第330話 二重イベント
【 アリス・牡丹 組 1日目 AM 8:56 遊園地 】
「遊園地…?」
イベントが始まった。私の目の前には遊園地のような建物が連なっている。私が今までとは全く違うエリアに少し戸惑っていると、
「そのようですね。」
「牡丹さん!」
声に反応して振り返ると牡丹さんがいる。私と牡丹さんがペアになったんだ。恐らくは一番理想的な組分けになったと思う。楓さんと美波さんには申し訳無いけど、私たちの中で一番強いのは牡丹さんだと思う。一番弱い私と一番強い牡丹さんが組めばバランスが取れている。その分牡丹さんに負担をかけさせてしまうからそれ以外で何か貢献出来る事を探さないといけない。甘えていてはダメだ。
「2人組になれて良かったですね。恐らく楓さんと美波さんも組みになっていると思いますので誰かが1人になるかもしれないという危機は脱しました。先ずは一安心です。」
「そうですね!でも…一番弱い私と一緒なので牡丹さんの負担を増やしてしまうのが申し訳無いです…」
「そのような事を言わないで下さい。私はアリスちゃんを負担などと思った事はありません。アリスちゃんは回復、魔法といった他の誰もが出来ない力を使う事が出来ます。私が手傷を負った時には回復をして頂けますし、大多数に攻め込まれた際は魔法で一網打尽にする事も可能です。それは大変凄い事だと私は思います。」
「牡丹さん…」
「だから、そのような事を思わないで下さいね?私は、可愛い妹がそのように思っていたらとても悲しいです。」
そう言いながら牡丹さんは私の頭を撫でてくれる。とても優しく温かい手だ。牡丹は優しいな。こんな聖母のような人が恋のライバルだと思うと勝てる気がしなくなる。でも、しょげてちゃダメ。絶対に私が勝つんだ。
「…はい!牡丹さんの期待に応えられるように頑張ります!」
「ふふふ、あまり無理はしちゃダメですよ?」
みんなの為になるように頑張らなきゃ。甘えてちゃダメだ。
ーーピロリン
ーーアリスと牡丹が話しているとスマホの通知音が鳴り響く。私たちは互いに目配せをし、脳内で通知を確認する。
【お世話になっております。俺'sヒストリー運営事務局です。只今より、強制参加イベントを開催させて頂きます。エリア内に配置されたクランは10クラン。そしてプレイヤーを狩る為の敵として、ゾルダートを1000体、フェルトベーベルを300体、ゲシュペンストを100体配置させて頂きました。激戦が予想されますので頑張って生き残って下さいませ。】
「ゲシュペンストが100体…!?」
「なるほど。相当に難度が高いということでですね。」
牡丹さんの顔をちらりと見るが焦る様子は見られない。余裕だ。牡丹さんからすればゲシュペンストたちが何体いようとも大した問題では無いんだ。やっぱり凄いな。
【そして、こちらのエリアの”最終生存者数”は6名とさせて頂きます。】
「最終生存者数…?どういう事でしょうか…?」
「クラン単位ではなく、人数単位という事を表しているのかもしれませんね。」
「あ…!そういう事か…。え?でもそれだと今回はタロウさんとみくさんがいないから私たち以外のクランも残れますけど、いた場合は残れないって事ですよね?それに、生存者数6人というのが今回に限った話だった場合、4人とかって言われる事もありますよね?そうなったら…」
「そうですね。その可能性はなきにしもあらずです。」
そうなったらどうしよう…私たちの中の誰かがいなくなるなんて絶対に嫌だ。でも…もしそうなったら私はきっと自分から身を引くと思う。だって、みんな優しいから。きっとみんなが自分から身を引くと思う。だからその時は率先して自分から身を引かないといけない。私はそう心にーー
ーー【断っておきますが、最終生存者数が所属クランのメンバー以下になる事はございません。】
私と牡丹さんがその言葉に苛立ちを覚える。
「…私、本気でムカっとしました。」
「奇遇ですねアリスちゃん。私も苛立ちを覚えました。」
それでも最悪の事態にはならないってわかっただけで安堵してしまう。
【最後に、この孤島(獄)エリアに配置された方々は運が良いです。こちらはレアエリアとなっております。エリアボスはおりませんが、最優秀プレイヤー1名に”特殊装備”を進呈致します。】
「”特殊装備”!?ぼ、牡丹さん!?」
「これは是が非でも入手したいですね。」
【但し、ボスがいない代わりに何体かのゲシュペンストが特別な能力を持っておりますのでご注意下さい。それでは皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。】
「特別な能力…?何だか嫌な予感が…」
「手強い事は間違い無いでしょう。もしそのモノと対峙してしまった場合、撤退も視野に入れるべきです。楓さんと美波さんと合流し、4人でかかるのが最適かと。決して侮ってはいけません。」
流石は牡丹さんだ。もし私が牡丹さんの立場なら、クラウソラスや《水成》があれば勝てると思って戦っていると思う。過信しちゃいけないよね。
「楓さんたちとの合流を目指しましょう。何処にいるかわからないのが辛いですね。」
「え?わからないんですか?」
「はい…?私はわかりませんが、アリスちゃんはわかるのですか?」
牡丹さんが不思議そうな顔をしている。あれ?わからないのかな?おかしいな?
「いえ、私はわかりませんけど、牡丹さんはこの前のイベントの時にタロウさんのいる方角がわかったんですよね…?それならわかるのかなって思ったんです。」
「それはタロウさんだからです。タロウさんの匂いがする方に向かっただけです。」
…うわぁ。牡丹さんも美波さんみたいな事言ってる。匂いなんてわかるかなぁ?近くにいればタロウさんの匂いはわかるけど遠くにいればわからないのが普通じゃないかな?私がおかしいのかな?
ーーおかしいのはヤンデレクイーンと自称正妻だから。アリスは比較的正常だよ。まだ。
「まずはこの施設内の探索を行いましょうか。もしかしたら楓さんと美波さんがおらーー」
ーーガシャン、ガシャン
「…どうやらさっそくお出ましのようですね。」
「鎧の音って事はゾルダートかフェルトベーベルですね…!」
「アリスちゃんは動かないで下さい。私がやりますので。周囲だけ警戒して身を守っていて下さい。」
「は、はい…!」
ーーアリスと牡丹サイドでもさっそく戦闘が開始する。そして、遠く離れた別エリアにて慎太郎とみくもイベントを行なっている。初の二重イベントが幕を開ける。
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