休日の秘密②
次に鳴沢が向かったのは、安くて使いやすい雑貨を取りそろえた「無××品」のアンテナショップだった。
だが、ここは売り場が広く、おまけに隠れる場所が少ない。かといって、鳴沢に近づきすぎると見つかる恐れがある。
尾行する側にとっては難所だ――ゆえに離れて見張る必要がある。
その考えから、オレは文房具が陳列された棚で文房具を探しているフリをしつづけた。
「……えっと、鳴沢は……」
――いた。
キッチン用品なんかが置かれたコーナーにいる。どうやら、プラスチック製の皿のようなものを探しているらしく、ここからでもハッキリと見える。
だが、なぜ「無××品」でキッチン用品を買うんだ?
ペットショップの件といい、キャンプに行くなら事前準備は済ませておくべきじゃないか。
ところが、鳴沢にはそれがない。
(じゃあ、あの背丈のキャンプグッズはいったいなんだ……?)
考えども考えども、その理由はまったく浮かばない。それどころか、軽装な格好も相まって謎は深まるばかり。
(いったいなんなんだ……?)
そう思った一瞬の油断が運の尽き――オレは、鳴沢を見失ってしまった。
(あれ? 鳴沢は?)
大急ぎで鳴沢を探すも、その姿はどこにも見つからない。あんな背の高い人間をそうそう見失うはずがないのによっぽどのことじゃん。
あ~もうっ! オレはいったいなにやってるんだ!!
焦燥感が増すばかりで、なんの解決にもならなかった。
「はぁ……どうしよう? せっかくの計画が無駄の泡になっちまった」
休み明けに鳴沢をからかってやるつもりだったのになぁ〜。
おかげで、ぐったりと肩を落とすハメに――。
「ワァーッ!」
「うわぁぁぁあああああ~っ!!」
な、ななななんだっ⁉
突然の背後からの攻撃――いや、叫び。
これには、オレもさすがのビックリして転びそうになった。
わずかして、平静さを取り戻すと、オレはくるりと振り返った。
鳴沢がいた……。
しかも、ムカつくほどのいやらしいニヤけ顔でこっちを見ていやがる。
「鳴沢っ! テメエ、ビックリさせんな‼」
「やーい、驚いてやんの♪」
「ぐぬぬぬ……」
「ところで、こんなところでなにやってるの?」
「え? い、いや文房具を買いに来たんだよ」
「文房具? 安宍君、無地の文房具使うんだ」
「安くて品がいいからな。オレは気に入って使ってるぜ」
相づちを打って、どうにか話を合わせる。
この様子だと、鳴沢は尾行に気付いてない。偶然会ったことを装って、話を合わせ続けるべきか?
「そういうオマエこそ、ここで何か買うつもりだったのか?」
「うん、ちょっと『あの子たち』のお皿をね」
「あの子たち?」
「別に百円ショップのお皿でもよかったんだけど……あ、そうだ! 安宍君も来なよ」
「へ?」
「あの子たち、紹介してあげる」
「紹介? だから、いったいなんの……?」
「いいから、いいから!」
「――って、オイ!」
止めるのも聞かず、鳴沢は無理矢理オレの手を引っ張って歩き出す。
そのあと、何度も立ち止まってどこへ行くのかを尋ねようとしたが、鳴沢はまったく聞き耳を持たなかった。
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