第80話 ナナコの部屋で
ナナコの部屋に銀翔と緋勇がいて、青龍が部屋中を飛び回っている。
ナナコと銀翔は中学校の宿題を二人でしながら、ナナコが解けずにいる数学の問題を銀翔がすらすらと解いてしまうものだから、ナナコは少し面白くなかった。
「銀翔、数学得意なの?」
「得意かと聞かれたらよく分からぬが、一度教科書なる物とナナコの持っている参考書を見たら、覚えたようじゃ」
ぷうっとナナコは頬を膨らませた。
「ナナコは数学が嫌いか? どれ、教えてやろうかの」
銀翔がナナコの横にピッタリつくと、ナナコの顔が真っ赤になった。
「なあ。ナナコと銀翔は恋人同士なのか?」
緋勇がそう言うと銀翔が笑った。
「そうじゃ。昔っからのな」
「昔から?」
「そのうち
緋勇は不思議そうな顔をして二人を眺めた。
「銀翔はおきつね様で、ナナコは神獣使い。二人はずっと一緒にいられるの?」
ナナコがその緋勇の言葉にハッとした。あまり考えてこなかったからだ。
松姫の時には戦に巻き込まれて死んでしまったけれど、もしあの時死んでなかったら、銀翔と私はどうなっていたのだろう?
「ワシはナナコとなにが起きようとずっと一緒におる」
「銀翔」
二人が見つめ合うと緋勇の方が恥ずかしくなって、急にしゃっくりが出始めた。
「ひっく…ひっく…。あ〜見てらんないや。俺、先に銀翔ん家に帰る…ひっく」
そう言うと緋勇は青龍と、銀翔の屋敷に続く道が繋がれた不思議な穴に入って行った。
「銀翔、今夜は私が銀翔の館に行きたい。緋勇くんについていてあげたいの」
「そうか。……それが良いかもしれぬの。
大狸の空知葉たちは銀翔の屋敷にしばらく滞在しているので、頼りになる。
今夜はナナコの身代わりを頼むことにしよう。
「私は自分の身は自分で守れるようになりたい」
ナナコは周りに迷惑をかけたくはなかった。
自分の家にいる時にすら、ナナコはぬらりひょんの襲撃の可能性がある。
たとえ結界を施しても、毎回ぬらりひょんは突破してくるのだ。
神の
ぬらりひょんに支配された薫の家は目と鼻の先だと言うのに、気配を感じられないのが返って不気味に思えてならない。
「ナナコの考えには感心するが、ぬらりひょんが相手ではな」
あれだけ集まったカラス天狗たちもどこに潜んで居るか
「いつかまた平穏を取り戻せるよね」
「当たりまえじゃ、ナナコ。なにやら弱気だのう」
ナナコは銀翔の肩に寄りかかった。
銀翔がナナコの肩を優しく抱くと二人の胸に安堵が広がる。
「あたたかいね。銀翔の鼓動が聞こえる気がする」
「そうじゃな」
二人はしばらくそうしていた。
不安が襲うことのないように。
中学校の宿題を銀翔とやり終えてナナコはいつものように、何事もなかったように母と祖母と談笑しながら晩御飯を食べた。
風呂に入り部屋に戻ると、銀翔がベランダで月を眺めていた。
時々狐火を出しては、術の稽古をしているようだった。
ナナコは銀翔を見つめていた。
銀翔、あなたに恋して私はこんなにも豊かな気持ちになれるのね。
松姫としての私も、ナナコとなった今もずうっとあなたといられて、とても幸せだよ。
ナナコは胸が満たされる思いだった。
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