#5 第1話「サーガとクリシュナ」④

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「ここは……」

 サーガは、何もない真っ白な空間にいた。

 本当に何も無かったのである。

 360度、全周全て真っ白な地面と、ピンポン玉を内側から見たみたいな天蓋で満たされていた。辛うじて判別できる地平線は、一本の線のように視界の端から端へと続いていた。

「俺は……」

 サーガは気絶する前の事を思い出す。

(そうだ、俺は確か警官に殴られて……それから……)

 頭が呆けている。まるで寝起きの気分だ。

 ぼうとしながら辺りをうろうろしていたサーガは、やがてあるものに気付いた。

「あれ?」

 遠くの方に何かが建っている。白い画面に映る小さな点のようだ。

 サーガは、それが一種の建築物であることに気付いた。

(…………)

 このままではらちが明かない。何が何だか分からないまま、彼はそれに向かって歩き始める事にした。

 歩きながらサーガは、ここが見れば見るほど不思議な空間である事に気付いた。暑くもない。寒くもない。太陽も明かりも無いのにどこからともかく光が染み出している。大気は重く、ほんわりと甘い湿気を舌に感じた。

 地面はつるつるとした大理石のように見える。ローファーを地面につけるたびに、コツコツという乾いた音がする。サーガは歩く最中わざと歩き方を変えて、歩を進めるたびに踵でコツコツと小気味いい音を立てて遊んでみた。しばらくして、飽きたのでやめた。

 五分ほどして、サーガはそのビルディングに辿り着いた。

「これは……」

 それは一種の小さな商業ビルであった。

 壁面はくすんだ青のタイル模様、目を上げればベランダが各階ごとに規則的に並んでいるのが確認できる。ベランダには、広告が付いているものもある。一階は焼肉屋、中をガラス越しに見るが、人気はない。二階はカレー屋、三階は何かの会社の事務室。

 この建物に、彼は見覚えがあった。

 四階のベランダにある、空手道場の広告

 小学生の頃毎週二日、その空手道場に通い、一時間半の稽古を受けていたからだ。

 そこが幼少の自分に関連のある場所だと気付いて、サーガは少し嫌な気分になった。

 彼は兎も角、焼き肉屋の隣にあるビルの入口に入る事にした。

 細長く通る通路の先に、エレベータのある一室がある。

 その道を通るうちに、サーガは胃のあたりにむかむかとした重いものが乗っかているような感覚を覚えた。

(そうか……今でもこの道を通るたびに、緊張するんだ)

 この道を通ってエレベータに乗るという事は、これから楽しくはない稽古に耐え抜くという事と同義である。だから、このひんやりとした通路を通るたびに、身体が勝手に不快感を覚えるようになるのだ。空手をやめて五年経った今でも、その感覚が無くなる事はないのである。

(…………)

 サーガはエレベータに乗ると、少し躊躇したが四階のボタンを押した。とたん、ガタンと床が揺れ、ガラスが嵌め込まれたドアが乱暴に閉まった。

 エレベータ特有の昇る浮遊感。

「何なんだここは……俺は一体何をしているんだ……」

 独り言が空しく響いた。なぜ俺はここにいるんだ……? 彼はここが、走馬燈だとか、前世の世界だとかのスピリチュアルな世界のように感じていた。

 ポーンと電子音が鳴った。

 四階でドアは開いた。

「セイッ! セイッ! セイッ!」

 懐かしい気勢が、聞こえてきた。

「ああ……」

 サーガは顔を曇らせた。

 懐かしさと苦々しい思い出が、同時にサーガを襲った。××支部××空手道場と書かれたドア、扉の隣に貼ってあるカレンダー、稽古日の日程表。向こうから聞こえる正拳突きの文字通り勢ッという声。独特の臭い、時折瞬く蛍光灯の光……。

