休日の秘密③
鳴沢に連れられてやってきたのは、郊外の高台の地域だった。
そして、目の前には朱色の鳥居と40段ぐらいはあるであろう階段がある。
「……ここ……神社……?」
――ってか、キャンプどこ行った!?
ぼう然とするオレを背にモクモクと階段を上り始める鳴沢。まるで「当たり前」とでも言いたげな背中は、10段ほど登って立ち止まる。
「どうしたの?」
鳴沢がくるりと振り返って、こっちを見る。
オレは、キャンプとはまったく違う場所に連れてこられたことを問い詰めた。
「キャンプに行くんじゃねえのかよ」
「え? そんなこと言ったっけ?」
「じゃあ、背中のソレはなんなんだよ!?」
思わずツッコんでしまう。
鳴沢は、何がしたいんだ? 『あの子立ちを紹介する』とかなんとか言ってたけど、キャンプ仲間のことじゃねえのかよ。
オレは、予想外の展開についヤキモキしてしまった。
だが、鳴沢はなぜか不思議そうな表情を浮かべて、背中のキャンプグッズを見ている。
「これのこと? 私のとっておきの場所で使うから持ってきたんだよ」
「とっておきの場所って、こんなところにか?」
「そうだよ。まあ、話すよりも見てもらった方がいいかもね」
ワケがわからん。
しかし、鳴沢は有無を言わせず階段を登っていく。
納得がいかないまま、オレは後に続いて階段を上がる。そして、最上段に到達するとその高さを実感した。
向き直って、階段の方を見る。
見事なまでに市街の風景が一望できた。
これには、さすがのオレも脱帽。感激のあまり、「鳴沢は、こんなところに通ってるんだな」って思っちまった。
「おーい、こっち~」
なんて考えてたら、先を行く鳴沢に呼び掛けられた。
「今行く」と返事をし、本殿へと歩いて行く。しかし、向かった先は本殿ではなく、その右手奥にある何かを納める小さな蔵だった。
「こんなところに何があるんだよ?」
「まあまあ。いいから、いいから」
と言いながら、鳴沢が前を歩く。
すると、蔵に近付くにつれて、「ニャア、ニャア」という声が無数に聞こえてくる。
これには、さすがのオレでも正体に気付けた――その正体は、『ネコ』!
ならば、鳴沢に真偽を問いたださねば鳴るまい。オレは、蔵の前で立ち止まった鳴沢に正体についてたずねた。
「まさか紹介したい『あの子たち』って……」
「そうだよ。ネコだよ」
立ち止まって、くるりと振り返った鳴沢が言う。
やっぱりかぁ……紹介したい相手がまさかのネコ~なんて思いもしなかった。
だって、あまりにも予想外じゃん? 背中には、キャンプグッズを背負ってどこか行くって雰囲気なんだもん。
普通は、キャンプに行くんだって想像するはず――あ、でもペットショップに立ち寄って理由を考えると……。
「そうか。だから、ペットショップなんかに……」
「ペットショップ? 安宍君、なんで私がペットショップに立ち寄ったって知ってるの?」
「しまっ……!?」
やべっ‼ やっちまった!
思わぬところでの失言に大ピンチ。オレは、鳴沢に言いつくろうと必死に話しかけた。
「い、いや鳴沢の存在に気付いたのは、ペットショップからなんだよ。それで、なにやってるんだろうなぁ〜と思って……」
「ふ〜ん、『なにやってるんだろうなぁ』ね」
「だから、怪しいようなことは何もしてない」
……と言ったところで、オレは気付いてしまった。
(あれ? いままでやってきた事って、ストーカーじゃね?)
思い返してみると、確かにそうだ。
鳴沢を見つけて、いつものからかいの仕返しをしようとしていた。でも、それが鳴沢をこっそり追いかけることって……。
嗚呼! これ、ただの変態じゃん!
だが、鳴沢に焦る気持ちを気付かれるワケにはいかない。オレは、どうにか平静を装うことにした。
「……その……声掛けなかったのは……悪かったよ……」
「別にいいよ。でも、できれば次からは声掛けるようにしてくれるとうれしいな」
「お、おう……。そうする」
「でも、まさかペットショップのところから追いかけてきてたなんて知らなかったよ」
「うぐっ……。わ、悪かったな」
「つまり、安宍君は私に興味があるってことでいいのかな?」
「なんでそういう解釈になるんだよ!?」
「え? 違うの?」
「全然興味ねえよ」
「じゃあ、ネコ見ていくのやめる?」
「いやいや、誘っておいて何言ってるんだ」
「だって、安宍君は私に興味ないんだよね?」
「……そ、それは……性……な……問題であって……」
「なあに聞こえない?」
「異性的な問題だよ!! 文句あるか!?」
くそ~、鳴沢のヤツ――またオレをからかいやがって。
おかげで顔は真っ赤だ。
当の本人は涼しい顔で、蔵に向かっ歩き出している。鳴沢を言い負かすには、なにか対策を考えないと。
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