第83話 佐藤薫と銀翔

 ナナコと銀翔が教室に入ると信じられないことに、佐藤薫が登校して自分の席に座っていた。

「かっ薫?!」

 ナナコが薫の席に駆け寄ると、薫は怪訝そうな顔をしてナナコを見た。

「なんだよ、ナナコ。化け物でも見たみたいな顔して」

 だって。ナナコはぐっと押し黙った。

「大丈夫なの?」

「あ〜、なんかさあ。季節外れのインフルエンザだったみたいだよ、俺」

 いつもの薫だ。いつもどおりの明るい薫の笑顔が見れて、ナナコはホッとしていた。

 教室には、始業時間までまだまだ早いから登校して来て席に着いている生徒は少なかった。


「転校生って君?」

 薫は立ち上がって、銀翔に近づいた。銀翔はわずかばかり眉根を寄せて、警戒をしていた。

「ああ。よろしく」

 二人が握手をすると、薫は確かに銀翔の耳元で宣言をした。銀翔にしか聞こえない小さな声で。

『お前さあ。転校早々、ナナコに手を出すとはいい度胸してんな。俺はお前からナナコを奪い返す』

 銀翔は目を見張った。

 遠くから風森町の住民を長いこと見ていたが、前の佐藤薫の印象とは違う。

 だが、ぬらりひょんの妖気は全くもってしない。

『俺は昔からナナコが好きだ。佐藤薫、お主に渡す気はない』

 銀翔も薫に宣言をした。


 雪菜が教室の隅でそんな銀翔を切なげに見つめていた事には誰も気づいていなかった。

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