第32話 昔ものかたり 告白

 いつしか二人は優しく口づけていました。

 松姫様はじいっと潤んだ瞳で上目遣いに銀翔様を見つめております。


「銀翔。ずっとあなたが好きだったし、これからもずっと好きだよ」

「ああ。松姫……。よう言うてくれた」


 おきつね銀翔様は自分のためにやっとそう告げてくれた松姫様が愛しくて愛しくて。


「このままそちと愛を交わし続けて、幾度も口づけをして加護の力に変えてもよいかの?」

「なっなっなっ! なにいって……んっ」

 おきつね銀翔様は松姫様の頬に口づけてから、ニコリといたしました。

 松姫様は真っ赤になった顔をそのまま銀翔様の胸にうずめました。

(あたたかい)

 銀翔様の温かさに松姫様はほうっと愛しいため息をつかれました。

 銀翔様はそんな仕草の松姫様がとても可愛らしくて優しく微笑んで大きくとも美しい節の手で松姫様の頭を撫でました。


「しかたない。今宵は舞いで我慢いたそうか」

「当たり前でしょ」


 まだ一度も殿方と愛を交わしたことのない松姫様にとって、今からいくらでも口づけしたりして下さい。はい、どうぞなんて言われたってとんでもなくはなはだしいことでございました。


 とても微笑ましいお二人の姿に銀翔様の上司のうかのみたまの神様も実はそばにこっそり下天して来ておりました。

 神楽殿の舞台の袖から銀翔様と松姫様の愛の始まりを、見守る親のような気持ちで喜び微笑んで美しい目尻をさげておりました。


 

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