 懐かしさよりも苦々しさの方が強い。

 足は石のように固まる。

「いいよ……もう……終わったんだ……ここでは――」

 苦虫を嚙み潰したような顔だった。

 逡巡したのち、結局彼は扉を閉めた。

 もう終わったのだ。ここに俺はいるべきじゃない。忘れたいんだから。

 一階へ戻ろうとボタンを押す。

「……?」

 ボタンは反応しない。

 1と書かれたボタンを何度押しても、ランプは点灯しない。

「……なんだよこれ?」

 サーガはエレベータのボタンを全て押してみる。しかしどのボタンも反応しない。

 その瞬間であった。

 ガタンッ。

 不気味な振動と共にエレベータは降下し始めた。

「うわっ! ……何だよ、壊れてるのか?」

 非常用の電話なども反応はしない。エレベータはどんどんとスピードを上げる――三階、二階、窓ガラスの向こうからその光景が見える。

 スピードが上がるにつれ、サーガの胸にも不安感がじわじわと広がる。壁を触ってみたり叩いてみても反応はしない。

「どうなってんだよ……」

 天井を見上げて出口になりそうなところを探していたその時、ついに一階すらも越えて下ってしまった。もう一階には戻れない。

(そんな馬鹿な……このビルに地下は無いはず……)

 サーガはもう一度エレベータのパネルを確認する。もちろん一階より下のボタンは無い。その上の電光パネルは、本来階数を示す数字は無く、ただ無意味な数字の羅列が数秒単位で切り替わるだけだ。

「!」

 瞬間、彼は気づいた。

 噛り付くようにドアの窓ガラスの向こうの光景を凝視する。

 そこに移るのは、信じられない光景だった。

 窓から時折覗かれるのは、かつてサーガが訪れていた習い事の教室、その一場面であった。学習塾、ピアノ、そろばん……様々な教室が。サーガの嫌な記憶が流れては上っていく。

「俺の記憶を……辿ってるっていうのか?」

 サーガは窓に噛り付いたまま呟いた。とうに物理的な道理は超えている。彼は普通の理屈……自分のいた世界の科学や道理では説明できない世界に入り込んだのに、今更ながら気付いたのだ。

 ガラスの向こうの景色はもはや外の光景にまで映り変わっている。サーガのいた小学校、近くの公園、小さい頃言った飛行場……

 ガクンッ、いきなりエレベータのスピードが落ちた。

「! 止まる……?」

 スピードが落ちるにつれ、サーガの心臓も、バク、バクとやけに目立って鼓動する。

 俺をどこに連れて行く気だ――?

 不安で爆発しそうな気分だった。

 彼は今まさに、自分の過去と対峙するのだ。

 ポーン。

 不気味なくらいに鳴り響いた電子音と共に、エレベータのドアが開いた。

 そこは、小学校の教室だった。

 もうすぐ傾きそうな日がカーテンを通して差し込み、教室には数人の児童がいる。立っていたり、机に尻をついたりして、談話しているようだ。

 サーガは数歩、よろよろとその場に出た。彼は教室に入り込んだが、足音に気付かないのか児童らはサーガの姿に気が付かない。



「今日じゅぎょうおわったら、西公園であそぼうぜ、さはら!」

「いや、だめなんだ。あそべないよ」

「なんでだよ」

「だってぼく、今日ピアノのおけいこがあるから……」

「じゃあ明日は? 土曜日じてんしゃでさ、あそこいこうぜ、大森のゲーセン」

「どようびは塾があるから……」

「じゃあ日曜日ならいいでしょ?」

「にちようびは、パパがどこにもいかせてくれないんだ……べんきょうのふくしゅうをしなさいって」

「……はーあ、つまんね」

「さはらくん、じゃあ一体いつならあそべるの?」

「……わかんない、ぼくにだってわかんないよ」

「いみわかんねえよ。お前、ほんとはおれらのことがきらいなんだろ?」

「もうさはらくんをさそったりするの、あたしたちつかれちゃった」

「ねえ、いこ? みんな。こんなやつほっとこ?」

「そうだな」

「じゃーな、さはら、お前とは二度とあそばねーよ」

 冷たい汗がつうと額から頬へとこぼれた。

 ばく、ばくという鼓動が大太鼓のように激しく身体を揺さぶった。

 蟻の子を散らすように帰っていく子供達の中で、一人だけ椅子に座った子供だけが、動かないままだった。

 その子供は、しばらくじっとしていたが、そのうちしくしくとすすり泣き始めた。

 

