第10話
次の日の朝。
女性の身体のまま起きた。
もう僕は本当に戻れないのではないかと思うようになる。
この身体のまま高校に行くのは無理なので、
今日も学校はお休みとなる。
お姉さんが第一高校の編入学の手続きをしてくれる。
そして今まで通っていた第二高校の手続きは母親がしてくれると言う。
僕はお姉さんのくれた服に着替えて、
第一高校の編入学の本人手続き待ちとなった。
お姉さんから電話が入り、
今日の午後三時に第一高校に行くことが決まった。
「ちゃんとした服装、髪もしっかりとまとめてから来るのよ」
お姉さんにそう言われたが女性の言う『しっかりと』とは、
どの程度を表すのかがはっきりと判らない。
「放課後に校門の前で待ってるから、門の前で待ち合わせね」
そこで僕は服装と髪型チェックを行うことに決まった。
なにからなにまですべてお姉さんペースに巻き込まれている気がする。
そしてこれは女性になってから気が付いたことだけど、
匂いにすごく敏感になっているように思う。
なんか汗のにおいがとても気になる。
今まで男の時はそういうことってあったかな?
寝起きは特に寝汗をかいているのか、なんかイヤだ。
着替えてしまったのだがもう一度シャワーを浴びることにした。
夜に頭を洗ったのだけど、朝も洗いたいと思った。
そして身体も頭も洗いなおしてさっぱりとした。
そういえばお姉さんって制汗スプレーとか塗るやつとか持ってたっけ。
無香料のものをお姉さんは好んで使っていた。
いろいろな香りのものがあるんだから
わざわざ無香料にしなくてもいいのにと思ったもんだが
香料があるものが臭いと感じてしまう僕が居る。
ドライヤーで髪を乾かしてブラシで髪をとく。
(もうちょっとこう……なんて言ったらいいのか……)
自分でなにをしたらいいのか判らないが髪がまとまらない。
思い通りに出来てくれない。なんか気になってしまう。
「うわ!なんかムカつく!」
結局、ヘアゴムを使い後ろで束ねてしまった……。
ヘアゴム万歳。
そんなことをしているともう時間は午後二時。
この時間の過ぎる速さってなんだろう。
本当に男性の時と同じ時間を過ごしているのだろうか?
女性は起きてから支度をして出かけるまでの時間が男性の比ではない。
とても時間がかかると言う。
何故そんなに時間がかかるのか?という疑問があったが、
実際に自分が支度をしてみて、支度が遅いと言う自覚は無い。
時間のほうが早く過ぎていくのだ。
もうこんな時間が経っているんだと気付かされるのだ。
バッグにヘアブラシと財布を入れ、
ポケットにスマホを入れる。
そして出かける前にもう一度姿見を見る。
そうして服装チェックして自分なりに直してみる。
(もうちょっと髪を……)
いろいろと弄りたいのだが、もう出かけないと間に合わない。
家を出て鍵をかけ、すぐに電車の駅に向かった。
途中に近所のおばちゃんが居たので、
「こんにちは!昨日はありがとうございました」と挨拶をした。
「あら結ちゃん、今日はお出かけ?」
「はい。第一高校の編入学手続きをしに行って来ます」
いつもはうざったるく感じていたおばちゃん達。
なんかいつもと違う感じで普通に挨拶が出来た。
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!行って来ます!」
僕はおばちゃんのほうを向き、お辞儀をして挨拶した。
この僕があのおばちゃん達に?
一体どうしたんだ僕!
すぐに向きなおして駅に向かって走っていった。
☆彡
市内には約60もの高校がある。
そしてその高校の中に普通科や商業科などの科目を入れていくと
さらに多くの学び舎が存在する。
その中でも私立の高校にしてほとんどの生徒が有名大学進学という
偏差値上位の高校が存在する。
それが城北第一高校と城北女子第三高校である。
僕の通っていた県立城北第二高校では偏差値が48くらいだ。
それに比べて第一高校と第三女子高校はレベルが段違いである。
偏差値で言うと70くらいは欲しいと言われている。
偏差値48の高校に通っていた僕が、
偏差値70の高校に編入学するというのだから無理だろ……。
第一高校に着くとお姉さんが校門前で待っていた。
「結ちゃん、遅い!」
学校に着くなりいきなりお姉さんに怒られる。
そして僕の姿を見るなり次々と手直しがされていった。
まず服装、そして髪型。
唇にリップをつけられ「はい。ん~っぱ」
お姉さんの口の動きを真似して「ん~っぱ」をする。
リップに味がついている感じがして咳をすると、
「咳をするときは、しとやかに口を手で隠す!」
女の子ってこんなに大変なものなのか。
お姉さんと一緒に学校に入る。
「お姉さんさ。こんなレベルの高い学校に僕が入れると思うの?」
僕はお姉さんに文句を言っていたが聞き入れることはしない。
職員室前に来てからお姉さんは僕にこう言った。
「出来る出来ないは聞いてない。とにかくやれ。文句はやってから聞く」
そう言って職員室の扉をノックし扉を開けた。
「三浦由依、編入試験者一名を連れ、出頭しました」
軍隊かよ……。
職員室の奥から1人先生が来た。
「三浦由依、編入試験者一名と共に面談室にて待機!」
「三浦由依、編入試験者一名と共に面談室にて待機。了解しました!」
そしてお姉さんの後を付いて行った。
面談室と言われている部屋は職員室の隣にあった。
職員室に入ったお姉さんと僕の二人は立って待っていた。
部屋を見渡してみると角が丸くなった長方形のテーブル。
座り心地が良さそうな椅子がそこにはあった。
空調設備は万全でちょっと涼しく感じた。
先ほどの職員室に居た先生が面談室に入ってくる。
先生が椅子の横に立つと
「三浦由依。編入者一名来い!」
お姉さんが呼ばれたように歩き出す。
私もお姉さんの後ろを歩いた。
そしてお姉さんは先生の向かい側の椅子の横に立った。
僕はお姉さんの隣の椅子の横で立った。
「名を名乗り、そして座れ」
「三浦由依、座ります」
「三浦結 、座ります」
お姉さんと僕は一緒に座った。
一体、何なんだよ。この学校は!
「それでは今から編入試験を開始します!」
僕はお姉さんを見た。聞いてないよ!
僕の最大のピンチが再び訪れることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます