休日の秘密⑤

 ゆっくり振り返ると、白衣に紫色の袴を履いた優しそうな爺さんが歩いてきていた。



「おやおや。今日は、知らない子もいるね」



 と話しかけきたお爺さん。

 どうやら、身なりからして神社の神主さんらしい。そして、『知らない子』とはオレのことを指してるようだ。



「神主さん。こんにちは~!」

「はい、こんにちは。美晴ちゃんは、今日も元気だねぇ」

「えへへ~、それだけが取り柄なので」

「そっちの子は、美晴ちゃんの彼氏かい?」

「イヤだなあ、友達ですよ」

「友達じゃねえよ。ただのクラスメイトだ」

「こらこら、あまり人の傷付くことを言うものじゃないよ?」

「す、すみません……」

「美晴ちゃんもキミを友達だと思ったから、ここに誘ったんじゃないのかい?」

「え? そうなの?」



 神主さんの一言に鳴沢をみる。

 すると、鳴沢が不機嫌そうにプクゥ~と頬を膨らませていた。まるでフグみたいな膨れっ面で、オレのひと言がよっぽどお気に召さなかったらしい。



「そうだよ」



 と発せられたひと言もトゲがあって不満めいている。

 もっとも、その原因がオレってことが痛いんだよなあ……しっかり謝んないと許してくれなさそう。

 オレは素直に反省し、鳴沢に拝むような仕草で謝った。



「悪かったよ、鳴沢」

「安宍君と仲良くなれたと思ったのに、友達じゃないってヒドくない?」

「だ、だって、男子と女子が友達っていうのは……」

「男と女が友達になっちゃいけないルールでもあるの?」

「そりゃあ、そうだけどさ」

「安宍君は、ヒドいなぁ~。甲斐性無しだなぁ~」

「うぐっ……」

「あ~あ、友達だって思ってたのは、私だけなんて正直さみしいなあ」

「本当にゴメンって……」



 本格的にこじれ始めた。

 なんとかして、鳴沢の機嫌をとらないと。

 ――そう思った矢先。



「よし! 許してあげる」



 ちょっ!? オレの気持ちどこにやった‼

 鳴沢は、今までの流れをぶった切るように勝手に許しやがった。

 ――って、これ許されたと言えるのか?

 そんなことを考えていたら、神主さんが急に笑い出した。



「ハッハッハ。やっぱり、仲がいいんじゃないか」

「違いますって!」

「まあ、そうムキに否定しなさんな。ケンカするほど仲がいいってのは、昔から言われてることじゃないか」

「オレは、そんなつもりないんですけどね」



 とは言うけど、オレは鳴沢と友達になったつもりはない。

 しかし、神主さんに言わせれば、「それも友達の形」ってヤツなんだろう。事実、鳴沢もオレが友達じゃないって言ったらねたし。



「しかし、よくコイツにカギを預けましたね」

「美晴ちゃんは悪い子には見えなかったし、目の前で楽しそうにネコとじゃれるから預けたんだよ」

「そうだったんですか」

「元々、この蔵は子供神輿を収納してた神輿庫しんよこだったんだ。しかし、地域の子供が減ってしまって、神輿を担ぐ機会も減ってしまってね」

「……神輿かぁ~」

「本当は、神輿を別の神社に譲渡して神輿庫しんよこだけを整備して別のことに使おうと思ってたんだが、裏手に空いた穴からネコがいつのまにか入り込んでしまってね。たまり場になってしまったから、諦めて放っておいたんだ」

「なるほど。それでこんなところにネコが……」

「それからだよ。この辺を探検してた美晴ちゃんが神輿庫しんよこに居着いたネコを発見して、カギも見つけて私に届けたのは」



 それで、ようやく意味がわかった。

 つまり、鳴沢は探検(?)中にここへたどり着いたというワケだ。そして、ネコの溜まり場を見つけて、その最中にカギを見つけたってことなんだろう。

 オレは、鳴沢に感心するようにたずねた。



「オマエ、よくここのカギだってわかったな」

「試してみたら、開いちゃったんだよね」

「いや、フツーは開けねえよ?」

「だって、ネコと触れ合いたいじゃん」

「気持ちはわかる。だからといって、開けちゃダメだろ」



 というか、鳴沢のアクティブっぷりには驚かされる。

 自然の多い田舎育ちゆえなのか、それとも こういう性格ゆえの天然さからなのか。とにかく、鳴沢の「行動力」はハンパない。

 しかも、当人は自分のズレっぷりを気にしていない些末。



「まあ、ワシが許したんだ。それぐらいにしてやってくれ」

「いいんですか?」

「ネコを見に来る分には問題ないよ。だから、君も好きになさい。それに神様は、にぎやかな方が喜ばれるしねえ」

「わかりました。じゃあ、いつでもネコ撫でに来ます」

「ああ、いつでもおいで。それじゃあ、私は諸事を済ませに行くね」



 そう言うと、神主さんはひとり本殿の方に向かって歩いて行った。

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