第30話 昔ものかたり 銀翔様が抱く松姫様
「松姫」
「銀翔?」
おきつね銀翔様は大切なお役目である加護強化の神楽の舞いを舞うのをやめてしまわれました。
松姫様は怪訝な表情をして銀翔様をじっと見つめております。
美しい双眸の瞳は濡れて輝いていて、銀翔様は松姫様の視線を真っ直ぐに見つめ返します。
「松姫、そなたを抱かずして今宵の舞は完成しないのじゃ」
そう言って銀翔様は松姫様の元へと優雅に歩き、神楽殿の舞台袖にいた松姫様をヒョイっと横抱きにされました。
「きゃあっ。ぎっ、銀翔?」
神楽殿に松姫様を招き入れると二人の体は淡く光り輝きました。
「松姫。噓はいけぬことよのう」
「私があなたに嘘を申していたと?」
銀翔様は松姫様をぎゅうっと抱きしめましたのでございます。
「わしを愛しんで恋し好きになった者しか、この神楽殿では光らぬのを忘れたか?」
「銀翔ずるいわよ。あなた!」
そうなのでございます。
実は舞いの儀式の他にも風森の村を護るすべはあるのでございます。
「わしと愛を交わせば立派な風森の加護となる」
松姫様は恥ずかしくて恥ずかしくて逃げ出したい思いでございました。
だってずっと松姫様は恋焦がれていたのに、銀翔様への思いを誤魔化し続けてきたのでございます。
男女の誠の愛情も相手を想う心は風森を守り世界を護る立派な御加護の力となり得るのです。
「婚礼の儀をする前に松姫が向こうの不義理で破談となって良かったなどと、思うてはならぬことなのに。わしは心底安堵しておる」
「……銀翔……、あの人と結婚しなくてもまた新しい人が私にあてがわれるのよ」
「わしが松姫を貰い受ける。神職であれど妖狐であれど、わしが松姫を我が妻にとお父上に懇願しよう」
「そ、そんなことが許されると思う?」
「神に仕える妖狐が神聖なのは風森の民に昔々から言い伝えられておったろう? 護り人の家系が拒むことは否――だ。わしは力づくは好まぬが、もし阻むものが現れるのならばどうにでもしよう。松姫が
「め、夫婦? 銀翔と夫婦になることが叶うというの?」
「妖狐は人間とも近しいのじゃ。現に妖狐と人間の子はおおぜいおる。人間が知りたがらないだけで、血は混ざり合い半妖はずっと太古から存在は地上に生きてきた。人間と妖怪の境はなんぞ? 生きている世界や種族が違うことか? 松姫、その境は愛する気持ちで有に越えられると思わなんだか?」
銀翔様は松姫様の頬を両の手で包み込み、そっと微笑みました。
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