第317話 密会 2
夜、リリに呼び出された俺は、みんなの目を掻い潜って前に待ち合わせた公園へと向かう。深夜に女の子を1人で人気の無い所に待たせるわけにはいかないと思い、猛ダッシュで向かうがリリはもう待っていた。遠くからでもわかる圧倒的な存在感。美人すぎるだろ。てかこの辺りに美人が集中し過ぎだって。
「あ!お〜い!」
リリが俺に気づき手を振る。この前と同じタンクトップだから腕を上げてると腋が全開だ。溜まってるせいかやたらとムラっとしてしまう。落ち着け慎太郎。リリは俺の師匠だぞ。師匠に手を出す弟子なんてとんでもない事だぞ。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、今来たトコ、って、いや〜ん!なんだかデートみた〜い!!」
うん、相変わらずのこの性格。
「ん〜?タロウくん、汗びっしょりじゃん。そんなにリリちゃんに会いたかった?まさか!?リリちゃんに惚れた!?恋!?サマーラブ!?いや〜ん!!」
「こんな暗がりで女の子待たせたら危ないだろ。だから急いだんだよ。」
「変な輩が来てもリリちゃんなら大丈夫だよ〜?」
「そういう問題じゃないって。どんなに強くてもリリは女の子なんだから。女の子を守るのが男の役目だろ。」
「…ふぅ〜ん。」
なんだかリリが不満そうな顔で俺を見る。
「どうした?」
「おまわりさ〜ん!こういう事をしれっと言って女の子騙してる悪い男がここにいま〜す!」
「ひっでぇ言われれようだな。」
「あはは〜!タロウくんは面白いね〜!リリちゃん楽しいよ〜!」
「楽しんでもらえてんならいいけど。てか呼び捨てでいいよ。師匠に『くん』付けされてると変な感じ。」
「Okay!タ・ロ・ウ!いや〜ん!!恋人同士みた〜い!!」
「そのテンション見てると癒されるね。」
「私もタロウといると癒されるよ〜。波長合ってるね〜。」
確かに波長は合ってるかもな。リリといても全然疲れないし。
「ちゃんと”具現”出来たね。」
「見てたの?」
「うん。ちょうど見れた。」
「リリのおかげだよ。リリが俺に教えてくれなかったら”具現”なんて出来るわけがなかった。それにあそこでみくを助ける事も出来ずに負けていたと思う。リリには感謝しかない。ありがとうございました。」
俺は我が師に感謝を述べ、深々と頭を下げる。リリへの感謝は計り知れない。俺はリリの為ならなんだってする。俺の人生において最も大事な人の1人である事はもはや否定出来ない。
「ううん、私の力では無いよ。それは全部タロウの力。私はほんの少しだけきっかけを与えたに過ぎない。だから恩なんて感じる事は無いよ。良く頑張ったね。」
「…もしかして俺って褒められてる?」
「凄く褒めてる。優秀な弟子を間近で見れて誇らしかったよ。」
「…俺さ、褒められた事っていうか、認められた事ってほとんど無いんだよね。だから…なんか泣きそう。」
「師匠の胸を貸してあげよう。ほら、おいで。」
リリが両手を広げて俺を受け入れようとする。
「…なんか情けないじゃん。俺より一回り以上歳下であろう女の子の胸で泣くとか。」
俺が躊躇しているとリリから近づき俺の頭を抱えるように自身の胸に引き寄せる。リリの胸の柔らかさが俺の頰へと伝わってくる。
「タロウの悪い所は余計な事を考え過ぎる事。もう少し素直になりなさい。」
「…はい。」
「飢えてるね〜。」
「…何が?」
「…愛?」
「…そうなのかな?」
「私にはそう感じるよ。」
「…そうかも。認められた事が無いから認められたいって思うのかもしれない。だからリリに褒められて凄く嬉しくて泣きそうになってんだと思う。」
「大丈夫だよ。私はタロウを認めてるから。頑張っている事もわかってる。クランのみんなを守りたいって思って強くなろうとしている事もわかってる。だからもっと力を抜きなよ。他の誰がタロウを否定しても私は肯定するよ。本当は人一倍努力している事を知っているから。」
「…俺さ、出会って間も無い子に安心しちゃってるんだけど。こうやって抱き締められてると安心する。優しい言葉をかけられると弱いのかな。」
「時間なんて関係無いんじゃないかな?きっと関係無いよ。私にもわからないけどタロウを前から知っているような気がする。だからそう思うんだと思う。なんだか不思議。私がやってる事って本当はダメな事なんだけどね。それでもタロウの力になりたいって思っちゃう。あ〜なんだろ。ちょっと自分で自分が何言ってるかわからなくなってる。」