 それは、子供の頃の佐原凱であった。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 息が乱れて上手く呼吸が出来なかった。胸が異常に痛くてたまらくなった。右手で胸を押さえると、どく、どくと血の流れる振動が激しく響いた。

「ふ、ふざけんな……何なんだよ……何なんだよッ!」

 小さな佐原凱はずっと泣き続けてる。サーガの声に気付かない。ずっと独り教室で泣き続けてる。

 小さな佐原凱がこの後どうなるのか、サーガは知っている。

『しばらくして彼は立ち上がり、独りで家に帰る』『ピアノの習い事に遅刻する事を母親に怒られる』『彼は泣き腫らした目で習い事に向かい、上手くピアノが弾けず同情の目を向けらる』『そして家に帰って独りで作り物の夕食を食べる』『落ち込んだままベッドに潜り込み、そのまま眠る』

 この日、小さな佐原凱はそうして惨めな一日を終えるのだ。

 吐きそうなほどの嫌悪感を、サーガは喉に感じる。そして一巡の怒り。

「どうして僕にこんな事を思い出させるんだよ!」

 握りこぶしを作りサーガは踵を返した。

 こんな所には一秒も居たくなかった。

 走って出口に辿り着き、引き戸を思い切り開ける!

 ガっ!

 しかし出た先は、小学校の教室では無かった。

「はあ、はあ、何だよ、ここは……僕の部屋じゃないか!」

 そこは確かにサーガの自室だった。ただ家具や机の位置、それに本棚の本の数が違った――そこは小学生当時のサーガの部屋だった。

「くそっ……今度は何だよ――」

 ドアを閉めようとして、気付いた。既に背中側にあるのは教室じゃない。既に自宅の廊下に変わっているのだ。ドアもプラスチックの引き戸じゃない、自室を遮るドアに変化している。

 時刻は壁にかかってる時計から九時三十五分。窓ガラスから見える外が真っ暗なので、夜の時間帯だと分かる。

 ベッドの隅で、子供が耳を塞いで震えているのに気付いた。その児童もまた、小さな頃の佐原凱だった。

「だからお前が甘やかすから凱が腑抜けていくんだろうがッ!」

「そんなわけないでしょ! あんたが凱を締め付けるんでしょ!」

 瞬間、背後の階下から男女の怒鳴り声が聞こえる。

 一瞬で、彼は今どの『場面』にいるのか気付く――

 

 

「俺は凱の事を思ってやらせているんだよ! なのに何で分かってくれないんだ!」

「ふざけないでよ! あんた何にもやってないじゃない! 凱の送り迎えも、やってるのは私でしょう! 私だってもうついていけないの!」

「それが子供に対する母親の態度かぁッ!」

(がしゃんという破砕音。母の泣き叫ぶ声)

「誰が稼いでると思ってんだ! 誰が金を作ってやってると思ってんだ! ええ!? 俺が働いてる間、家にいるのはお前だろう!」

「あんた凱の事思ってないのよ! 子供を思ってないのはあんたの方!」

「何だって!?」

「あんた自分のコンプレックスを凱に押し付けてるんだわ! 自分が貧乏で無学だから、英才教育の真似事なんかして!」

「真似事じゃない! 俺は凱の事を思ってやらせてんだ! お前こそ子供の事を思うなら――」

(がしゃんという破砕音。母の泣き叫ぶ声)

