第21話一人暮らしの洗濯
夏という季節はお財布からお金が去って行く季節だ。
実際問題、俺も姉さんからのお小遣いが無ければ、手元にお金はほとんど残ることは無かったはずだ。
新しく出るゲームをゲーム機諸共買うために貯め始めた貯金にさえ手を付けていたに違いない。
そんな風に思っていた時だ。
山野さんの口から愚痴がこぼれた。
「はあ……。新しくパソコンを買おうと思ってお金を貯め始めたけど貯まらないよ……」
「夏ですからね」
友達と遊園地、友達と花火大会、ただ単純にショッピングとなんだかんだで夏休みに相応しいくらい出掛けているのだ。
お金を貯めるほど余裕は無いに決まっている。
「もうちょっと節約を頑張ろうと何かいい案を探そうと思ったわけです。という訳で、ちょっとパソコン借りて良い? スマホだと一度に目に入る情報量が少なすぎるからね」
スマホで調べ事をするのは気楽ですぐに出来る。
しかし、本腰を入れて調べるとなると、スマホの画面よりもパソコンの画面の方が大きく情報量が段違いで効率的。
だからこそ、パソコンを貸してと言ってきた。
「……」
貸したいのはやまやまなのだが、貸せば色々と知られてしまう。
何がとまでは言えないが、今時の男の子はパソコンやスマホで色々と調べるのだ。
そう、色々と調べるのだ。
調べたことを知られたくなく、すぐさまに貸せる状態ではないわけで……
「履歴とか見ないよ? ね?」
貸し渋る俺にこれでもダメ? と言わんばかりに近づいて来た。
何かいい方法は無いかと考えた末、いつも使っているブラウザとは別のブラウザを使わせれば履歴を知られずに済むことに気が付く。
「分かりました。どうぞ」
カチカチとマウスを操作し、いつも使っていない方のブラウザを開く。
そして、山野さんへと渡す。
「ありがとね」
そう言うと、本当に履歴なんて目もくれず色々と節約について調べ始めた山野さん。
見られるとか疑っていたのは杞憂だったようだ。
色々と調べていく内に山野さんの興味はとある節約に向く。
「お風呂って水道代とガス代も節約になるし、意外と効果が得られるのかな?」
山野さんはお風呂が好きで週に何回かは沸かして入っているのは知っている。
そこに目を付けたという訳である。
「湯船に浸かりたくは無いんですか?」
「浸かりたいけど……。でも、節約のためだよ。と言うか、意外とお風呂が高くてびっくりしたからね。ほら、見て?」
高いという言葉に反応し、山野さんが見ていたサイトを覗く。
事細かく、水道代とガス代について書かれており、一回あたりはそこまで節約に感じなかったが、一月辺りで考えるとかなりの節約になるのだ。
とはいっても、山野さんも週に何回かしか入っていないし、かなりの節約とまでは行かないだろう。
「という事はこれからシャワーだけで過ごすんですか」
「うん。そうするよ……。さすがに本当に気を引き締めないとパソコンなんて買えそうにないし」
お風呂で湯船に浸かる事を封印することに決めるも、割と湯船に浸かってくつろぐのが好きなこともあり残念そうにしている。
「家族が居れば別なんですけどね」
山野さんが見ていたサイトを覗くと、1人あたりから4人あたりまで計算されている。
湯船に張る水は入る人数が多ければ多い程、負担は軽くなる。
お湯にするためのガス代は一度沸かせば、多少冷めても追い炊きであれば、水からお湯に変える程、掛からない。
人数のメリットについて書かれており、一人暮らしよりも家族で暮らす方がやはり出費は抑えられるのだ。
「なる程、つまり間宮君は私とお風呂に入りたいと」
「そう意味で言ったんじゃないですからね?」
「分かってるって。冗談だよ。でも、確かにお風呂をシェア出来るのなら水道代もガス代もそれなりに安くなるよね」
だからと言って家族でもない人とお風呂をシェアするのは問題大ありだ。
「しませんよ?」
「私もさすがにしないって。まあ、出来たら良いな~って感じだよ。さすがに節約したいからと言ってがめつくないから。冷房代を節約するために~とか言ってお部屋にお邪魔してる私が言うのもあれだけどね」
がめつくないと言いつつも、冷房代を節約と言い部屋に上がり込んでいる身であるので気恥ずかしいのか、ちょっと苦笑いしながら言われた。
「他には何か良さそうな節約は無いんですか?」
