第16話 ショッピング

 圭と亜壽香はショッピングセンターの中にある電器店に入った。もちろん、目的はスマホカバー。やたらと種類があり、いざ、こうやってみると何を選んでいいやら分からない。


「俺のスマホに合うのはどれなんだ?」

「ちょっと、見せて」


 そう言われスマホをそのまま亜壽香に渡した。亜壽香がカバーを選んでくれている間に圭はコントラクトのルールに付いて、更に考え始める。


 やはり、一番大事なのは契約の解除方法。そして、一番オーソドックスな解除方法が確かにルールに備わっていた。それが以下の文。



『・個々契約を更新したい場合、契約者の内のひとりが契約更新の意思を示し、相手の同意が得られれば、契約条文の変更内容を提示しあう。通常はそれに対し全契約者が同意することで成立する。

2 この変更の間は変更前の契約が成立した状態のままである。


・個々契約を解除する場合、通常は契約者の内、どちらかが契約解除の意思を示し相手の同意が得られれば行える。


・集団契約を更新したい場合、これを行いたい者が、更新する草案を提示する。通常はそれに対し、全契約者の内の三分の二以上から同意を得られた場合、契約は更新される。

 2 この変更の間は変更前の契約が成立した状態のままである。


・集団契約を解除の形式は複数存在する。それは以下の二つである。

1 集団契約そのものが解除される解除形式(全体解除)。

2 契約解除の意思を示した本人だけが解除される解除形式(本人解除)。


・全体解除を行う場合、これを行いたい者が、全体解除の意志を示す。通常はそれに対し、全契約者の内の三分の二が同意すれば、成立する。


・本人解除を行う場合、これを行いたい者が、本人解除の意思を示す。通常は、その直後に成立する。』



 これを読む限り、集団契約以外は一方的に解除する方法はないと見ていい。契約者が互いに同意しないと解除はされないということだ。

 だが、こんな文面もあった。


『・契約条文に契約又は契約条文の一部が解除される条件を提示することができる。この場合、すでに全契約者が同意したものと見なし条件がそろった瞬間に条件通りに契約が解除される。』


 つまり、契約条文に解除方法を示しておけば解除はされやすいということだ。

……だが、支配するような不平等契約にわざわざ解除方法など書かない。

 実際、圭がネイティブと結んだ契約にもそんな条文はない。むしろ、集団契約においては契約解除の方法に制限をかけている。


 なら、解除するには、やはりネイティブに同意をさせる必要がある。


「あれ? スリープ解除しちゃった。ごめんね」

「ん?」


 思考の片隅から亜壽香の声が聞こえてきた。


「あ、ちゃんとロックかけてるんだ。あたしが教えた覚え、ないんだけどな~」


 電源が付き、画面が光る圭のスマホ。それを亜壽香が見ていた。


「それぐらい、自分で調べてやったよ」

「む~、スマホのことならあたしが教えるっていったのに」


 わざとらしく頬を膨らます亜壽香。そんな姿に呆れながら圭は亜壽香が握るスマホを再びスリープ状態に戻した。


「いいから、どれがこの機種に合うカバーか探してよ」

「分かった分かった」


 亜壽香はおどけたように、笑ってみせた。

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