第2話 躊躇する次郎

「ネイティブを倒せる作戦って……どういうものなんだ?」


 その次郎の質問に圭は小さく首を縦に振った。


 まあ、当然の質問だろう。自分がこれからどういう作戦に組み込まれるのか、その作戦に勝利の算はあるのか、そもそも次郎にとって本当に手を貸していいものなのか、疑問は次から次へと溢れてきていることだろう。


 しかし、万全を期したい今の状況では……


「……悪いが、今すぐこの場に教えるわけにはいかない」


 次郎は少々驚く表情を見せた。


「なぜだ? って、信用しないってさっき、言っていたな……」


「ああ、基本の理由はそれだ。物分りがよくて助かる」


 だが、次郎は引っ込めた手をも一度、圭にむけて伸ばす気配がまるでない。


「どうしても先に知りたいのか?」


「正直言いうが、俺はお前のことをけっこう、信用してるつもりだ。おそらく、お前がいうんだから、本当に勝てる秘策を引っさげて、今立っているんだろう。


 でも……やっぱ、不安だからさ、いや、もちろん、俺の言える立場じゃないのは、当然理解している。でも」


「……悪い、それでも無理だ」


 そこは、はっきりピシャリと言い放った。こればっかりはどうしようもない。その理由は次郎を使用していないという他に、もうひとつある。それはネイティブとの契約だ。


 ネイティブが必ずしも、全員圭と同じ契約内容を結んでいるとは限らない。次郎がネイティブでどういう立場なのかもわからない以上、むやみに情報を渡すわけには行かない。あくまでも、今次郎は、ネイティブ側の人間なんだ。


 そこに次郎の意思が介入しようがなかろうが、情報が漏れる可能性は十分すぎるほどある。


「次郎、別にお前に策を教えないとは言っていない。だいたい、教えなきゃ、お前に手を貸してもらえないだろう。ただ、教えるのは契約をして、情報漏えいの可能性をできる限り潰した状態で行いたいというわけだ」


「そ……それは……わかってるけど……」

「……けど? けどなんだ?」


「……」

 次郎は妙に口をもぞもぞとさせて、はっきりと物を言わない。わからない、次郎の考えていることが……。ここで、これ以上、何に躊躇する必要がある?


 この程度の博打なら、そこまで大きなリスクがあるとは思えない。次郎の今の立場も考えても……こんな……。

 だが、次郎はさらに、圭を混乱に陥れるセリフを放ってきた。


「圭、策を教えてくれ。でなければ……俺はお前に手を貸すことはできない」


「……は? 何を言っている?」


 その言葉を搾り出すのに、数秒の時間を要した。努めて真剣に次郎を向き合うが、とてもじゃないがその表情から、まともな洞察ができない。


 いや、たぶん、圭が動揺しているがゆえに、考えることができていない。


「別に……俺の立場を考えても、それなりにフェアが言い分じゃないのか? そっちだって、俺の手を借りないと、ネイティブを倒せないんだろ?」


「いやいやいやいや、お前……冷静になって考えろよ? 立場とかもはや、どうでもいい。お前、自分にとってそれを提案するメリットがどこにある?」


 次郎は口を紡いで答えようとしない。それは、圭からすれば、次郎はメリットなど関係なく、提案をしたと、言っているようにしか見えない。


 だめだ、全然わかんねぇ……いや、もいい……、こいつは……ダメだ。

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