第40話


「おはようございますティト、....それにキエル」

「おはよう。ディア」

「おはよう新人ちゃん。なんだ君もきてたのか?」



 驚いた顔で立ち止まったのは同部屋のティトだった。

 隣にはキエルが居る。

 高身長のキエルに負けず劣らず、ティトのスラリとした姿にサラディアナは一瞬言葉を失った。




「....ええ。セドリックが強制的に」

「ああーなるほど。噂以上に随分溺愛だな」



 カラカラと笑うティトにサラディアナは戸惑いを隠しつつ笑みを浮かべた。

 後ろにいる本人セドリックがブツブツなにかを言っているのだが、それは聞き流す。



「ところで、お二人は何を?」

「さっきそこであったんだ。私は今回後方部隊だから荷物運びだよ」

「意外と重いのに軽々と荷物を持っているので驚きました」

「魔導師はすぐ魔力に頼るからダメなんだよ。」



 そういう2人の手には荷物がいくつか抱えている。

 その後ろで見て羨ましそうに女性騎士たちが2人を見ていた。

 サラディアナも胸がツキリと痛むのを感じる。

 いつも仲良くしてくれているティナに嫉妬するなんて酷い女だ。



「新人ちゃんとハワード殿は知り合いなんだな」

「ディアとは同郷なんですよ」



 優しい笑みで応えるキエルに、ティトは「ほー」と瞳を瞬かせサラディアナに視線を向ける。



「初耳だ」

「....すみません。言い出し難くて」



 部屋でも何度かキエルの名は上がったが、その度に聞き手に徹していたサラディアナである。

 自分から「知り合いだ」と公言する事も出来たが、三年も会っていない身。なんとなくそれは憚れた。

 ティトの方も、サラディアナが言えなかった理由をなんとなく察してくれたようで追及はしなかった。感謝だ。




「そちらこそ、ディアとの関係は?」

「同室だ」

「寮の事や宮廷内の事色々教わってるの」



 サラディアナは努めて明るい声で答える。

「私じゃなくニコルやクララがな」と笑うティトは突然ひょいっとキエルの持つ荷物を担ぎ上げた。




「ここまででいいよハワード殿。そろそろ召集の時間だ。だいぶ助かった。」

「そうですか」

「それじゃあサラディアナ、またな」

「はい。」



 颯爽と歩いていくティトにお辞儀をする。

 なんともサッパリした性格の女性である。

 ふと、視線が気になって、ティトの方に向いていた顔をキエルへと移動させる。

 キエルは優しい瞳をサラディアナに向けていた。

 ドキりと胸の高鳴りを感じる。



「昨日は良くねむれた?」

「ええ。とても.....とは言えないけれど」

「はは。そうだね」



 サラディアナにとって初めての戦場での野外泊。

 テント内は空間拡大魔法によってある程度の広さであった。

 しかし、簡易ベッドや殺風景な空間は緊張感を高めて眠りを妨げるのには十分だった。



 肩を竦めながら伝えると、ふふっと笑ったキエルが頭を撫でてくる。

 懐かしい温もりにサラディアナも微笑みを返した。


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