第62話今日、うちに来て?
山野さんと文化祭を回れたのもあっという間。
途中、お化け屋敷で山野さんが腰を抜かすというイベントがあったり、駄菓子をたべたり、色々と楽しめた。
しかし、それもおしまいだ。
クラスの駄菓子屋で、俺が店番をしなくてはいけない時間がやって来てしまう。
「そろそろ時間なのですみません」
「もうそんな時間が経ったんだ……。ところでさ間宮君。放課後というか、生徒会で校内の見回りが終わった後なんだけど、暇?」
「暇ですけど……」
「じゃ、私の部屋に来てくれると嬉しいな~。なんてね?」
「え? そ、それってどういう事ですか?」
「ん~、内緒。じゃあ、放課後、私の部屋ね? バイバイ!」
い、一体、な、何があるんだ?
お部屋にお呼ばれした?
理由も無くお呼ばれしたわけがないし……。
とはいえ、だからと言って、別に何か特別なことが起こるかと言われれば、起こらないに違いないわけで……。
「分からない。でも、良い事であって欲しい……」
去り際に勢いで取り付けられた約束。
それになんの意味があるのか不安、その他いろいろを抱えながら、俺のクラスがやっている駄菓子屋の店番を始める俺であった。
店番を初めて数十分。
今日は外部のお客さんは入れない日。
人は少なく、横には店番つまらない~って顔をしている相方が一人。
その名も高藤(たかとう)さん。
お客さんが駄菓子を見ている中、それをぼ~っと眺める時間が大半を占めるのだから、暇なのは仕方がない事だ。
で、暇すぎた高藤さんは俺に話しかけて来た。
「ねえ、間宮。そういや、生徒会長とはどうなの? 楽しそうに歩いてたって周りから目撃情報が多数寄せられてるけど」
暇を持て余した高藤さんに話しかけられた。
「仲の良い友達ってとこだ」
「嘘つけ。絶対、出来てんでしょ」
「そ、そうか?」
出来てるでしょと言われて嬉しくなる。
周りからそういう風に見られているとか、普通に嬉しい。
でも、それに反して、実際は山野さんと付き合っていないと言うのが、これまた俺の心を抉っていて……
「ま、会長さんは人気だし、本気なら早いうちに勝負しときなよ?」
「だよなあ……」
早いうちに勝負しなかったかせいで、今の状況に陥った。
もう少し、この関係を壊したくないという気持ちを打ち破り、恋愛成就に力を入れていたら、きっと今はなかっただろう。
「その様子からしてやっぱり、好きなん?」
「お前も結構、ずけずけと聞いて来るタイプだよな」
「こんくらい普通っしょ。で、どうなん?」
山野さんのためを思うのなら、俺との色恋なんて噂をされるのは駄目。
と思ってたが、何だかんだで、俺が神経質になりすぎなだけ。
先生方も、そこまで見ていない事に気がついた。
この学校でイチャ付いてるカップルを見た学年主任の先生が『こんなとこでイチャイチャすんな。内申点に響くかもな~。ほれ、下げられたくなければ、人目の無いとこでやれ』って優しそうに語り掛けてたのを見たし、他にも色々と見た。
まあ、誰しもが、あの先生みたいな人ではないだろうけど。
……でも、それでも考えすぎて臆病になるのはもう辞めだ。
「まあ、そうかもな」
「なるほどねえ……」
否定しないがはっきりと否定もしない俺。
考えすぎて失敗してるのが今。
もっと、気楽に思いを素直に伝えて行くのこそ、きっと、山野さんへの近道だと信じ突き進まなくちゃダメだ。
せっかくだ。聞かれたからには聞き返すか……。
「高藤さんこそ、好きな人はいないのか?」
「おー、聞いちゃう? まあ、しゃあない。話してあげようじゃないの。私、実は彼氏いる」
「マジか」
「男どもには一言も言ってないからね。ビビった? 私に彼氏がいるって知って」
「いや、まあ、そこそこ」
「それは私が彼氏も出来そうにない女だってけなしてる?」
「全然。で、どうなんだよ。彼氏さんとは」
「あー、恥ずかしいからあんまり言いたくないけど、間宮にも色々と聞いちゃったし、少しだけ話してやるか……」
それから、高藤さんと彼氏さんについてちょっぴり教えて貰った。
のだが、
「……」
「ん、間宮。さっきから元気無さそうにしてるけど、どうした?」
「何でもないぞ」
高藤さんは付き合い立て。
その付き合い立ての恋人同士の距離感と言うものを知ったのは良い。
けど、けどな。
今の俺と山野さんが取るコミュニケーション以下だったんだが?
