第39話


「おはようございます!」

「.....おはよう」



 早朝、サラディアナは身支度を整えてビシリと姿勢を正しセドリックに挨拶をした。

 対してセドリックは、眠そうな目を擦りながらサラディアナを一瞥してボソリと挨拶を返す。


 あの後サラディアナは夜通し、とまではいかないが1時間程キエルと話をした。

 三年間の穴を埋めるのには短すぎる逢瀬ではあったが、サラディアナにとっては貴重で幸せな時間だった。

 この威嚇戦線が落ち着いたら改めて2人でご飯に行く約束が出来たことも嬉しい結果だ。

 サラディアナはすっきりした気持ちで今日という日を迎えていたのだ。



「今日が本番ですね。セドリックは最前線に赴くと聞いています」

「...早く帰りたい」


 対してセドリックは眠気なのか、今日の戦線のためか、いつも以上に不満げな表情をしている。

 おもむろに懐から魔法石を数個取り出すと、かちゃかちゃと音を立てて握ったり浮かせたりを始める。

 この動作は彼にとっての精神安定方法なのだと以前アシシが教えてくれた。

 多分だが自分だけの部屋に入れない事に加えて魔導具をメンテナンスが行えない事、なにより不特定多数の人物に囲まれている現状が相当ストレスなのだと安易に想像できた。

 サラディアナは苦笑いを浮かべたのちツイっと周りを見渡した。

 昨日の夜とは打って変わり、幾分緊張感がある。

 ほとんどの兵は朝食を食べているが、口数も少なくピリピリとした雰囲気を曝け出していた。

 ここが戦場であると言う確かな現実に、サラディアナは少しだけ震える。




「大丈夫だ」

「え?」



 小さな呟きにセドリックを見る。

 視線は合わず彼は先ほどの姿勢のまま魔法石に触れる事をやめない。

 一点を見つめたままセドリックは口を開いた。



「俺のそばを離れるな。離れない限りは俺が守ってやる」

「セドリック....」





 それはそれは小さな呟き。

 だが確実にサラディアナに届く声だった。

 そう言えば以前もこうやってサラディアナを守ると励ましてくれた。

 類稀なる力を持つというセドリック・ドラフウッドの守りは、この世のどこにいても安全といってもいいのかもしれない。

 それくらい力強い言霊だ。



 そして、サラディアナは満面の笑みを浮かべる。



「ありがとうございます!でも大丈夫です。ほかの魔導具技師達と後方にいる予定なので」

「....ああそうかよ」



 ガチャンと魔法石同士がぶつかり合う音とともにセドリックはうなだれるようにして呟いた。



「あの...セドリック??」

「あれ?新人ちゃん?」

「!!」



 いつもと違うセドリックにどうしたのかと声をかけようと身を屈めたサラディアナ。

 しかし、すぐ後方から聴こえた声に慌ててパッと振り向いた。

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