「…そうだよな。リリは運営側の人間。ここで俺と会うのって相当マズいよな。会うのやめた方がいいんじゃないか?」
「上手くやってるから大丈夫だよ。それにこうしなきゃいけないって私の魂が叫んでる。上手くは説明出来ないけどきっとこれが私の生まれて来た意味なのかもしれない。タロウに会う事が私の運命。きっとそう。」
「…俺もそう思う。これはそう決められていたのかもしれない。俺とリリが出会う事は最初からーーって、何を言ってんだ俺。少し変だな。」
「…そうだね。私もなんだか少し変。少し冷静になろうか。」
「ああ。」
俺とリリは抱き合っている手を互いに緩め、少しだけ距離を取る。
「…それじゃリリちゃんのレッスン始めようか。始めるよ〜!」
「お、おう!お願いします!」
俺たちは変な空気を払拭しようとなるべく大きな声を出して明るく振る舞う。
「呼吸を読む事が出来るようになった私の弟子ですが、所詮はまだ初級レベルにしか過ぎません。自惚れないように気をつけたまえ。」
リリが腕を組んで少し胸を張ったような姿勢で変な喋り方をする。それがとても面白い。
「おう。でもマジでアレだけの事でこんなに強くなれるなんて思わなかったな。」
「タロウ、本当に調子に乗らないで。死ぬから。」
リリが先程までとは違う厳しい口調で言葉を出す。たったそれだけなのに周囲にはピリピリとした空気が漂い始める。
「あ、ごめん…俺の悪い所だな。」
「そういう意味じゃないよ。この前のはタロウの今の実力以上が出ていたの。アレを次に使えるなんて事は恐らくない。だから注意したんだよ。」
「どういう意味…?」
「あの時のタロウは少しだけ覚醒していたの。」
「覚醒?なんだそれ。」
「人が本来持っている眠った力。それを扱えるようになる事を覚醒って呼ぶの。当然それを出来る人間なんて一部しかいない。そしてそれを出来た人間は歴史上名を残すような功績を挙げている。」
中二病が好きそうな展開だなおい。
「あの時のタロウは綿谷みくちゃんがトリガーになって少しだけ覚醒する事が出来ただけ。だから…相手の男の名前なんだっけ?」
「ごめん、忘れた。」
「じゃあモブ男でいっか。だからモブ男に勝てたんだよ。本来ならタロウはモブ男にまだ勝てない。モブ男は解放済みのゼーゲンを持っていたから。それを素手で倒すなんてありえないでしょ?」
「マジか。怒りと頭が少し変な感じだったせいでそんな事考えもしなかった。」
「だから無理をしちゃ絶対ダメ。タロウはクランの中じゃまだ一番弱い。」
「わかった。調子に乗らないよ。」
「あくまでもタロウ単体の話ね。”具現”して初代剣聖に任せるなら話は別だよ。」
「ごめん、話がよくわからない。俺がゼーゲンの解放をしてないんだからバルムンクだって大した力は無いんじゃないか?」
「初代は特別だから。唯一”神”にも立ち向かえる存在。他の英傑に負けるなんてありえないよ。」
「知らないワードばっかりで頭の中がパッパラパーなんだけど。」
「ん〜、簡単に言えば初代に任せてタロウはおとなしくしなさいって事。わかった?」
「ラジャー。」
「ちゃんと私が強くしてあげるから安心して。誰よりも強く、誰をも守れるように強くするから。」
「信じてるよ。リリを疑う事は無い。”これまでだって”、これから先だってずっと。」
「そうだね。…またなんか変だな。今日のレッスンしてもう終わろうか。」
「だな。」
どうにもさっきからなんか変だ。
「前回のレッスンで呼吸を感じられるようになったとは思うけどそれはまだ表面的なもの。もっと深く、深淵に辿り着かなければリッターやトッププレイヤーたちとは渡り合えない。」
確かにそうだ。仮にこの前の力がいつも使えたとしても牡丹や楓さんに勝てるなんて到底思えない。俺の力はトッププレイヤーにはまだまだ到底及ばないのは明らかだ。
「その為の次のレッスンはーー」
ーーリリが慎太郎を引き寄せ、唇と唇を重ね合わせる。更には舌を入れ、もっと深く、情熱的なものへと変わっていく、が、それを慎太郎が中断する。
「ぷはっ…!!ちょ、ちょ、ちょな!?何してんーー」
「ーーいいから黙って。」
ーー慎太郎がリリに強制的に唇で言葉を紡ぐ事をやめさせられる。そのねっとりと濃厚な口づけは抗う事の一切を許されず、慎太郎は拒む事を諦めた。
そして暫くの後に互いの唇が離れ、見つめ合う。
「…なん「どう?感じた?」」
「何が!?」
感じたってナニがだよ!!フルオッキしてますけど何か!?そりゃあ勃つのが当たり前だよね!?こんな可愛い子と人気の無い公園でディープキスしてればムラムラだよね!?