つまりだ。
俺と山野さんのコミュニケーションはもはや付き合い立ての恋人以上。
いや、分かってたぞ?
分かってたけど、こう改めて実感させられると辛いものがあるわけで……。
「間宮は会長さんと、私達みたいな恋人になれるように頑張りなよ?」
「あ、ああ」
もうなってるんだよなあ……。
付き合い立ての恋人以上、なのに恋人ではない。
よしっ。もっと気合を入れて頑張らなきゃな。となれば、情報収集だ。
高藤さんにずけずけと聞き入って、色々と恋について知ってやる。
暇してる俺は高藤さんにどうやって恋人になったのか、どっちから告白したのか、などなど色々と聞くのであった。
夕方。
一日目の文化祭は何事もなく終わりを迎えた。
生徒会で校内の見回りをしている間、他の人も一緒に居る訳で、どうして俺に『放課後、私の部屋ね?』だなんて言って来たんですか? と聞けずにもやもや。
見回りも終わって、いざ帰ろうって時には、山野さんはいつの間にか居ない。
結局、どうして部屋に来て欲しいのか分からないまま、山野さんのお部屋へと向かう。
ゴクン。
生唾を飲み込んで、お呼ばれした山野さんの部屋のインターホンを鳴らす。
中から、歩く音が聞こえ、玄関が開く。
「どうも、言われた通り暇なので来ましたよ」
「うんうん、あがって、あがって」
部屋に入れて貰う。
つい最近まで、お隣に住んで居た俺にとって、山野さんの部屋の間取りは何となく懐かしさを感じさせる。
で、招かれた俺はドキドキ、何が起こるのか待ち構えるも、待ち受けていた事の普通さに拍子抜けしてしまう。
「という訳で、間宮君。一緒に食べよ?」
「……文化祭のあまりですね」
「そういうこと。文化祭で売れ残った料理を色々と貰ったと言うか、押し付けられちゃったんだよ。生徒会長って一人暮らしですよね~、良かったら持って帰ってくださいって。去年も、今日みたいに色々と押し付けられて、食べるのに苦労した。で、まあ今年は一緒に食べてくれそうな子がいるわけじゃん? だから、一緒に食べない? って事で呼んでみたんだよ」
長々とした説明。
山野さんはときたま、捲し立てるかのように説明する事があるんだよな。
思いのほか、普通過ぎる出来事で拍子抜けしてしまっている俺。
普段は別にこの長々とした説明に突っ込まないが、つい突っ込んでしまう。
「またまた、そんな長々と説明して……、本当は俺と一緒に過ごしたかっただけですよね?」
ツッコミが気持ち悪すぎる。
本当にめっちゃ気持ち悪い事を言ったな……。普通に反省しとこう。
「さ、さあ?」
きょろきょろと目を泳がせる山野さん。
気持ち悪いとか、気色悪いだとか、そんな感じの顔じゃない。
あれ?
もしかして、俺と本当に一緒に過ごしたくて、今日は部屋に呼んでくれたんじゃないのか?
答えを知りたい俺は突き進む。ここで、誤魔化すのはもう御免だ。
「本当はどうなんですか?」
「……」
「や、山野さん?」
無言のまま。
俺に近づいて来る。
ただならぬ雰囲気を纏わせながら、近寄られて耳元で囁かれる。
「そうって言ったらどうする?」
「……え、あ、その」
たじろぐ俺。
めい一杯、俺の耳元に顔を近づけているせいで見えない山野さんの顔。
「あはは、ごめんごめん。間宮君が変なことを言うから意地悪しちゃった」
「っく。男心をもて遊ぶとは……卑怯ですね」
「えー、そう? 間宮君こそ、私の乙女心をもて遊ぶ時があるじゃん」
「ちなみにどういうとこですか?」
「ん~、看病してくれた時、様子を結構見に来てくれたじゃん。あれは、どう見ても私の乙女心をくすぐるに決まってるでしょ」
……あれ? 待った。
今の何気ないやり取りは何気ないやり取りじゃ無くないか?