お風呂の話題もひと段落、他に何か良い節約は無いかと山野さんに聞いてみた。
「うーん。意外と節約って難しいんだよね……。ほら、私たちって生活が窮屈にならない程度の節約を目指してるでしょ? そうとなると、本当に出来る事がね……」
カチカチとマウスを弄り、何か良い節約は無いかと探していく。
そして、見つけた節約方法とはお風呂の残り湯を洗濯に使うというものだ。
「これ湯船から洗濯機に水を運ぶためのポンプ代を回収するのに時間が掛かりますよね」
「それにポンプのホースって意外と中がカビやすくて毎日のようにポンプのホースに水を通さないのなら、気温によってはすぐにカビが生えるのでお勧めしませんって書かれてる」
いい案だと思いきや意外と難点だらけ。
ただ一つ声を大きくして言えるのは残り湯を使うのは環境には優しいのは間違いがないという事だ。
「そう言えば、間宮君って洗濯機は週に何回使う?」
「俺ですか? 週に3回くらいですかね。洗濯ものを溜めておいて一気に洗いたいんですけど、着回しを考えると意外と出来なくて……」
意外と着回しを考えると洗濯物を溜めておく事は出来ない。
本当は3回も回す必要はないが、仕方なく洗濯機を回している。
「分かる。一人暮らしの洗濯ものは一気に洗え! ってよく言われるけど着回しを考えると意外と無理なんだよね……。特に外に出る時に着て行きたいちょっとおしゃれな服が洗濯されてないと本当に絶望するし」
「それは本当に分かります。でも、だからと言って毎日のように洗濯機を回すわけには行かないんですよ」
「うんうん」
一人暮らしあるあるを言いあい同調しあう。
そして、とある事に気が付いたが、言っても良いものなのだろうか? と少し頭を悩ませる。
「んー。ねえ、間宮君」
「え、あ、はい」
少し悩ませていると、山野さんから話しかけられた。
「洗濯ものってやっぱり溜めて置かないでなるべく早く洗いたい?」
「外に来て行く服を選ぶと考えればそうですね」
「今更、なんか言い淀ませて言うのもあれなんだけど……。二人分の洗濯物をまとめて洗濯しちゃう?」
宣言通り、少し言い淀ませながら言われた内容。
それは俺が少し悩んでいた内容そのものである。
「……良いんですか?」
「だって、洗濯物を溜めておきたくないじゃん。二人分ならすぐに溜まって洗えちゃうでしょ?」
ドンドンと互いの日常を侵食し始めている。
一応はお隣さんであり後輩、先輩という仲なわけで……あまりにも侵食しすぎるのはどうかとも思う。
しかし、互いに一緒にすることが増えると言うのは仲の縮まりに多少の影響を及ぼしてくれるに違いない。
そのことを信じて俺は言った。
「じゃあ、試しにやってみますか?」
「うん。今、洗濯物はどのくらいある?」
「洗濯機の容量で言うと半分くらいです」
「私もちょうどそのくらいだね。じゃあ、今から洗濯機を回す?」
と言った感じで、今から洗濯することに。
そして、山野さんは洗濯物を部屋から持ってきた。
「間宮君。洗濯ものは私に任せて?」
「いえいえ、さすがに任せておけませんって」
「いや、うん。むしろ、私がやらないとダメだから」
とは言われるものの、持ちつ持たれつな関係な訳で一方的に恩を受けるわけには行かない。
俺の部屋にある洗濯機を使うという事もあり、率先して俺は山野さんが持ち寄った洗濯物を洗濯機に放り込む。
持ち寄った洗濯物……山野さんが着ていた服。
ちょっとやましい気持ちを抱くも、普通に洗濯機に放り込んでいく。
そして、持ち寄られた洗濯物の中には洗濯ネットが一つ。
一体中には何が入っているのだろうか? 洗濯ネットに入れなくてはいけない物とは? と興味本位でチャックを開けた。
「……間宮君? だから、私がやるって言ったのに。それはわざとかな?」
後ろからプレッシャーを掛けられる。
それもそのはず、洗濯ネットの中には山野さんが身に着けているブラジャーが入ってたのだ。
ブラと言えば、ホックが他の洗濯物にひっかるし、洗濯ネットに入れるものの筆頭候補である。
「わ、悪気はありませんからね?」
「後は私がやる。良いよね?」
「あ、はい」
残りの洗濯する手順は山野さんに託すのであった。
てか、うん。
山野さんのサイズって__カップなんだな……。
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