第8話 休日の約束

 二日目の夜、遂に「グループ:ネイティブ」の集団契約にある変更が伝えられた。


『第七条 民は主にグループ:キングダムの情報をできる限り集めて持ってくること。

  2 その情報の価値によって来月の納金の免除などをはじめとする報酬を与える。この報酬の内容は主が決めるものとする。

  3 情報を今月までに持ってこられなかった者は来月の納金をプラス五千円とする。

  4 この契約条文は来月の二日午前0時に解除される。』


 そこで見ていると集団契約がいつもの契約書と違うことに今気が付いた。いつもの契約書には6までの数字しかない。

 すなわち作れる条文は六つまで。ただ、この契約書には第六条の次に七八……と続いているのだ。おそらく集団契約は条文の数をアップできるらしい。


 どちらにしても今の圭にはこれを同意する以外ない。タップし同意ボタンを押した。これで……否応なしにミッションが始まる。




 ネイティブに従うのは癪に障るというのが無論、本音だ。だが、今の状況では従うしかない、金をごっそり持っていかれるのもごめんだ。

 今すぐ、支配から逃れるすべも思いつかない。なら、やはり情報を集めるしかないだろう。

 だが、どうやって情報を集めるか。


「圭、まーた、何か考えてる」


 隣にいる亜壽香が圭の顔を覗き込みながらそう言ってきた。まあ、考え事をしているのはしているから仕方がない。そうだ……試しに聞いてみるか。


「なあ、グループ:キングダムって知ってるか?」


「なにそれ? 知らない」


 あっさり興味ないように答えられた。でも、これでよりこいつがコントラクトのややこしい部分に触れていない可能性が高くなった。


「何かあるの?」

「いや、別にまったく気にしなくていい」


「……そう……」


 そういうと亜壽香はさっと一歩前に出た。そのまま、早歩きで圭の前を歩く。それをいいことに圭はもう一度思考の海に入り込んだ。


 やはりキングダムの情報を得るにはキングダムの一員を一人だけでも見つけることが最善となるだろう。そこから有益な情報を聞き出す。


 はっきり言ってあんまり手当たり次第にキングダムの情報を聞き出すことはしたくない。小林圭と言う人物がキングダムの情報を探っているというのを知られたくないからだ。さて、どうすればいいか……。


 そうか、ネイティブ全員にミッションが一斉に伝わったんだ。それはすなわち、今日あたりからキングダムの情報を探る奴らであふれるということ。

 わざわざ、圭が探らなくても絶対に他の奴らが探り出そうとする。


 そこで重要になってくることこそ、キングダムの動きだ。おそらくキングダムのリーダーはネイティブから探りを入れられているということはすぐ気づくだろう。

 大勢のネイティブが一斉に探し出すのだから、当然だ。そこはある意味……ネイティブの失態かもしれないな。


 そしてキングダムのリーダーはそれに対抗するため、ネイティブがやったようにグループのメンバーを集めて何かしら集会でもするのではないか? もちろん、絶対ではないが、一つ重要な手がかりをつかめるかもしれない。


 なら、昼休みや放課後などで空き教室の近くを探ってみるか……もし、人がそれなりの人数入っていく教室が合ったら、そこにいるやつらはキングダムの可能性がある。


「あ、そうだ、圭!」

「ん? なんだ?」


 急に声をかけられ思わず声を荒げ方が何とか平常の顔を取り繕う。

 そんな中、亜壽香は後ろで手を組みくるりと圭のほうに体を向ける。そのまま後ろ歩きをしだした。


「ねえ、スマホのカバーって買った?」

「カバー? ああ、いや、買ってないな」


 それどころじゃなく今まで考えにもなかったゆえ、圭のスマホは裸のままだった。


「ねえ、今度の休み、一緒にカバー買いに行かない?」


「いいや、いいよ。一人で行くよ」

「ええ! いいじゃん! 行こうよ」

「別に選んで買うだけだろ?」


「機種によって合うカバーが変わってくるよ?」

「え?」


「大きさも違うし、電源ボタンの場所、カメラの位置。合わないのを買ってもだめだからね」


 あ~、めんどくさそう。こんな時にそんなことまで考えなきゃいけないのか……。もう、いっそカバーなど無しでも良いかも。


「ね、だから一緒に買いに行こう。あたしが選んだげる」

「う~ん……なら……お願いしようかな。スマホのことは何でも聞くっていったしな」


「そう、お姉さんが何でも教えてあげる。一緒に大人の階段の、あ痛い!」


 とんでもないこと言い出した亜壽香の頭を叩いておいた。面倒な突っ込みなど今はしている場合ではないのだ。

 くだらないジョークは家で鏡に向かって吐いているがいい。と、表だって言える度胸はないのだが。


「なんで殴んの!? 痛いじゃん!」


「……」


「ああ、お姉さんの好意を受け取らないんだ! あ~あ、し~らない」


「……」


「ハア!? もしかしてもしかして、もう圭って階段登っちゃった感じ!?」


 …………イラッ。

「そんなのねえし! まず、お姉さんってなんだよ。同い年だし! 朝っぱらから女子が外でとんでもない発言するんじゃねえし! 黙れし!」


 ああ、突っ込んでしまった。そんな暇ないのに! 支配されてやばいな、って思っている時に、朝っぱらから登校中に何やってんだろう……。


「うわ~ん、圭のキャラが壊れた~」

「お前が壊したんだろうが!」


 ああ、もうチクショウ。完全にペースが亜壽香に持っていかれている。あろうことか、頭抱えて悩む圭をニヤニヤと見る亜壽香の姿。


「まあ、とりあえず、カバー買に行こうね」

「ああ、分かったよ」


「約束だからね」

「分かった!」

「なんなら契約を」

「しない!」


 こうまでなったら、おそらく次の休日には玄関のドアをひたすらたたき続け、圭が出ていかなかったら部屋までさらいに来る。一緒にカバーを買いに行くことになるだろう。

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