「車で送り迎えして、多くの先生を対応してるのは私なの! この私! もうついていけない! 限界! 」

「じゃあ出ていけばいい! その代わり金をせびろうなんて思うなよ! 身体でも売って自立するんだな!」

「そんなひどいッ!」

(がしゃんという破砕音。母の泣き叫ぶ声)



 ――サーガは、小さな佐原凱へと駆け寄った。

「……子供が聞いてるっていうのに! 『僕たち』にこんな思いをさせるなんて!」

 そう言うと小さな佐原凱の肩を掴もうとする。するりとすり抜け、それは叶わなかったが、それでもサーガは目に涙を浮かべ、幼少の頃の自分に語りかける。

「いいか! あんな奴らの言葉聞いちゃダメだ! 父親も母親も、パパもママも君を縛る親なんかじゃない! ただの普通の人間なんだ! だから強くなるんだ。強くなれば必ず、あいつらの元から逃げられるんだ! 挫けちゃダメだ! きっと、いつか、君は幸せになれる! 心を強く保ってさえいれば、いつか――」

 パッと、『場面』が切り替わった。

 サーガは顔を上げる。

 目の前に小さな佐原凱は居ない。

 辺りは今だ佐原凱の部屋のままだったが、時間帯が変わっているようだった。

 朝七時。

 小さな佐原凱の毎日の起床時間。

「いやだ……思い出したくない……忘れていたのに……僕は……」

 しかし、それでも。

 サーガは立ち上がって部屋の外に出ざるを得ない。

 記憶が確かなら――

 階段を降りて、一階へ向かう。

 ――この日はサーガの人生を大きく変える運命の日だったはずだ。

 リビングに出る。

 そこでサーガは真実を、『一番思い出したくなかった記憶』を目の当たりにする。

 

 

 小さな佐原凱はリビングで立ちつくしている。

 何をすればいいのかわからない。

 その日は、小学校がある日だった。いつもなら彼のママは、朝ごはんを作るために少し早めに起きているはず。

 ちょうど目覚める頃には、ママがエプロンを付けて忙しそうに台所に立つ姿があるはず。

 しかしその日、母親の姿は無い。

 小さな佐原凱は、何もない机の上を凝視して立ち尽くす。

 電気の点いていない、薄暗いリビング。

 何の臭いもしない、薄暗いリビング。

 

 

「あああ、あぁ、あああああ、うあああああぁぁぁあッ!!

 サーガは膝をつく。口から漏れるのは暗い暗い深層から響く言葉にならない空洞音だった。

 サーガの脳裏に絶望の記憶が雪崩れ込んでくる。

 これから小さな佐原凱は自分の運命を否応なしに受け入れる事になる。

『佐原凱はママが起きて朝食を作っていない事を不思議に思い、ママの寝室へと向かう』『きっと寝坊でもしたのだろう。不安を隠すようにそう考える』『二階に上る』『しかし二人の寝室には、眠っているパパはいてもママはいない』『荷物もどこか少なくなっている』

『玄関に戻れば、ママの靴だけが無い』

『家の中にどこにもママはいない』

『仕方なく佐原凱は朝食無しで小学校へ行き、そして帰る』

『それからパパから残酷な言葉を聞かされる』

『ママは家を出て行ったのだと』

『パパとママはこれから離婚するのだと』

『家族はもう既にバラバラになってしまったのだと」

「あああああぁぁ、あああ、ぁぁぁあああああ!!」

 サーガの目から涙がぽろぽろと零れ始めた。

 何故僕は泣いている!?

 何故こんなに悲しいんだ!

