その十一 俺の母tueee!~ルスカside~暁side~

【ルスカside】


「復活じゃー!!」


 すっからかんになったワシの魔力が戻り、ワシは飛び起きると、目の前に倒れているアカツキに気づく。

背中から多量の血を流しているアカツキを見て、ワシはキレた。


“キュアヒール”


 傷を癒す回復魔法をすぐにアカツキにかけると、背中の傷は破れた服を残し塞がっていく。

そう言えば、ほのかは? と、振り返るとワシとほのかの間に、白く光る壁で隔たれていた。


 アカツキ……ではないな。こんな真封まほうを使うとは聞いていない。

しかし、これならば巻き込まれることはないだろうと、ひとまず“ストーンバレット”でアカツキの体を押さえているゴブリンを一蹴してアカツキの腕を引っ張る。


 ワシだけでは厳しいと思ったのか、ほのかが白い壁から出て手伝う。


「ほのか、危険じゃ! 戻るのじゃ!」

「一度出たら無理みたい。私も手伝うよ」


 ほのかの力を借りワシの元にアカツキを引き寄せることに成功する。その間、ゴブリンを撃ち抜いてくれた男にも感謝じゃ。

あれは、なかなか強力なのじゃ。


「う……ん」

「お兄ちゃん!」


 アカツキも気づいたようじゃし、これでまた倒れても問題ないのじゃと、ワシは大技に取りかかる。


“スターダスト・スノー!!”


「ギャッ?」


 ワシは杖を真上へと向け、白い光を、上空へと飛ばす。

ゴブリンどもの頭上から雪らしきものが降ってくる。

突然のことにゴブリン達の動きは止まり、呆然としていた。


「雪? ルスカか?」


 アカツキも立ち上がりワシの背後に回ると、その光景をただ見ていた。


「ぐぎぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 何なのかと興味を持った一体のゴブリンが雪を手にとると、白く光が手を包み、消し飛び奇声を上げる。


「ギャア!!」

「ギャギャア!!」


 雪が触れた場所が光と共に消え去り、血を吹き流しながらゴブリン達が舞い踊る。


 十体以上で取り囲んでいたゴブリンどもは、あっという間にその姿を消した。


「すごい、すごい! ルスカちゃん!」


 歓喜するほのかに抱きつかれるも、ワシは今それどころではない。


「あ、アカツキ……回復を……」


 ごっそりと魔力を持っていかれたワシは、アカツキの腕に支えられ、ぐったりなのじゃ。



◇◇◇



【暁side】


癒体疲滅ゆたいひめつ


 再びぐったりとして力無く項垂れているルスカに真封で回復させてやると、すぐに元気に立ち上がる。


「復活じゃー! ゴブリンどもめ、ざまぁないのじゃ! 飴玉よ……仇は取ったのじゃ」

「飴玉? ほのか、どういうことだ?」


 ほのかが言うには、襲われたところをルスカが助け出してくれ家へと避難したが、家の中まで入ってきたゴブリンに飴玉を全部食べられたという。


「そう、興奮するな。また、買ってやるから」

「本当じゃぞ!?」


 喜び叫ぶルスカを見て、飴玉で死体すら残っていないゴブリンにほんのちょーっとだけ、同情してしまう。


「ねぇ、お兄ちゃん。お母さん、大丈夫かなぁ?」


 そうだ。こんなところでモタモタしていられない。母さんの無事を確かめなければ。


「田代くん、今のなんなの?」

「うわぁ、何も残っていないじゃないか」


 女の子を抱えた三田村と馬渕がやってくる。

しまったな、ルスカの説明をどうしようか。

やっぱり、あまり口外するのもな。二人には悪いけど。


「ごめん、アパートの人達を安全な場所に。俺は母さんの所に行ってくるから」

「お兄ちゃん、ほのかも」

「え! ちょっと田代くーん!」


 ルスカを抱え上げた俺にほのかが背中に飛び乗ると、俺は二人にこの場を任せて母さんの職場へと向かって走り出した。


「ふぅ、取り敢えず誤魔化せたか」

「ほのかは、あんまり誤魔化せてないと思うけど」


 やっぱりそうか。これからどうするか考えながら走り続けた俺達は、母さんの職場へと辿り着く。


「ここ、昨日来たすーぱーとか言うやつじゃな」

「ああ。中に入ろう」


 スーパーの中に入ると食料品を漁るゴブリンはいるものの、人の姿はない。


“ストーンバレット”


 ルスカの手のひらから、石礫が回転して飛んでいく。


「ギャア……」


 不意をつかれたゴブリンは、静かに倒れて動かなくなる。


 一旦、外に出た俺達はスーパーをぐるりと一周する。

裏手の駐車場、その搬入口にゴブリンの集団が見えた。

背の低い母さんは見えないが、ゴブリンの壁の向こうにスーパーの店員やお客だろうか、複数人確認できる。


「あ、ゴブリンが飛んでいった……」


 壁から弾かれるように一体のゴブリンが空を舞う。

地面に落ちたゴブリンはしばらく動けそうにない。

よく見ると、ゴブリンの壁の後ろには、複数のゴブリンが倒れて動けなくなっている。


「母さんの仕業だな」


 確信した俺は、ゴブリンの壁に向かって走り出す。


「ルスカぁ!」

「任せるのじゃ! 伏せるのじゃあ!!」

“バーンブラストォ!”


