第373話 家庭教師
今の時刻は午後5時50分。学校から帰って急いでシャワーを浴び、精一杯のお洒落をしてまた学校に戻って来た。
彼を迎えに。
中学生の時だから色気のある服なんて持ってないけど彼が好きな腋の見える上着と少しフリフリな感じのスカートを着て来た。今の私じゃこんなスカート履けないけどこの身体なら良いよね。
ーーうーん、この乙女っぷり。嫌いじゃないね。
しばらく待っていると校舎から出てくるタロウさんを発見する。私はすぐに車から降りて彼を出迎えようとすると、タイミングを計っていたのか運転手の松原さんがドアを開けてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
私が松原さんに感謝を述べると松原さんは私に一礼してドアを閉める。本当に仕事が出来る人ね。ボディーガードの2人もいつの間にか外に待機してるし。
「タロウさん!」
私は手を挙げて彼を呼ぶ。彼もすぐにそれに気づき小走りで私の元に来る。
「待たせちゃいましたか…って、え?この車って楓さんのですか?」
「実家のです。」
「へー…」
なんだろう。ちょっと遠い目をしてるような気がするけど何かあったのかしら。
ーー慎太郎得意のネガティヴモードだから気にしなくていいよ。
「とりあえず行きましょうか。乗って下さい。」
「あ、はい。」
タロウさんを先に乗せてから私も車に乗り込む。冷静に考えたら凄い光景よね。実家の車にタロウさんと一緒に乗ってるなんて。
……将来こうやって一緒に乗ったりするのかな?そうだといいな。
ーー楓ちゃん良いね。 乙女っぷりが本当に気に入ったよ。
「…楓さん。」
私が少し妄想しているとタロウさんが小声で話しかけてくる。
「…どうしました?」
私もそれにつられて小声で返す。
「…俺を急に家に連れて行ったら楓さんのご両親が怒るんじゃないですか?」
「…親戚だと思うから大丈夫じゃないですか?」
「…そうですかね?父親にはなんか見抜かれそうな気がするんですけど。」
「…そんな心配しなくても父は恐らく帰って来ないから大丈夫ですよ。母もほとんど家にいませんから。」
「…それなら良いですけど。」
…親に紹介か。今回は親戚設定なわけだからトラブルが起きるわけはないけど、いつかは挨拶に行くわけよね。タロウさんがビシッと『娘さんを下さい!!』って言ってくれるのかな?早くそんな日が来ないかな。
そんな事を考えているとあっという間に実家に着く。
「えっ!?ここが楓さんの実家ですか!?」
「え?あ、はい。」
「へー…」
なんだろう?なんかテンションが下がってるような?何かあったのかしら。
ーー慎太郎は楓ちゃんの実家見て心折れちゃったんだよ。
実家に着くと松原さんがドアを開けてくれる。家の入口には使用人が2名立って私たちの帰りを出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ、楓お嬢様。」
「食堂で奥様がお待ちです。」
「お母様が?」
「はい。」
随分早いお帰りね。何かあるのかしら?面倒ごとなら今は勘弁して欲しいのだけれど。
「わかりました。すみません、タロウさんは私の部屋で待っていて頂いてもよろしいですか?」
「わかりました。」
「申し訳ございません楓お嬢様。慎太郎様も一緒にお連れしろとのご命令です。」
なんでタロウさんの事を知ってるのかしら。いや、設定として盛り込まれているなら知ってて当然か。
「…タロウさん、すみません。来て頂いてもよろしいですか?」
「当然ですよ。きちんとご挨拶しないといけませんからね。」
…ご挨拶。どういう意味で言ってるのかな。ウフフ、意味なんてあるわけないか。初対面の人に挨拶するのは当然よね。でも彼としてはなんの意味もなく言ってる事だろうけどちょっと期待しちゃってる自分がいる。
ーーなんかキュンキュンするね。ホント気に入ったよ楓ちゃん。
「ありがとうございます。では行きましょうか。」
使用人に連れられ私たちは食堂へと向かう。歩き慣れた道を彼と2人で歩いてるなんて変な感じ。程なくして食堂へ着くと使用人が扉を開け、中が明らかになる。母がテーブルに座りこちらと目が合う。
「遅れてすみません、お母様。」
私は母に頭を下げ先ずは詫びる。そして一呼吸置いてタロウさんの紹介をしようとした時、母が先に口を開く。
「待っていないわ。それに彼を迎えに行っていたのだから仕方がないでしょう。」
なんで迎えに行ってた事を知ってるのかしら。GPSでも仕掛けてるんじゃないでしょうね。
「久しぶりね、慎太郎さん。どう?お母様はお元気にしてらっしゃる?」
「ご無沙汰しております。母も元気にしております。」
流石はタロウさん。どんな会話にもすぐに合わせられるなんて凄いわ。
やっぱりお互いの親同士が親友パターンは健在なのね。
「なら良かったわ。それで本題だけれども、昨日電話でも伝えた通り貴方に任せるわね。」
母の言葉の意味がわからない。情報が足りなさすぎるわ。流石のタロウさんも私に目配せをする。ここは私の出番ね。
「お母様、何のお話でしょうか?」
ここで私が話に割り込むのは不自然では無い。私が母に尋ねれば言葉の意味を聞き出せるわ。
「慎太郎さんには貴女の家庭教師をお願いしてあるのよ。」
「「えっ?」」
「世界に出て行く為には英語は必須よ。慎太郎さんは英語のスペシャリスト。打って付けの人材じゃない。雛鳥学園の教職を終えてから貴女の家庭教師をするのは疲れるとは思ったけど慎太郎さんは是非楓の家庭教師をしたいと仰ってくれてね。」
私はチラリと彼を見る。彼はそんな事言ってないとでも言わんばかりに首を横に振る。私はなんかその態度がムカついた。後でお仕置きよ。
「慎太郎さんには楓の隣の部屋を使ってもらうわ。それじゃ私は今からアメリカに向かわなければならないからそろそろ行くわ。」
自分の言いたい事だけ言って母は食堂から出て行く。でも…悪くないかな。ううん。最高じゃないかな。家庭教師…私専属の…ウフフ。
ーー少女漫画的な展開を妄想する楓の夜が始まる。
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