第36話盗ったの? 盗ってないの? どっち!
今日は日曜日。学校は休み。
まだ洗濯槽は半分しか埋まらない位の洗濯物であったが、山野さんと合わせればちょうど埋まるので二人分の洗濯物をまとめ上げ洗濯機を回した。
ちなみに俺がやると言いたいところだったが、ブラを見るという前科をやらかしているので黙って任すことにした。
で、洗濯物を渡した後、俺はと言うと何もすることが無くて暇を持て余している。
「暇だ」
友達と遊びに行こうにも友達は部活に入っている。
正直な話、部活に入っておくべきだった。
……まあ、入ったは入ったで辞めたいと思っていただろうが。
「そう言えば、水やりをして無かったな」
山野さんと決めたプチ家庭菜園のルール。
それはお互いに責任感を持って育てるために毎日、交互に水やりをすること。
……という訳で、水やりをしに行こう。
決して、暇すぎて山野さんに癒しを求めに行くわけでは無い。
水やりをしにいくだけである。
インターホンを鳴らすと山野さんがすぐに出てくる。
「どうしたの? 洗濯物はまだ干したばっかりで乾いて無いよ?」
「いえ、そう言えば水やりをして無かったなと」
「そっか。良いよ、上がって」
なんてことはなくお部屋に上がりベランダへ。
洗濯物が干されてはいるものの、十分に太陽の光が当たる場所に置かれているプランターに水を撒く。
一つのプランターに水を撒くのなんてあっという間に終わるはずだったのだが、
「……」
干されている洗濯物が気になって仕方がない。
俺の分もまとめて洗濯されているということも量がある。
……そして、多い洗濯物の中に埋もれて、少しだけ見え隠れするやや光沢感のある布が気になった。
一体何が干されているんだ? と思い洗濯ばさみがくっ付いているハンガーを掻き分けて見え隠れしていた光沢感のある布地の正体を確かめてしまう。
「あっ」
掻き分けた先にあった布地の正体はパンツだった。
外から見えないように干すためにハンガーの内側にし、外側を他の服でガードしていたという訳である。
ちょうどそんな時だった。
「間宮君。水やりしてくれるのは嬉しいけど、あんまり上げすぎちゃダメだよ?」
!?
別に様子を見に来たわけでもない。
声だけであり、山野さんはこっちを見ていなかったが、他人の洗濯物を漁ると言うのは誰がどう見ても卑しい行動だ。
そんな行動を見られまいと、ハンガーを掻き分けていた手を勢いよく引き抜いた結果。
咄嗟に引き抜いて指に引っかけてしまい、山野さんのパンツを洗濯ばさみ付きのハンガーの内側から引き抜いてしまう。
そんな時だった。
今度は声ではなく、足音が近づいて来ていた。
手には山野さんのパンツ。このままでは、ヤバい。そう思った俺はパンツを咄嗟に自分のポケットに隠してしまう。
「水をあげすぎてないか見に来たよっと」
「安心してください。大丈夫ですよ」
「そう言えば、昨日。甘いものが食べたいな~って思ってプリンを作ったんだよ。せっかくだから、食べてって?」
プリンを食べて行かないかと誘われた。
ポケットの中に隠してしまったパンツをどうにか元の場所へ戻さなければいけないがここで変にベランダに居座る方が怪しまれる。
という訳で、一度ベランダから出た。
それから、山野さんが作ったプリンに舌鼓を打ち別に山野さんの部屋ですることもなく、気が付けば自分の部屋に戻って来ていた。
「っく。俺はこれをどうすれば良いんだ?」
恐る恐るポケットから取り出したのは一枚のパンツ。
色はピンクでやや布地は光沢感を帯びている。
「これをいつも穿いてる」
ついつい山野さんが穿いている姿を想像してしまう。
引き締まっていながらも柔らかそうなお尻をこのパンツが覆い隠している姿を。
「……いかんいかん。想像するよりも先にこの持って帰って来てしまったパンツをどうやってバレずに返すかだ」
仮にだ。
山野さんに俺がパンツを盗むやつだとバレたらどうなる?