 サーガは分からない。彼は既に小さな子供じゃない。ある程度成熟した青年だ。なのに、サーガの心は無理やり小さいそれに圧縮されている。

「何度も思い出した光景じゃないか、何度も思い出して、何度も悲しんで、そして克服した記憶じゃないか! もう悲しみきって、完全に忘れたはずなのに!」

 ふと。

 小さな佐原凱がサーガの方へと振り向いた。

 はっ。

 気付いて顔を上げるサーガ。

 その目と小さな佐原凱の無垢な瞳が線で結ばれた。

 何で僕を見てるんだ?

 僕を見るな

 しばらく彼は無表情で見つめてきたが、瞬間、小さな佐原凱は柔らかな唇で小さくこう言った。


「ねえ、お兄ちゃん。ママはどこに行ったの?」


 サーガは。

 ああ、サーガは。

 サーガの心は、その瞬間折れてしまった。

 

「やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

 サーガは小さな子供がするように耳を塞いで身体を丸めてしまった。

 目を瞑り、自分のトラウマに耐え切れなくなってしまったのだ。

 その瞬間を『くらやみ』は見逃さなかった。

 小さな佐原凱の身体が刹那、紫色の泥へと融解したかと思うと、天井へと頭が付くほどの巨大な化け物へと変化した。

 それこそが『くらやみ』の本体であった。細い体躯、鋭い爪、全身は黒く頭はどろどろとした塊の中に目玉が二つ浮かんでいる。

『くらやみ』は変化したのち、ぐるるぅと顔にある一つの孔から音を出すと、ゆっくりとサーガへと近づき始めた。

 サーガは気付かない。サーガは、自分自身のトラウマから逃れようと必死で感覚を遮断していた。

 ぼた、ぼたと『くらやみ』が歩いた跡には紫色の泥が染み付いていた。その泥は徐々に床を溶かし、白い煙を立て始める。

『くらやみ』はついにサーガの元へと着く。

「助けて……助けて母さん……助けてクリシュナ……」

 対してサーガは完全に再起不能。何もかも感じたくないと身体を丸め、地面に這いつくばるのみだ。

 遅かれ早かれ、サーガが殺され『くらやみ』に捕食されるのは一目瞭然だった。

 ぐるぉあ。

『くらやみ』が唸る。

 鉤爪がぎらりと光って泥を垂らす。

「クリシュナ……助けて……」

 サーガの呟きは誰にも届かない……。

 …………。

 刹那、『くらやみ』は大きく鉤爪を振り上げたッ!

 

 

 直後。

 巨大な爆風が彼らを襲った!

 

 

 分厚い突風に、サーガの身体は数メートル吹っ飛んで、ごろごろと転がる。

「!!?」

 サーガは顔を上げる。

 その場は最初サーガが辿り着いていたあの真っ白な空間に戻っていた――否!

「違う……」

 地面には吹き飛ばされ『くらやみ』が、細切れになった姿でびくびくと這っていた。

 木片、破壊された家具、あの部屋があった形跡も少なからず見える。

「やれやれ……情けねえ。それでも《大六聖道》に選ばれた一人かよ」

 上空から声が聞こえ、サーガはその方をハッと振り向く

 ばさばさという翼音と共に降りてきたのは真っ黒で小さな黒カラスだった。

 ――いや、ただのカラスではない。

 額にもう一つ、目があった。

「三つ目のカラス――」

 小さくサーガが呟いた。

 三つ目カラスは、はぁ、と人間らしく溜息をつくとプルプルと首を振った。

 一瞬、見つめ合う二人。

 彼(彼?)はやれやれと首を曲げると――

「そ、三つ目カラス。お前を救ってやった男だ。だからそのお礼として――」

 ――はっきりとした男性の日本語で言った。


「――俺と契約して異世界で戦ってくれよ」


「は……?」

「…………」

「え? ……えぇ?」

「あン?」

 反応の悪いサーガに、三つ目カラスははてと言う風に首を傾げた。

「何だよ。喜ばねーの? お前らってこういうセリフ好きなんじゃねーの?」

 そういうと彼(完全に彼だ)は困惑したようにがん、がん、と地面を突いた。

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