第37話お出掛け プール編

 ……時間と言うのは過ぎるのが早い。

 気が付けば、山野さんとプールに行く日を迎えていた。


「じゃあ、行こっか」

 白いブラウスとスカートを身に纏った山野さんが、待ち合わせの時間になると部屋に来てくれ、合流した俺達はアパートを出る。

 今日、行く予定のプールは屋内プールであり、温水、年がら年中開いているレジャープール。下調べをしたところ、ウォータースライダーや大きい流れるプールと言った感じで楽しめる要素は強く楽しめそうだ。

 交通手段は、最寄り駅まで電車で行き、そこからはバスで移動する。

 そんな移動中、電車に乗ってシートに腰を掛けて少し経った頃だ。

 山野さんがうとうとしていて眠そうなことに気が付く。


「昨日は夜遅くまで起きてたんですか?」


「まあね。こう言う風にお出かけするのが楽しみで寝れなかったんだよ。間宮君は良く寝れた?」


「普通ですね。着いたら起こすので寝てても大丈夫ですよ」


「そっか。じゃあ、お休み……」

 目を閉じ、少しの間だけ眠り始める山野さん。

 寝て居る姿が愛おしくて、目を離す事が出来ない。頬っぺたをついつい触りたくなるもグッと堪える。

 横で眠る山野さんを横目でずっと見つめているだけで時間が過ぎて行くと思いきや、やや眠りが深くなってきたのだろう。

 俺の肩に寄りかかって来た。その重さがどこか心地が良いのは言うまでもない。




 そんな電車での出来事も束の間。

 電車降り、バスに乗り、気が付けばレジャープールに辿り着いていた。


「着いたね」


「はい、それじゃあ着替えたら更衣室の前で待ち合わせでお願いします」


「了解。じゃ、着替えた後で」

 チケットを購入後、それぞれの性別の更衣室へ。

 ……男性用の更衣室で俺はあっという間に着替えを終えた。

 男なんて脱いで穿くだけである。


 更衣室を出て山野さんを待つ。

 さすがに俺みたいにすぐに着替え終わるなんて事は無く、姿を見せたのは俺が着替え終わってから5分以上経った。

 

「お待たせ」

 水色のホルターネック式の水着、手首にはロッカーのカギ。

 そして、あれだ。

 肩に掛かるか掛からないかくらいの髪が今日はポニーテールになっていた。


「今日は髪型が違うんですね」


「私は体育の時とかはこのスタイルだよ。あ、そう言えば、お部屋で水着を見せた時は結んでなかったっけ?」


「はい。普段と違って首の後ろが良く見えて新鮮で、その……えっと、印象が違くて凄く良いです」

 見ているだけで照れてしまうくらいに良い。


「お褒めの言葉をありがとね。間宮君にそう言われて嬉しいよ」

 俺の言葉に反応を示した後、俺の体をジーッと見つめ始める。


「運動部に入ってないのにその腹筋は改めて見ると凄いかも」


「一応、中学の時はバスケットボールをしてたので、その名残です。だいぶ筋肉が落ちて来てますけどね」


「へー、やっぱりそうなんだ。前に見た時も凄いなあって思ってたし」

 近づいて来て腹筋をまじまじと見つめて来る山野さんに気になることがあったので聞いてみる。


「前に見た時って?」


「……。ち、ちらっとだよ。ほら、Tシャツがめくれた時とかに。別に勝手に服をめくって見てないからね?」

 Tシャツがめくれただけ。

 見せた覚えは無いしな。そりゃ、当然か。

 

「さてと、そろそろ行きませんか?」


「だね」

 二人してプールを満喫し始める。

 手始めに流れるプールへ。

 流れに身を任せながら、色々と語らう。


「んー、気持ち良いね。こう、流れてる感じが心地良くて」


「浮き輪とかがあればもっと体の力を抜いて流れに身を任せられるんですけどね」

 ゆらゆらと作られた流れに身を任せながらだらだらと話すときもあれば、


「えいっ」

 時たま、水をばしゃりと掛けられる。

 水で濡れて少し艶やかな髪の毛がなびいたり、無邪気な笑いを投げかけられ、さすがの俺も馬鹿ではない。

 この状況って普通に脈ありではないかと疑い始めた。


「間宮君。今度はあっちのプールに行ってみよっか」

 流れるプールを一しきり楽しんだ俺達は別のプールへと向おうと、水から上がろうとした時だ。

 背中にやんわりとした感触が伝わって来る。

 一体何が、と思い後ろを振り向こうとするも、小さな声で山野さんが俺に言う。


「知り合いが居た。顔をちょっと下に向けてくれると嬉しいかも」

 顔をやや下に向ける。

 ……まあ、二人で遊びに来ている姿を見られれば誤解と言うか、噂だてられるのは間違いがない。つまりは俺と一緒に居られるところを見られるのが恥ずかしいという訳である。

 脈ありだとか思っていたが、俺と一緒に居るのを見られるのが恥ずかしいということは俺との関係を誤解されたくないわけで……。

 いやいや、普通に彼氏彼女でも同じ学校の人に見られるのは恥ずかしくて隠したいという人も居るに決まっている。

 知り合いに姿を見られそう言う関係に思われたくないのか、それともそう言う関係に見られても別に良いが、ただただ友達にイチャイチャとしている姿を見られたくないだけなのか。