『……あはは、うん。信じてたのに。今まで仲良くしてたから通報はしないけどさ。私に関わらないでね?』
冷たい声でそう言われてしまいそうだ。
……そうならないためにも、このパンツをバレないように元の場所へと返す。
という訳で、もう一度ベランダに行かないといけない。
ついさっきまで、部屋でプリンをご馳走になっていて、今さっき帰ってきたばかり。
怪しさ満点だが、再び山野さんの部屋へ。
「どうしたの? 何か忘れた?」
「山野さん。実はリーフレタスの成長を記録したいなと思いまして、プランターの様子を写真で撮らせてくれませんか?」
「それ良いね。私もそうしよ」
何の疑いを掛けられることもなく、部屋に上がり、ベランダへ。
パンツをハンガーの内側に付いている洗濯ばさみに挟みなおそうとするも、
「毎日、写真を撮るのを習慣にすれば水やりを忘れる心配もないよね」
横には俺のついでにプランターの様子を写真に収めに来た山野さん。
こんな状況で元の場所へと戻せるわけが無い……。
「そ、そうですね」
結局、パンツを戻せず仕舞いで再びベランダから出た。
どうしたものか? と少しばかり考えこむ。
「どうかした?」
「いえ、何でもありません。本当に何でもないですから」
「それなら良いんだけど……。と言うか、今日も暇だね~。いっそのこと、今日にでもプールに遊びに行けば良かったかも。でも、今は体がたるんでるから、やっぱ今日じゃ無くて良かったかも。あっ、気を付けなくちゃいけないというのに普通にプリンを食べちゃった……」
自己嫌悪に陥る山野さんを尻目にどうにかパンツを返せないかと考える。
その様子が上の空に見えたのだろう。
「なんか今日はやっぱりおかしい」
「いえ、そんなことは……」
ジーッと見つめられ怪しまれてしまう。
「大丈夫だよ。何か困った事があるなら言って?」
「……」
言えるわけが無い。
あなたのパンツを盗んでしまいました。でも、悪気は無かったんです。と。
まあ、実際問題、山野さんなら別に故意でしていないと信じてくれそうだが、それでも言えるわけが無い。
「大丈夫。どんなことでも私はきちんと受け止めるから。ね?」
「でも……」
素直に謝って返した方が良いかも知れない。
きっと、山野さんなら俺がわざと盗むような奴じゃないと信じてくれる。
恐る恐る、口を開こうとした時だ。
「んー、無理に聞いてごめんね? 大丈夫、無理に言わなくても良いよ?」
「は、はい……」
俺があまりにも口を割らなかったので、逆に無理言って悪かったと言われてしまうのであった。
そして、部屋に長居するのも邪魔。
俺は自分の部屋へと退散するのであった。
「……チャンスはまだある」
洗濯物を取り込む際だ。
実際問題、今日は俺の洗濯物もまとめて干してくれている。
恐らくだが、洗濯物が乾き取り込んだ後、折りたたんで俺の部屋まで届けてくれるはずだ。
しかし、『最後までまかせっきりという訳には行きません。干して貰った洗濯物を畳んで自分で持って帰ります』と言えば良い。
その際に山野さんのパンツが俺の洗濯物に紛れたと嘘を吐いて返せば、ちょっと不振には思われるかもしれないが、盗んだとは断定されないはずだ。
そして、夕方になる前。生乾きで臭くならないようにきちんと陰干ししておいたパンツを手にし作戦を決行に移す。
洗濯物を自分で折りたたんで持ち帰る際にたまたま山野さんのパンツが紛れていたと言い張るために部屋を出ようとした時だ。
俺の部屋のインターホンが鳴り響く。
玄関に行くと手には俺の洗濯物を綺麗に折りたたんで持ってきてくれた山野さんが居た。
「暑くなかったけど、乾いたから持ってきたよ。はい、これ」
「え、あ、はい」
「じゃ、またね」
山野さんは普通に去って行ったが、作戦が失敗に終わった事で俺は呆然と立ち尽くしてしまう。
そして、俺は苦し紛れだがとある策を講じることにした。
洗濯物を受け取り少し経った後、お隣さんのインターホンを鳴らす。
「ん? 今日はやけにインターホンを鳴らすね」
「あ、すみません。俺の洗濯物にこれが紛れてて……」
綺麗に折りたたんだパンツを紙袋に入れたものを渡す。
すると中身を確認した山野さんはと言うと、
「……あ、うん。ごめんね」
さも、本当に紛れてしまっていたと思い込んだ様子で謝ってきた。
「いえ、気にしないでください。それじゃあ、これで」
ぼろが出る前に場を去る。
取り敢えず、何とかなって良かったな……。
そして、パンツを返された山野楓はと言うと、
「ちゃんと紛れ込まないように確認してたのに。はあ、またパンツを見られちゃったよ……。というかさ、すぐに返しに来るのもあれだよね」
非常に複雑な気分に陥っていた。
気になる男の子が自分のパンツをなんにもせずに返しに来た。
普通は何かされた状態で返されれば嫌に決まっている。
しかし、好かれているかを知りたい彼女にとっては何かをされていたほうが好都合なのだ。
「待った。私、このパンツ洗濯物として取り込んだ覚えが無いんだけど……」
「ということは間宮君は私のを意図的に盗った? あれ、でも、このパンツ干した覚えはある……」
干したはずなのに取り込んだ覚えはないパンツ。
「まあ、盗られていたならそれはそういうことだよね? 私の事をそう言う風に見てるって事だよね? 私に興味ありって事だよね?」
「でも、本当に間宮君の洗濯物に紛れちゃっただけかもだし……。だって、干した覚えが……。いや、でも取り込んだ覚えはない……」
「もう、盗ったのか盗ってないのかはっきりして欲しいんだけど!」
無事にパンツを返せたとホッとする間宮哲郎に対して、自分に興味があってパンツ盗ったのか盗ってないのか真相がわからないせいで、むしゃくしゃとする山野楓であった。
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