休日の秘密

休日の秘密①

「ねえ、安宍君。休日って、何してるの?」



 と聞かれたのは、木曜日の中休みのこと。

 隣席の巨人(オレが命名)こと、鳴沢美晴なるさわ みはるが話しかけてきた。

 丸顔で、赤茶色のボーイッシュな感じのショートカットが似合う『見た目』はカワイイ女子だ。

 なにより、身長が180センチとモデル並みの高いので、チビのオレからしたら、メチャクチャうらやましい背丈だ。

 だが、あくまでコイツはオレの天敵。

 話すたびにちょっかいばかりかけてくる。

 本当にウザいヤツだ。だからと言って、無視すると今度はあの手この手でオレの気を引こうとする。

 正直ウンザリだが、無視しても無駄だとわかったので、相手してやる(ありがたく思え)ことにした。



「休日? ラノベ読んで、アニメ見て……だいたいそれで終わるかな?」

「ふ〜ん……」

「あと、たまに高路たかじからRINEで遊びに誘われる」

「高路君と仲がいいの?」

「まあな。アイツとは、小学校からの付き合いだし……って、こんな話聞いて、何がしたいんだよ?」



 そうだ。

 だいたい鳴沢はこんなこと聞いて何になる?



「別に? 中休みの暇つぶし」



 コイツ……。

 貴重な休み時間をなんだと思ってるんだよ。

 さすがに腹が立ったので、矢継ぎ早に聞き返す。



「だったら、鳴沢は休日何してるんだよ?」

「私?」

「オマエ以外に誰がいる…………」

「私かぁ〜」

「なんで迷ってんだよ」

「いやぁ〜。だって、言うべきか考えちゃうじゃん?」

「考えるとこじゃないだろ。オレは答えたんだから、早く答えろよ」

「え〜、でもなぁ…………」



 迷う要素なんてねえだろ。

 だが、鳴沢はその後もくどくどと考え込み、座った状態で貧乏ゆすりしたり、腕を組んで悩む仕草をしたりと大忙し。

 何がそうさせるのか、オレにはまったくわからん。



「では、クイズです。私は、休日何してるでしょう?」



 で、あげく出た返答がこれ。

 さすがのオレでもこれにはキレそうになった。



「は? オマエ、舐めてるのか?」

「いやいや、だってさ。これが人に言えないような内容だったらって思ったら、ちょっと躊躇しちゃうじゃん?」

「どんな内容だよ!? ってか、そもそもなんで人に聞いた?」

「いや、別に安宍君がいつも何してるのかなぁ~って興味が沸いて」

「興味がって……」



 その言い方だと、俺のこと好きみたいじゃん。

 でも、コイツのことだから、きっと他意はないはず。単純に俺のことをからかうつもりで聞いたのだろう。

 そう考えると、ますます腹が立ってきた。



「とにかく教える気が無いなら、この話はおしまい」

「えぇ~っ!?」

「『えぇ~っ!』じゃねえよ。カクコンのプロット書かせろよ、マジで」

「じゃあ、その『カクコン』のこと教えてよ」

「ついでみたいに言うな!!」





 そんなこんなで、鳴沢にもてあそばれた週の土曜日。

 オレは駅前の大型書店で漫画を買いに来ている。



「『オレの大事なところが異世界イっちゃってる』と『薔薇と百合しか存在しない世界で、普通のお付き合いする話』。この2冊が買えただけでもよしとするか」




 と、レジでほしかった本を買って一言。

 コミックにしろ、ラノベ本にしろ、数冊買うだけで3000円は使ってしまうので、学生のオレには厳しい。

 電子書籍でもいいのだが、個人的な嗜好からすると、紙本の読後にバタッと閉じる音が「読了した」と感じさせてくれるあの瞬間がたまらないのだ。

 この後の予定はない。

 つまり、家に戻って思いっきり読みあされるというわけ――と思っていたら、見慣れた人影を発見。

 鳴沢だった。

 赤茶色の短髪に180センチの高い背丈は、どこをどう見ても間違うはずがない。

 なにより、オレンジ色のTシャツにデニム地のショートパンツ、キャスケット帽を被った姿は見慣れた制服姿とは違って新鮮だった。



「……アイツ……いったい……どこへ……?」



 休日の過ごし方は、秘密――なんて言ってたが、大きなリュックサックにキャンプ道具担いでどこ行く気だよ。

 まさか秘密ってのは、キャンプに行くことなのか? その割には、鳴沢の格好はかなり軽装だし。

 気付けば、オレは鳴沢の後を追っていた。



「我ながら何やってんだか……」



 ふと我に返って、思わずひとり言。

 い、いや別に鳴沢を追うこと自体は大したことねーよ? だた、アイツが秘密とか言いやがるから気になっただけで、オレにこれっぽっちも他意はない。

 一応、そこだけは強調しておく――そこだけはな。

 ……って、鳴沢が行っちまう。

 オレは見つかるまいと、少し離れた位置から尾行することにした。



 まず鳴沢が向かったのは、駅前のショッピングセンターだった。

 ここで買うものと言えば、食料だろう――と思ったら、鳴沢はなぜか1階のペットショップへ。



(キャンプに動物的な何かが必要なのか?)



 などと考えながら、物陰から鳴沢を見る。

 どうやら、店員さんに何かを聞いているらしい。そして、店員が持ってきた何らかのアイテム(お金を払ってた)を買い、店から出てきた。

 オレも尾行を再開。

 2階へ向かう階段を上がる姿が見えたので、見失わないよう距離を測りながら鳴沢を追う。



(よし。3階には行っていないな)



 とっさに2階へと上がり、鳴沢のヤツの姿を探す。

 すると、右手の通路を奥に向かって歩いて行くのが見えた。



「今度はどこに向かってるんだ?」



 謎が多すぎる。

 そもそもキャンプに行くなら、こんな真っ昼間に買い物してから行くものなのか? ペットショップに立ち寄ったことといい、まったく関連性が見えん。

 ……と思ったら、鳴沢がこちらを向きやがった!

 慌てて周囲を物色し、アパレルコーナーにあったジーパンが掛けられたハンガーに身を隠す。



(あっぶねぇ~!)



 いきなりこっちを見るなよ。ビックリするじゃねえか。



(まさか鳴沢はオレの存在に気付いた?)



 そう思って、ハンガーの蔭から鳴沢の様子をうかがう。

 しかし、鳴沢は一瞬こっちを見ただけで、オレ自身に気づいた様子は見受けられなかった。



「ふぅ……。まだ気付いてないな」



 鳴沢が再び歩き出したのを確認し、オレは尾行を続行することにした。

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