 一体、どちらなのだろうか? と頭を悩ませ始めた時だ。


 山野さんの知り合いが近づいて来たのだろう。 

 より一層と柔らかい何かが背中に強く引っ付いて来た。

 もしかして、背中に当たっている柔らかい何かの正体って……山野さんの胸なのか?


「ごめんね。あの子、目が良いからこのくらい近づかないと顔が見えちゃいそうだから」

 

「い、いえ。その、これはこれで良い感じなので」

 背中に当たっている感触の感想をつい述べてしまう。

 すると、強く背中に胸を押し当てていることに気が付いた山野さんは、か細い声を上げる。


「間宮君のえっち……。まあ、私が当ててる側なんだけど……」

 恥ずかしさがヒシヒシと伝わって来る。

 興奮がより一層と高まる中、山野さんの行動はより過激に。

 胸どころか手をお腹に回してきてギュッと抱き着いて来たのだ。


「や、山野さん!?」


「振り向いてないけど、たぶん相手が近づいて来てるから。ちょっとの間だけだよ?」

 そう、ここは流れるプール。

 上がろうとしていた俺達はいざ知らず、山野さんの知り合いは流れに身を任せているはずだ。

 当然、距離感は近づいたり、遠ざかったりする。

 要するに相手が流れて来て近くに来ているかもしれないので、より一層と俺の背中で顔を隠すために腕を腹の方に回してギュッと抱き着いて来たという訳だ。

 冷静に状況分析をしないと、理性がヤバいのでどうでも良い事をひたすらに思考しながら伝わる柔らかさに耐えた。

 

 ギュッと強く抱き着かれてから数十秒後。


「ふう。たぶん、もう知り合いはきっと流れて行ったし、大丈夫かな?」

 体から離れていく山野さん。


「そんなに見られたくない相手だったんですか?」


「間宮君が生徒会選挙の時にけい先輩に応援演説をして貰ったでしょ? その時にもうるさかったし、色恋が大好きな子なんだよ。だから、間宮君と一緒に居られるところを見られるのは迷惑かけちゃうかな~って。あ、ささっとプールから出よっか。このままだと、また流れて来るだろうし」

 話しながらプールから出る。

 そして、ちょっと人が少ないとこで休憩をしながら話す。


「この状況、どうしますか?」

 山野さんが知り合いに出くわしてしまいそうなこの状況。

 2人で遊んでいるところを目撃され、山野さんの知り合いが色々と噂してくれるのは山野さんが俺に向けている意識を変えるきっかけになるだろう。

 しかし、聞いた感じだとこの場に居る山野さんの知り合いは、変に噂をし周囲を惑わすような気がしてならない。

 質の悪い噂を立てられて、山野さんが困るようなことは正直に言うと嫌である。


「ごめん……。別にあの子以外だったら見られても平気なんだよ。ただ、あの子は本当に面倒くさいんだよ……」

 意気消沈していることから、変に噂を立てるような人なんだろうと確信をした。

 そして、態度はせっかく遊びに来たので帰りたくなさそう。

 加えて、俺に申し訳なさそうでもある。

 

「帰りますか?」

 言い出しずらそうな山野さんの代わりに告げる。


「うん……。本当にごめんなさい」

 こうして、俺達はプールから去ることに決めた。

 不甲斐ない気持ちが胸に押し寄せる。

 このままで終わっては駄目だ。まだまだ時間は残って居る。


「山野さん。プールは駄目でもこれからめ一杯遊び尽くしましょう。さ、見られるかも知れないので行きますよ」

 意気消沈している山野さんを励ます意味合いを込め、手を強く引っ張る。

 

「……頼もしいね。ありがと、間宮君」

 

「お礼を言われるようなことなんてしてませんって。だって、変に噂をされて山野さんが困る姿なんて見たくないので」


「本当にごめんね? この埋め合わせは絶対にする。ううん、絶対にさせて?」 

 こうして未練を抱きながら、俺達はプールを去った。





 


 


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