーブルはあるが、望むべき場所は埋まっている状態か……。


 やはり、人がよく歩く通路沿いの席は避けたい。そして、店の前も避けたいものだ。人がじっと立って待つ場所になる。

 やはり、窓際か……壁際。はやり角がいい。


 そう思いつつ、一つのテーブルをターゲットにした。一組のカップルが座っている席。半分以上なくなった料理を見るに、早い段階に来て、混む前に食事を済ませようとしていたのだろう。


 であれば、席を立つ時間もそう遠いことはない。見張るか……。


 ターゲットの席をこっそり見えつつ、適当なテーブルに座り待つことにした。


 合わせて、周りの人だかりをチェックする。これだけの人だ、そうそうな動きをとっても目立つことはないだろう。周りにいる人のうち、圭のことを認識している人物など、ほぼほぼゼロといっていい。


 だが……用心にこしたことはない。最悪なのは、知り合い……ないし、学校で面識のある人物にこれからの会話を聞かれること。それだけは、絶対に避けつつ、今回の話を進めることになるだろう。



 本を読みながら、そっとターゲットの席を見張っていると、テーブルに居座るカップルに動きがあった。


 食事を終えたところから、注意して見ていた結果、しばらく会話をしたあと、女性のほうが、カバンの口を閉じ始める。男性のほうは、女性の分の皿を自分の器に乗せて重ね始めている。


 これはそろそろ席を立つと判断し、圭は先に立ち上がった。直線的に向かわず、回り道をしながら、席を離れる。途中、コップに水を入れる動作をしたのち、ターゲットのテーブルの近くにいった。


 ちょうどうまい具合に席を立つカップル。それを確認したのち、そのまま自分のほうが席に居座った。


「って、いくらなんでもマジになりすぎか……俺ってもしかして、自意識過剰なのかな……。それか……やっぱりこの状況を楽しんでるのかな……」


 自分の深層にある思いすら分からず、もやっとしかけたまま、水をすする。


 最近、自分でも自分のことがよくわからなくなりつつあった。それの原因の一つとしては、コントラクトの強制による意思操作というもあるだろう。だが、それを踏まえたとしても、自分が望んでいるものが分からない。


 本当なら、危険な橋は渡りたくないはず。そんな状況になれば、全力で首を横に振って背を向けることになるだろう……と思うのだが。


 そう思いながら、自分のポケットに入れてあるスマホに少し意識を向けた。


「……解放者……か。まるで英雄だな……」

 英雄に……なるつもりなのか……?


「俺は……」

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