第31話
その時、ザントがあることを思い出す。
「あれか、幼馴染か。」
「幼馴染?」
ザントの言葉に食いついたのは師長だ。
そして、キエル自身もピクリと肩を揺らす。チャリ...と臙脂色のマントの固定具が小さく音を立てる。
にやり。
ザントの口元が歪んだ。
「ええ師長。こいつ村に残した幼馴染ちゃんがいるらしいっすよね。なんでも赤銀色の髪の可愛いー子らしいっすよ」
「なに!?それは本当か!?」
「ザント」
にっこりと有無を言わさない笑みをキエルが浮かべる。
その顔は"もうやめろ"と物語っているが、生憎ザントの持っている"幼馴染"の情報は全て出し切った。もう遅い。
したり顔のザントにキエルはニコニコと微笑みを絶やさない。
その2人の間で師長が目を輝かせている。
「キエルが女性の話をするのは珍しいな」
「話が無さすぎて男色の噂もあるっすからね」
「.....」
ケラケラと豪快に笑うザントをついに無視してキエルは近くにいた騎士団に目を向ける。
「準備はできましたか?」
「はい。荷物も全て積みおわり、騎士団は全員揃いました。....しかし」
「しかし?」
キエルは瞳を瞬かせて騎士団の男を見る。
少し顔を赤くした団員はしどろもどろに答えた。
「あの。魔導具技師のセドリック・ドラフウッド殿が見えて居ないそうです」
「....ああ」
「おお!セドのやつやるなぁ!」
「王様出勤か!」とガハハと笑うザント。
こうゆう時にいつも輪を乱すのはセドリックだ。
そういった性格もあるが、多分彼は集団組織というものが苦手で拒絶している節がある。
キエルはふうっとため息をついた後、右腕を振るう。
空中に"急げ"と文字を書くとその文字は金色に光輝いた。
その文字をくるり弧を描くようにかき集める。そして放った。
放たれた光はそのまま一直線に彼方の方は流れていく。
相手の魔力を記憶していれば行える、一方通行な連絡手段である。
これで足を早める男ではないと重々承知しているがやらないよりはマシだろう。
「相変わらずすごい魔力と魔法だな」
「ありがとうございます。さて、それでは少しずつ転移を始めましょうか。最後の組内にはドラフウッド殿も来るでしょう」
威嚇戦線は2日後だ。
しかし出来るだけ迅速かつ短時間に動いてこの緊張感を維持させたい。
キエルは燕尾色のマントを翻し転移地点に向かうよう騎士団たちを促し足を速めた。
その時ふと1つの違和感に気づく。
「....あなた」
「は?」
珍しい相手に声をかけられた女性騎士は驚きとともに不審げな目でキエルを見る。
周りにいた他の女性騎士が色めき立ち、「ちょっとティト!」「どういうこと!?」と声をあげた。
それを視界に捉えつつ、会えてスルーをしたキエルはその赤髪の女性にさらに声をかけた。
「その足につけているものは?」
「あ?アンクレットだけど?」
ティトと呼ばれた女性はさっと靴を少しずらして、そこにあるアンクレットを見せた。
ごく普通のアンクレット。しかしそのうちに秘める力をキエルは感じた。
「複雑な魔力が込められていますね」
「そうなのか?部屋の新人ちゃんがお守りにってくれたんだ」
カラカラと人懐っこい笑顔で笑うティトに「そうですか」と空返事を返し、じっとアンクレットを見つめる。
男物のそれ。
デザインもさることながら込められた魔力は綺麗に整っていて歪みが殆ど見られなかった。
そしてその魔力にキエルは魅入られる。
優しい魔力だ。懐かしさも感じる。
春の暖かい日に咲き誇る桜のよう。
これはまるで────
「.....ディア?」
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