第11話 愚策

 真剣で……コレか。

 次郎の問題に対して、圭は少しばかり拍子抜けをしていた。

 

「次郎、このゲームにおいて、その問題はかなり愚策だ。いやまあ、俺がさっき、さんざん揺さぶったから思考が鈍っていたのかもしれないけどな」


「なにが……愚策だ?」


 圭の言っていることを次郎は理解できないらしい。苛立ちを見せながらも圭に迫ってくる。まあ、揺さぶりをかけるという意味でも、言ってみるか……。


「その問題、どうあがいても五分五分(フィフティーフィフティー)だろ?」

「そりゃそうだろ。マルかバツかの問題だからな」

「だから、限界だといったんだ。さっき、俺が問題の手本を見せたのに」


 釈然としないといった次郎に、ぐっと身を寄せた。


「この問題、普通にやれば五分五分の勝負となる。お互い、適当にマルバツを言い合えば勝率は互いに五十パーセント。

 だけど、何かが賭けられている状態。負けられない状況で、運要素に全てを委ねるのか?」


「何を言ってる?」


「知ってるか。ギャンブルってのは、賭け事だ。で、ギャンブラーは賭けをする人。さて、ギャンブラーの勝者は運が言い人なのか?

 答えは否だ。本当に勝てるギャンブラーは手堅く勝ちを得ていく。なぜかわかるか?」


 自分でも少々熱くなっている気はするが、まあいいだろう。ちょっと、格好を付けさせてもらうとしよう。


「ギャンブラーは運に身を任せないからだ。ギャンブラーは一戦では負けても十戦、百戦すれば、勝ち越している。できる限り勝率を上げる方法を模索し、ここ一番というところで勝負に出る。


 ギャンブラーの世界は、小さく見れば運かもしれないが、長いスパンで見れば、実力が物を言うらしい」


 そこで、圭は大きくため息をついた。


「と言っても、俺はギャンブラーじゃないし、ギャンブラーの思考もわかる気はしない。だが、これだけは言える。


 負けたくない状況で、絶対に勝たなければいけない状況で、五分五分の運に任せられるほど、狂人にも馬鹿にも、なれる気はしない。もし、そんな選択肢を取るというのならば、きっと切羽詰まった状況ぐらいだろう」


 そういった問題を相手にも提示させるために、こういう問題になるよう誘導するためにもあらかじめ「嘘を付き合おう」と言うセリフまで吐いていたのだが。


 次郎は既に口を紡いで、圭の話に聞き入っていた。思うところはあったのだろう。だけど、それでも疑問は残っていたらしく、こうつぶやいた。


「限界ってのは?」


 そのつぶやきに圭は「あぁ」をつぶやき返す。


「コントラクトの「全力を注げ」がどれほどのものか、ということを図っただけだ。今までの次郎の行動から、ある程度形にはなった。


 もちろん、次郎とネイティブの間の詳しい契約はわからない。だが、何かしら強制力が強い指示を受けているのは確かだろう。

 そして、その指示通り、全力を持って俺を止めにこようとした。


 ああ、全力だったよ、最初はお前と対峙していて随分と肝を冷やした。


 でも、コントラクトにおける全力は、契約者が思いつく範囲以上のことは出来ないだろうと言うことがわかった。

 逆に言えば、一度でも思いついたことは、かなり強制的な力でそれを実行しようとするみたいだな」


 そう確信した理由は主に二つ。


 まず、一戦目。ガラケーの問題の時、通話を掛けて場所をあぶり出すという発想に至った経緯からだ。おそらく、あれは普段の次郎であったとしてもゲームに集中していたら、思いついていたことだろう。


 だが、普段の次郎なら、それはルール違反じゃないだろうか、躊躇して行動を改めるだろう。だが、今回の次郎は躊躇なく行った。それは、思いつけば、なりふり構わず、全力を注いだという表れだろう。


 そして、今回の百円硬貨の問題。

 さっき言ったように、このゲームに置いて、全力を注ぐ、すなわち、勝率を少しでも上げるためならば、五分五分の勝負ではダメだ。相手を積極的に騙して、あるいは相手の思考を読み取ってその裏を読みに行く問題を出す必要がある。


 少なくとも、まず、回答者に「正解はこっちに違いない」と思わせて、揺さぶるような問題であることは、ほぼほぼ必須条件といってもいいレベルだと、圭は思っている。


 だが、次郎はそういった問題に至れなかった。それは普段の次郎であったとしても同じだろう。本人が想像もつかないことは、できやしない。


 コントラクトは本人のポテンシャルを限界まで引き上げることはできても、限界以上に釣り上げることは不可能だということだ。


 これで、一つ。コントラクトというものを知れた。あとは……。


「それと次郎、おそらく、これから、もっと負けられない、下手すれば極限状態のエンゲームを受けなければいけない時が来るかも知れない。

 そして、お前にもそういう状況にて手を貸してもらうつもりでいるからこそ、ゲームの中盤でもある今、お前にアドバイスだ。


 エンゲームを仕掛けてくる連中は……もっと言えば、エンゲームのゲーム内容を決めた側の連中は絶対に勝つため……少なくとも勝率を上げるために、自分にこっそり有利な仕掛けを持って挑んでくるのは間違いない。


 その仕掛けの見破りを誤れば、すぐに落ちる。それを俺は、ネイティブとの一戦で、痛いほどに分かった。完全な読み違いでやられたからな。


 だからこそ、相手が提示するエンゲームには、どこに何があるか、全神経を集中させて、ゲームに挑む必要がある」


 そうして、圭はゆっくりと机に自分の足先を引っ掛けた。


「そしてこれが、このゲームにおける必勝法の一つだ」

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