第41話
「緊張してる?」
「....少し」
戦争が始まれば、自分のできることは何もない。
魔導師のように膨大な魔力を使って戦力になることもできなければ、騎士達のように機敏な動きが出来る運動神経も無ければ覚悟も無い。
ただただ、彼らの無事を祈る。
そして、微力な魔力を魔導具に込め、知識と技術をもって魔導具の回路をみちびくだけだ。
サラディアナにも魔導具技師としての矜持はある。
覚悟と目的を持って自分は魔導具技師になったのだから後悔もない。それを後ろめたことも一度だってない。
ただ、少しもどかしいのだ。
キエルと肩を並べて戦地に行けないことが。
何かあれば命を賭してでも力になる覚悟だけは人一倍あるのに。
「大丈夫だよディア」
サラディアナの曇った表情を見て、戦地への不安を危惧したキエルは、諭すように穏やかな声色を彼女の耳へ届かせる。
キエルは右手の甲でサラディアナの頬を優しく撫であげた。
ピクリと肩を揺らし菫色の瞳を瞬かせた彼女をみてさらに目を細めて、そのままキエルは
一連の動きはまるでその動作をすることが当たり前であるかのように自然で、サラディアナの胸はキュッと締め付けられる。
「近くには居られないけど、何かあったとしても俺達魔導師や騎士団達が必ず守るから」
「キエル...」
サラディアナは眩しそうに目を細めてキエルを見た。
自分の心を押し上げるのはいつも彼なのだ。
だからサラディアナはキエルがとてもとても好きなのだ。
「ありがとう」
「ん」
どがーん!!
「!!?」
ふわふわとした雰囲気を妨害するような音が2人の近くで起こった。
ピリリと鋭い視線を向けたキエルだったが、音の主を把握して肩の力を落とす。
「....何をしているのです?ドラフウッド殿」
「....ちょっと肩慣らし」
そっぽを向いたセドリック。
サラディアナから見ると、その顔はどこか苛だたしそうで、彼の右手からは、パリパリという雷鳴とともに白い光が現れては消える。
呆れたようにため息をついたのはキエルだった。
周りの騎士団達もザワザワと遠巻きにセドリックを見ていて、今の所業が実に異質な事なのだと理解する。
「"肩慣らし"に、雷を地面に叩きつけるのは如何なものかと思いますが」
「うるさいキザ男め」
セドリックは吐き捨てるように呟くと、外套を深くかぶり直した後ゆっくりも立ち上がった。
ギロリと睨んだのはキエルに、ではなサラディアナにだ。
サラディアナは思わず肩を揺らした。
「サラ」
「は、はい!」
セドリックはキエルを指差した。
「お前今回の威嚇戦線は後方にいろ。他の魔道具技師の傍だ。間違っても
「え?」
「俺なら、後方にいるお前くらい守ってやれる」
「...は、はぁ」
もともとそのつもりでいたサラディアナだが、セドリックの威圧に圧倒されながら生返事をした。
その返事にセドリックは満足そうに口角をあげ頷いた。
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