少年朱雀

第76話 倒れた少年

 目に飛び込んできた光景にナナコは慌てた。

 ナナコは銀翔と倒れた少年に駆け寄り、バンショウはその場に留まり川原をなぜかじっと目をこらし見つめている。


「大丈夫っ!?」


 ナナコはうつ伏せになって倒れていた少年の体を返して銀翔と抱き起こした。

 ナナコは少年の体をさすり、銀翔は背中を支えて怪我がないか確認しようとしたのだが。

 銀翔が少年の瞳を指で開けて見た瞬間、驚いた顔をした。


「ナナコ。この者からは四神獣の気配を感じる」


 銀翔は右手を空中にかざすと、晴れ渡った空に急に黒い雨雲が湧いて出て大雨が降り出した。


「浄化の雨じゃ」

「あっ!!」


 空の遠く彼方から、青龍が飛んできて少年の胸に留まる。

 青龍は少年に体を擦り寄せた。まるで昔からの馴染みのように。


 少年を浄化の雨が包むと、彼はみるみる赤い羽根を持つ荘厳な鳥の姿に変わりだした。


「この者は朱雀じゃな」

「すっ、朱雀って……」


 ナナコが銀翔に問いかけた時、川から何匹かの妖怪が這い出てきた。


「ぎっ……、ぎぎ銀翔さまあー!」


 川原を警戒していたうさぎのバンショウが大声を上げて、ナナコと銀翔に叫んだ。


「綺羅川だからな。まあ、あやつらが来るとは思ってたのじゃ」

河童かっぱ! 銀翔、あの妖怪たちって河童だよねっ……」

「すまんのう、ナナコ。この間の河童たちは、まあ根が深くしつこい」


 青龍くんを探している時に河童たちの住まいを不可抗力であるにせよ、荒らしたのは悪かったと思っている。


 銀翔はあのあと再三、河童の長に謝りに行ったが取り合ってもらえなかったのだ。

 銀翔はあたりを違う空間に落とした。人間たちに妖怪や己の姿が見えないように。


 ――周りの景色はみるみるセピア色に変わる。


 銀翔の妖力の及ぶ範囲において、あやかし世界と人間世界の次元の交流が止まる。


 銀翔がぶるっと体を震わすと中学校の制服から藍色の和服に変わり、大きなふわふわの尻尾と頭の上にぴょこんと銀色の毛並みの耳が出てきた。


「キツネ。また来たのか?」

 若い背の高い河童は明らかに怒りを込めた目で銀翔を見ていて、今にも掴みかかってきそうな気迫をこちらに発しているのだ。

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