第35話 昔ものかたり 戻る銀翔

 縁側で暖かい陽射しを浴びながら、オロチは愛しい松姫様の隣りに座りました。

 とてもこころ満たされた気分になり酔っておりました。


 オロチがなぜ松姫様に裁縫を教えてもらいたかったというのは……。


「ニャアッ……」


 オロチの着物の胸元から生まれたばかりの白く短い毛並みの仔猫が鳴きながら出てまいりました。


「まあっ、可愛らしいっ!」

 松姫様は昼寝から起きたてのオロチの仔猫を抱き上げました。


 松姫様が白い仔猫に頬ずりする姿に、オロチは再び胸がぎゅっと締めつけられたのでございます。


「その猫の寝床を作ってやりたくってさ」

「良いわね。私も手伝うよオロチ」

 仔猫を抱く松姫様がオロチに微笑みました。



 しかし残念なことにこのオロチと松姫様との約束は果たされることはなかったのでした。


 この時のオロチにも松姫様にも予想のつかない事態がもうすぐ襲おうとしておりました。



 やがておきつね銀翔さまが館に帰られました。

 ワタクシめバンショウとともに。


 銀翔さまは愛しい松姫様と心許した仲間の大妖怪オロチの姿を見つけて、まぶしそうに瞳を細めて笑って言いました。


「ただいま」

「お帰り! 銀翔。バンショウ」

「よお戻ったか。銀翔。バンショウ」

「はい。戻りましてございます」


 お三人様はとても仲の良い微笑ましい仲間でございました。


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