 俺が叫ぶと同時にルスカの手から赤い光が、ゴブリンの壁に向かって走ると、光は轟音と共に爆発を起こす。


「うわぁ! ルスカ、やり過ぎだ! 母さんがいるんだぞ!」

「大丈夫じゃ、威力は弱めじゃ」

「弱めてこれかぁ!?」


 煙が立ち上ぼり駐車場のコンクリートの地面はヒビが入り、直撃したゴブリンなどは体の大部分を失い、絶命している。

いきなりの爆発で蜘蛛の子を散らすようにゴブリンの壁が開く。

俺は、開いたゴブリンの壁に突入する。


「母さん、大丈夫か!?」


 店員や客達の中で、一際背の小さい母さんに声をかける。


「ごほっ……ごほっ、あ、あーちゃん?」


 咳き込む母さんを見つけると、辛うじて動けるゴブリンとの間に割り込む。

どうやら他の人も咳き込む程度で、大きな怪我などはないようだ。


 母さんの右手には、どこから持ち出したのか金属バットが握られていた。


「ママさん、すまぬ。やり過ぎたのじゃ」

「は? ママさん?」


 ルスカが母さんを“ママさん”と呼ぶ。一体俺の居ない間に二人に何が。

多分、母さんがそう呼ばせているのだろうけど。

いつものサムズアップをルスカにするところを見ると、間違いないなと俺は思った。


「おっと、それどころじゃないな。ルスカ、残りも! “癒体疲滅”」

「うむ」

“ストーンバレット”


 逃げる者や辛うじて息のあるゴブリンにとどめを刺しにルスカの魔法が炸裂し、石礫が弾丸のように飛んでいく。


 中には覚悟を決めたゴブリンもおり、よれよれになりながらも、俺らを無視して母さんの方へとシミターを向ける。


「舐めんなぁゴラァ!」


 母さんの持った金属バットがゴブリンのたるんだお腹にヒットして、そのまま力の限り振り抜くと、ゴブリンは容易く空を舞う。


「ママさん、人変わっておらぬか?」

「どっちかと言えば、あっちが素かな」


 地面に頭から落ちたゴブリンは、変な音を立てる。

恐らく首の骨でも折ったのだろう、おかしな方向に顔を向けていた。


「母さん、怪我はない?」

「大丈夫だよぉ」


 スーパーのエプロンを着けた母さんが金属バットを肩に背負う。

流石、元暴走族の総長、金属バットが様になっているのは、野球選手を除けば、この人くらいだ。


 そう、母さんはいわゆる元ヤン。風貌から全くそうは見えないが。

ゴブリンの集団は危ないが、単体だとそれほどでもない。

真封使いでなくても、対処は可能だ。

最初空を舞ったゴブリンも母さんのせいだろう。


「あーちゃん、怖かったよ」


 金属バットを投げ捨てて俺に飛び込んでくる母さんを、ひらりと華麗に躱す。


 何が怖いのか。改めて言うが母さんは。レディースではない。

今でも母さんの昔の知り合いに会うと、頭を下げて道を開けるほど有名。

逆に言えば、母さんに頭を下げて道を譲ればその人は母さんの昔の知り合いを示している。


「あーちゃん、冷たい……って、あ、あ、あーちゃんどうしてここに!?」

「今頃かよ! どうしてって、無事を確認しに──ああ、もしかしてスーパーで働いているのを知らなかったとでも?」


 一年前、とある理由で母さんがこのスーパーで働いていたのを偶然見つけた。

普段、ここに俺が来ないのを知っていたからだろう。


 その時、声をかけなかったのも、理由が大体想像がついたから。

一年前という時期も関係している。そう、一年前の事件がきっかけで……


「全く……別に隠す必要ないだろうが」


 母さんの髪をくしゃくしゃにして撫でてやると、恥ずかしいのか珍しく俺の後ろに回り、背中にいるほのかごと抱き締められた。


「あーちゃん、スキー!」

「はい、はい」


 こうして、ゴブリン騒動は終わったかに見えた。


 無断で学園を飛び出したことを俺はすっかりと忘れていたけど。

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