「私を感じた?ここにいるって事を強く、深く、感じた?」
修行の話かよ!?そんなイキナリじゃわかんないよね!?この前だってイキナリ胸を揉ませてくるしさぁ!?…もしかしてリリって俺の事が好きなんじゃね…?
待て待て待て。落ち着け慎太郎。これだから童貞は困る。最近ちょっとモテてるからってどいつもこいつも俺に惚れてるわけじゃないだろ。それにリリだぞ。俺の師匠だぞ。そんな邪な事を考えて良いわけがない。自重しろ。
「…そんなイキナリじゃわかんないよ。」
「ん〜、そんじゃ、も一回するね。ちゃんと感じててね。」
「えっ!?ちょっ!?んンンンン…!?」
ーーまたしても濃厚な口づけが始まる。
「…どう?感じた?」
…ムラムラする。基本的にはそれなんだけど。
「…まぁ、前よりは強く感じてるかも。」
「これは難しいからね。もっと相手の事を深く感じてみて。そうすれば思考も筋肉の動きも感じる事が出来るようになるから。これの習得が次のテーマね。」
「今度のは難しそうだな。道歩きながらも深く感じられるように色々と自主トレしてみるか。」
「会う時はいつもキスしてれば掴めるようになってくるよ。意識的に感情をタロウに流しながらキスしてるし。ん?キス?いや〜ん!!リリちゃんのファーストキスだったのに〜!!」
初めてであの巧さかよ。ノートゥングとした時より気持ち良かったんだけど。
「あ…なんかごめん。」
「ううん。全然嫌じゃないし。」
「…それなら良かった。うん。」
「さてと、そろそろ戻らないとダメかな。」
「早いな。でも楽しかった。ありがとうな。」
「どういたしまして〜。」
「次のイベントが来てもなんとかなりそうだと思う。ま、とりあえず明日は楓さんのシーンに挑む予定になってるんだけどな。」
「あ、それ無理。」
「え?なんで?」
「誰にも言っちゃダメだよ?明日新イベントが開催される。使うのは知力のみっていうイベントだよ。だから無理なの。」
「知力?どーいう事?」
「私もよくは知らないの。知力のみを使うって事だけが知らされてるだけなんだ。」
新イベントか。厄介だな。全く対策が取れないってわけだろ。それに知力のみを使うってどういう事だ?バトルは無しって事か?
「ごめんね。タロウに教えてあげられなくて。」
「そんな事ないよ。それを知れただけでも凄い助かる。ありがとう、リリ。」
「無理はしないでね。私が必ず助けられるとは限らないから。」
「おう。」
「じゃ、またね、タロウ。」
「あ、リリ。ちょっと待って。」
俺はリリを呼び止め、ポケットから包装された物を取り出す。
「これさ、お土産。大阪行って来たんだよ。」
ーー慎太郎がリリにお土産を手渡す。
包みを開けてリリが中の物を取り出す。
「…ハンカチ?」
ーー中から出て来たのはたこ焼きがワンポイントで刺繍された可愛いハンカチだ。
「リリは食べる事好きって聞いてたから食べ物にしようと思ったんだけどそれだとバレるなって思ってやめた。そんで考えてたらハンカチなら女の子は持ってるのが普通だからこれにしようって思って。気に入らなかったら捨てていいから。」
「…ううん。凄く可愛い。ありがとう。」
「ふぅ、良かった。」
ーー慎太郎がにこやかな表情になる。それをリリが不思議そうに見つめる。
「いや、俺さ、女の子に物をあげたのって初めてなんだよ。だから何をあげたらいいかわからなくて。俺なりにはリリの事を考えて買ったんだけど喜んでもらえるかわからなかったからさ。喜んでもらえて安心した。」
「……。」
「リリ?」
ーーリリが少し不満そうな顔をして慎太郎を見る。そして、
「おまわりさ〜ん!!女の子を騙す悪い男がここにいま〜す!!」
「なんじゃそりゃぁ。」
「あはは!これ、ありがとう。大切にするね。いつもハンカチなんて持ってないけど。」
「女子力低いなー。いつもお手洗いから出てどうしてんだよ。」
「こうやって服でピッピッって。」
「ハンカチにして良かったわ。」
「そうだね。毎日持ち歩く。じゃ、本当に帰るね。またね、タロウ。」
「おう。またね、リリ。」
ーーリリが闇に消えるのを見届け慎太郎も公園をあとにする。
帰る道中、慎太郎はリリからの課題の訓練をしていた。一歩一歩着実に成長する自分を感じるのが慎太郎はとても楽しかった。
だが、慎太郎はまだ知らない。家でヤンデレクイーンが邪気を撒き散らして待っている事を。
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