第13話 仲直り?

 色々と起きたこの事実をまとめるため、そしてなりより興奮していた頭を冷やすため、圭は窓のサッシに手を乗せて太陽の光を浴びた。


 四階からずっと下にあるセカンドパティオを見下ろす。人の数は減り始めている。部活に行ったもの、帰宅したものがどんどん増えてきた。


 しかし、圭の目にとまったのはパティオではなかった。それよりも第二教室棟と特別棟の間をつなぐ連絡棟にあたる建物の三階、フライハイト。いつも圭が座っているスペースに別の人の姿があった。


 無論、圭の指定席であるわけではないため、誰が座っていても不自然ではないし、圭も普通は気に止めない。

 だが、その人が次郎であれば気にせずにはいられなかった。




 しばらく、溜息を吐き、さらにサッシに体重をかけ次郎の様子を伺う。一方の次郎はこちらに気づく様子はまるでなく、ただただパティオを眺めているだけ。


「……話してみるか……」


 不思議とそんな思考がよぎっていた。いや、不思議ではない。今、一つキングダムから情報得るという契約に潜りがついた。ゆえに、別の行動を取れる余裕ができたのだろう。


 フライハイトの入口にまで歩み進める。そのままゆっくりと顔を出した。フライハイトにはもう次郎一人しかいない。圭の気配に気がついたのかこちらのほうに振り向いてきた。


「圭……」


 そのまま立ち上がる次郎。だが、圭はそれを制した。


「いいよ、座ったままで。俺がそっち行く」

「ああ、すまん……」


 圭は次郎が座っている関の向かい側にある椅子に座りこんだ。いつもの南西にある一角のテーブル。そこをはさんで二人がいる。だが、やはり……というより想像以上に険しい空気が流れていた。


「話……あんだろ? 弁解かなんかは知らないが……」

「……ああ」


「だったら、さっさと話せよ。今なら聞いてやる」


 圭はぶっきらぼうながらも、確かに視線を次郎に寄せた。次郎は小さく頷きながら、姿勢を今一度、整え圭と面と向きあった。


「今更だし……汚い言い訳にしか聞こえないと思うけど……」


「もう、すでに汚いことしまくってんだ。これ以上、どう汚れようと変わらねえよ。思う存分話せばいい。今、俺が口出しするつもりはねえからよ」


「ああ……すまん……」


 だいたい、契約で既に許しているからな……、なんて思いながら、次郎に耳を傾けた。


「俺はさ……心細かったんだ。ひとりネイティブに入れられて。ネイティブの策略で他のネイティブと相談すらしづらい状況で……

 。ただただ、毎月金を支払わされて、命令を聞いて……コントラクトでそれに逆らう事すらできなくて……」


「ああ……分かるよ」


 痛いほどわかっているつもりだたった。いや、分かったというべきだな。


「だからさ……お前がスマホを手に入れたって聞いたとき、なんかさ……勝手なんだけど……お前が……俺の隣に来てくれそうな気がしたんだよ。

 というより、俺が隣に来て欲しかったんだと思う。俺と同じ境遇になって欲しかった。


 そして……一緒に苦労を分かち合いたい。……なんていうきれいごとの前で……お前を陥れた。

 しかも……俺はお前の犠牲で報酬も受け取ってさ……内心、やったと思ってしまってさ。もうさ、俺さ……」


 セリフを吐きながらも次郎は苦しそうに俯く。


「あぁ……なんか俺、マジでクズだ……」


「……あぁ、そうだな……」


 変に否定はしなかった。する必要はないし、したところで変わらない。


「ちなみに、ネイティブに支配されてどれくらい立つ?」


 圭は次郎の肩をゆっくりと叩いた。本当にゆっくりと。


「でも、俺は……お前に……悪いことを……」

「どれぐらい? ……えっと、もう、六ヶ月以上……かな」

「そうか……結構な期間だな……」


 ちょっと圭も次郎の境遇に同情と恐怖を同時に感じた。なかなかに最悪な事態だと思う。そんなこと……圭は何一つ知らなかった。


 ……圭が知らないあいだ、ずっと一人でこいつは苦しんできたのだと思うと、圭もまた、次郎に迷惑をかけていたなと思わざるを得ない。

 一応、元は友人のつもりだったが……まったくもって、気づいてやれなかった。


「なるほど……な……。お前がどうしてこういう経緯に陥ったか、わからなくも……ないか」


「……すまん……」


 次郎は顔を上げることもなく、頭を下げ続けている。そんな次郎に……圭は少し言葉をかけてやった。


「もう、過ぎたことだ……もう、どうも思っちゃいないよ」


 次郎はそっと、視線だけこっちに寄せる。


「それって……契約のせい?」


「……さぁな? 今の俺にはよく分からん。これが本当の感情なのか、コントラクトによって曲げられた感情なのか、はな。でも……今の俺が求めているのは、お前との決別なんかじゃない……そんなことに、大した意味はない」


 これ以上、次郎の話を聞くつもりはなかった。次郎の思いは十分分かった。それ以上、次郎のことを知る必要はない。


「俺はただ……全力で……、支配から抜け出すだけだ……ネイティブを……倒す」


 力強く言った。自分に言い聞かせるという意味も含めて。


「で……でも、どうやって?」


「さぁ? それは今から考える」


 次郎はそこで、目をぱちくりとさせてきた。まあ、実際どうやったらいいのか、まだ検討もついていない。現状だと、口から出まかせ言っているようなものだろう。でも……やらなくちゃいけないし、絶対やってみせる。


「勝つぜ、俺は……意地でもやつに……叛旗を翻してやる」


 拳に力を込めて、立ち上がった。おそらく、この感情はコントラクトによって起こっているものだろう。でも、自然とそこに違和感はなかった。


「圭……」


 次郎がそんな圭の姿を見てくる。


「なんか……お前、今、凄い不敵な笑み……浮かべてるぞ……」


「……え?」


 思わず、自分の唇に手を触れた。確かに口角が上がっているのを感じ取れる……、わからない。でも……なんだろう。


 ワクワクしている自分が……いる。

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