第65話 雪女参る

 おきつね銀翔は焦って、ナナコの気配を探りながら異空間を走り続けた。

 狐火を出来るだけ多く作りながら、実体化させてキツネの形にして放ち続けた。

 ほどなくして狛犬のシンラと兎の爺やのバンショウが、銀翔の元に走って来た。

「銀翔さま! 申し訳ございません」

「ギンショウ、ナナコイナイ」

「ワシが迂闊うかつだったせいじゃ。ワシがそばにおったのに、ナナコをさらわれてしまった」

 ナナコを連れ去ったやからはまったく妖気を感じさせなかった。

 敵は確実にこちらより力が上手うわてと言うことかっ。


 銀翔は苛立ち、体が白銀に燃えた。

 大ギツネに変化して感覚を研ぎ澄ます。

〈銀翔ー!〉

 ナナコの声がした。


 その声を頼りに異空間を四肢を素早く動かしてくうを蹴り上げて、ナナコの声がする方に向かう。

 三人は渦巻く大きな穴に着いた。

「ナナコの声がする」

 銀翔が先に飛び込んだ。

 次にシンラとバンショウが頭から勢いづけて飛び入ると、穴の中は真っ暗で四方八方から小刀に似せた妖気の塊が三人めがけてスピードを増して、どんどん斬りつけて来る。


 銀翔は雨を降らせて風を舞わせ、小刀を巻き上げてシンラとバンショウを守る。


 三人はやがて体を吸われるようにして、穴の先に出た。


「ナナコー!!」

 銀翔が目にしたのは天井から鎖で吊り下げられ、蜘蛛の糸でところどころ巻かれた体でぐったりと意識のないナナコの姿だった。

「来おったな。キツネ」

 ナナコの下にいた薫がこちらを振り向けば、彼はギロリと目をき不敵に笑った。

「ナナコに何をした?」

 銀翔が薫と対峙する。


 急に銀翔の後ろから強風が吹いて、やがて暗闇に雪が散る。

 突風が吹き荒れた。

 粉雪が通路を支配する。

 雪自体が発光して暗闇にぼんやりと灯った。

 あたりを不思議な雪の光りが包み、銀翔の横にシンラとバンショウが並び、さらにシンラの横に白い着物の女が立った。

「雪女の雪菜。加勢いたしますわ、銀翔さま」 

「ああ、感謝する。まさか雪女一族が夏に里から人間界に来ているとは驚きじゃ」

「ナナコは私の大切な友人でもありますもの。友の敵ならば、ぬらりひょんは私たち一族の敵に同じ」

 その雪女はナナコのクラスメイトで、友達の加賀雪菜かがゆきなだった。

 

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