いや、まあ、つまりは、そう言う事だよな?
「ときめかせちゃってすみません」
「うんうん。気を付けたまえよ。間宮君!」
ビシッと指をさして注意された。
「はいはい、分かりました」
「うわー、何そのにやけた顔。絶対、私の言った事、分かってないじゃん」
にやけた顔。
そうならないわけがない。
しれっと、山野さんは俺のことをちゃんと異性として見てくれてるって言ったんだぞ?
乙女心をもて遊ぶ。
そう思うって事は……少なくとも『友達』だとしか思われていないと思っていたが、そうじゃないって事だろ?
っと、たかが山野さんが俺に対してちょっとときめいてくれている事が判明しただけで、焦るなよ俺。
「いつまでも話してないで、一緒に残り物を食べましょうか。あ、姉さんの夕食として少し貰って行っても大丈夫ですか?」
「うん、全然いいよ。むしろ、お姉さんにもって思ってたし。ささ、何から食べる? 焼きそば、たこやき、お好み焼き、デザートでフルーツポンチもあるよ?」
焼きそばとかたこ焼きは冷凍のもの。
しかし、冷凍したままだと明らかにレンジするのが間に合わない。
そこで、ある程度、解凍しておく。
解凍してしまったやつは、次の日に持ち越しはNGらしく、こうして余ってしまったのだろう。
「じゃあ、焼きそばから」
「おっけー。じゃあ、温めてくるね!」
「あ、すみません。トイレ借りても良いですか?」
「良いよ。もう、お隣は間宮君の部屋じゃ無いんだし」
お隣同士だった時は、自分の部屋のトイレを使うっていうルールだった。
しかし、もはやそのルールは成り立たない。
よって、俺は仕方なく、山野さんの部屋に備え付けられたトイレを貸して貰うことにした。
……大きい方じゃないし、匂いとか大丈夫なはずだ。
割と乙女みたいな気持ちでトイレを借りた俺は山野さんが待つ部屋に戻る際、台所に目を奪われた。
水洗いされたコンビニ弁当の容器。
一つだけならまだしも、重ねられているのだ。
さて、山野さんが待つ部屋に戻ったら、言わなくちゃいけない事が出来たな……。
「ふぅ。ただいまです」
「あ、お帰り間宮君」
トイレから戻った俺を、焼きそばを食べながら迎えてくれる山野さん。
そんな彼女に目を細め、やや威圧しながら、はっきりと告げる。
「山野さん。最近、自炊してませんよね?」
「……」
「黙らないでください。隠しても無駄ですよ?」
「だって、間宮君がいなくなって、やる気でないんだもん……」
っっっつ! ヤバい……。なにこの山野さん。
反省はしてるけど、しょうがないじゃんとちょっぴり開き直った目。
俺が居なくなって、やる気が出ないとかナチュラルに誑かすようなことを言われたせいで、一気に顔が熱くなって行くのが分かる。
「間宮君がいなくなっちゃったせいで、やる気でないんだもん……」
さらにもう一度言われた。
ああ、もうだめだ。
俺が居なくなったせいで、やる気が無くなったとか惜しげもなく言うあたり、本当に山野さんってずるい。
気持ちを抑えるためにも、俺は優しく山野さんにデコピンする。
「あたっ! なんで、デコピン?」
「いえ、ずるい子にはお仕置きしなきゃですし」
「そこはずるい子じゃなくて、悪い子じゃない? というか、あーあ。これは、あれだ。デコピンされちゃったし、間宮君には私がちゃんと自炊してるかどうか、見張って貰わなきゃダメかな~、なんてね?」
ちらちらと顔色を覗われる。
……冗談のつもりか、本当のつもりかは良く分からないが、もうお構いなしだ。
「はい、そうしましょうか」
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