第110話 水竜巻を消滅させよ
ナナコの放った矢は水の竜巻を通り抜けクジラのバケモノの体も抜けて、薫の心の空間の空に穴を開けた。
ぽっかりと開いた穴は音を立てて広がり続けている。
『これは好都合だ。ナナコ! このバケモノは俺達だけでは手に余る。こいつらとあの穴から外に出ろ』
「外に……。薫は大丈夫?」
『俺は大丈夫だ』
ナナコの弓の攻撃はバケモノクジラには全くと言って良いほど効いてはいなかった。
『一緒に外に出るって――。こんなドでかい奴をどうやって
緋勇が苛立ちながら叫ぶと、青龍の龍太が『僕がやるよ』とナナコの体内から出て来た。
バケモノクジラはおぼつかない動きで辺りをウロウロしていた。
意外なことに襲ってくる気配がまだない。
青龍の龍太が体を巨大化させていく。素早く水の竜巻の中にうずめてぐるぐるん体を回転させ始めた。
『青龍、すげえ』
「竜巻の回転と逆回転させてるんだわ」
やがて龍太が早く体を回していくと竜巻の動きが一瞬止まった。
ビチャーンッ……!!
竜巻の妖気を帯びた大量の水が海に落ちた。
ナナコの前に光を乱反射させながら、散っていく。
竜巻だった水は生き物のように、わずかにうごめきゼリー状になった。
ナナコが朱雀の炎の弓矢を、ゼリー状の竜巻の残骸に放ち続けると端からどんどん蒸発していった。
「青龍……龍太くん! ありがとう」
「ナナコたちも流石だよ」
残るはバケモノクジラだ。
「ナナコ、乗って!」
青龍の龍太が降りて来て、ナナコは巫女装束のまま袴を着た足で軽やかに乗った。
ナナコは龍太の首付近に座り、ひっしと頸部につかまった。首の鱗の間から生える立髪のような龍太の毛は白く手触りが良い。ナナコの頬に柔らかく当たる。
青龍の龍太がナナコを気づかいながら、バケモノクジラを挑発するように顔の周りを漂い、次に空の穴に向かった。
「あのクジラ来るかしら?」
『たぶん、ね』
青龍の龍太は力強くグングンと空を駆け上がる。
海水と妖気で出来たバケモノクジラは、鳴き声を上げながら空を飛び、ナナコたちについて来ていた。
シロナガスクジラに似た学校のプールほどの大きな体を、馬鹿でかい
薫の心の世界に開いた、空の穴を抜ければ銀翔たちの所に戻れるはず。ぬらりひょんが妖術で作り出したバケモノクジラをみんなで退治する。
玄武である佐藤薫はぬらりひょんからようやく解放されるはずだ。
眼下に迫って来るバケモノクジラの口は縦にも横にも広い。
ナナコと青龍の龍太を今にも飲み込まんばかりに、ぐわあっと開けたままぱっかり大口を維持している。
「ナナコ! 絶対に僕から落ちないでよー!」
「うっ、うんっ!」
ぬらりひょんの妖気の塊のバケモノクジラに飲み込まれたら、どうなるのか分からない。
ナナコはますますしっかりと龍太につかまった。
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