第7話 例の女子生徒

 放課後、圭は次郎に用事があると伝え、一人フライハイトに向かった。もちろん相手はあの前に契約していた一年の女子生徒。


 おそらく呼び出すため嘘をついたのだろうが、「助けて」という救済の言葉を聞いてしまった以上、契約の強制力で守らざるを得ない。


 コントラクトを使っていて感じた重要な事実が一つある。

 基本的にコントラクトは契約者に契約を守らなければならないという意思を強制的に持たせるということだ。


 意思に背かせるであったり、意思に関係なく強制的に体を動かしたりと言うことをコントラクトはしない。


 だが、逆に言えば契約者が知らないことまで契約を守れないということだ。


例えば、「契約者甲は乙の携帯画面を見てはいけない」としたとしよう。

むろん、契約は働き、甲は自分から乙の携帯を意地でものぞかないようにする。だが、乙が甲に対し強制的に携帯を見せつけられれば、契約は守りきれない。


『・契約条文に対して契約者が物理的にどうあがいても守ることができない場合、一時的にその契約は無効となる。』


 このルールがその意味を示しているのだろう。実際、他人にキングダムのことを離さないような契約をしていたと思われる奴らからも圭が隠れながらだと情報を得ることができた。

 なによりも、本人が知らなければその限りではないという証拠。


 ゆえに圭がネイティブ戦で使った勘違いをさせる契約も、途中で強く勘違いだと悟ってしまう何かが起こってしまえば、契約はその限りではなくなるということだろう。


 すなわち、それは今回のことにも生かされている。「助けを求められたら答える」契約をしている以上、相手が嘘であろうが「助け」を求めた以上、圭は嘘だと確信できない限り、こうして会いに行くしかないのだ。


 と言うわけでコントラクトによりフライハイトにまでたどり着いた圭。他にもいくらか生徒がいる中、確かにあの女子生徒を見つけた。


 早速、近づこうとしたが、女子生徒はこちらのことを確認すると、特別棟のほうに向かって歩き出した。


 一瞬逃げているのかと思ったが、それは場所を変えるということだと意味を察し、少し離れながら後をついていく。念のため、周りにキングダムの王だとか名乗った、わけ分からない二人に見張られていないことを確認しながら。


 やがて、女子生徒は空教室に入っていったので、圭もまた後を追って入った。

 一応気を利かせてドアを閉じるもさすがに鍵は占める必要ないだろう。むしろ、変な方向に行きそうだ。


 ゆっくりと女子生徒が待つところに足を進めた。小柄でショートヘアな女子生徒。小動物と言う言葉がふさわしいだろう。少し遠慮がちに体を縮こませるのでその印象がより際立つ。


 女子生徒は恐る恐る圭と目を合わせてきて、口を開いた。

「あの……やっぱり……先輩が……わたしたちの解放を?」


 さすがにここで違うよ、と言っても信じないだろう。証拠こそないが、これを否定するだけの仕掛けは持ち合わせていない。


「そうだ……驚くことはないだろう。お前が俺に縛り付ける契約をしたろう? それに従ったまで……。


 他の人たちの解放はついでにやっただけだ……まあ……そのついでが面倒事を生み出してしまったけど」


 そう、もし解放を圭と次郎、そしてこの女子生徒だけにすればここまで際立ったことにならなかっただろう。

 隙を付けたからと言って調子こいて全員解放したのは……今思えば……失敗だったかもしれない。でもまあ、それで助かった人たちも多いのだから、よしとしよう。


「じゃあ、やっぱり解放者は……先輩」


 圭は無言で首を縦に振った。すると女子生徒はの強張っていた顔にゆるみが生まれた。

「先輩……ありがとうございます」

「契約に従っただけだ」


 正直、ちょっと格好つけた自分がいます、はい。でも、ここぐらい、ちょっと格好をつけたいのが男と言うもの。それぐらいは許してもらう(誰に?)。


「先輩……すごいですね。失礼なこと言いますけど、本当に期待なんかしてなかったんです」


「ふっ、はっきり言うな。まあ、でも仕方ないだろう。大体、全力でやれと契約してきたのはお前だ。」

「でも……わたしを救ってくれた。本当にすごいです、先輩は」


 だんだんと女子生徒はうつむいてきた。情を隠すように圭から視線をそらしていく。

 やはり確認と礼をしたかったから呼び出したということだろう。だが、なんかこの雰囲気……それ以上の何かがありそうなんだが?


「先輩……」


 そう言ってうつむいたまま、一歩ずつ近づいてくる女子生徒。やがて圭のすぐ前にまでやってきた。圭の顎より下に女子生徒の頭がする。そこから何とも言えない優しいにおいがいい意味で鼻を刺激する。


「先輩……その……」


 次にくる言葉を頭の中で想像しながらゴクリとつばを飲み込む。想定すらしてなかった出来事にとにかく心を落ち着かせようとする。そんな中、女子生徒は顔を上げた。


「わたしをもう一度助けてください」

「……え?」

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