第75話 二人の下校途中で……

   ✧✧✧✧


 一人、少年が歩いている。

 真夏の陽炎かげろうの様にゆらりゆらゆらと揺れて、ふらりふらふらと足元はおぼつかない。



 ――腹減ったなあ。

 あっちぃし。

 くっそぅ……。なんでこんなとこに居るんだよ、俺は!

 はあ、はあ。

 思い出すのは親戚って奴らの家をあちこち行かされて、居場所がなかったってこと。

 俺はなにも特技もないしやりたい事もないし、親も兄弟もいねえ。

 飯を食ったりする金もないし、これからどうしようか。


 暮らしていくには、俺が一人でまともに生活するためにはどうしたらいいんだよ?


 生まれた時に親は死んだと言う。


 俺の周りには優しくしてくれるやつなんていねえし、俺はうとまれている。

 この容姿のせいか?

 そうだろうなあ。

 茶色よりの赤すぎる髪に見る角度によっちゃあ赤い瞳。

 ――なによりさ。

 俺が泣き叫ぶと、周りの物が燃えた。


 あー。マジやべえ、やべえや。

 腹減りすぎて、腹が痛え。苦しくて辛い。

 苛つく。苛つく。

 何もかもが腹立たしい。


「おっ。川があるわな」


 俺さ、魚とりとかしたことねえんだわ。

 だけど、食いてえな。

 なんか食いてえ。

 でかい魚が食いてえなあ。

 だめだ。

 お腹すいた。

 腹が減ったよぉ。

 どうやって魚をとりゃあ良いんだよ。

 なぁ、母ちゃん

 もう母ちゃんのとこに行きたいよ、俺。俺、なんのために生きてんの? なぁ、母ちゃん。返事してくれよ。

 俺を迎えに来てよ、母ちゃん――



   ✦✦✦✦




 藤島ナナコは銀翔と中学校から帰る途中だった。


「むっ……、この気配……」


 銀翔はピリッとしたものを、肌で感じ取った。


「銀翔さま。なにやら変わった妖気が漂いますな」

「ああ、そうであるな」


 隣りを同じように中学生の姿になって歩くうさぎのバンショウが、銀翔の耳元近くでささやく。


 八百屋の息子の佐藤薫は、体調不良で学校を数日休んでおり銀翔が様子を見に行くと、ぬらりひょんの妖気は一切しないのだった。

 薫は寝ているだけのように見えるのだが、少しやつれたように感じる。


 時々、薫はぬらりひょんの依代よりしろになっているということか。


 銀翔は出ない答えにきゅうしながら、あたりを探る。


 妖気が確かにする……な。

 微かな『火』と獣の気配。


「ナナコ。なにやら妖かしの気配がする」

「えっ?」


 ナナコは銀翔の言葉に身構えた。


 周りには下校途中の中学生がたくさんいたが、ナナコと銀翔とバンショウの三人は道から外れて綺羅川の河川敷に降りた。


 転がる小石を踏むたびにジャッジャッと音がした。


 妖気の漂う方向に三人が向かうと、川辺の水のきわに子供がうつ伏せに倒れていた。





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