第304話 第二次入替戦 楓・牡丹 side 6
戦いを終えた私はみんなの元へと戻る。先ず牡丹ちゃんと目が合い、勝利を讃えてくれているのを察した。ウフフ、流石私たちは親友だけの事はあるわね。
「楓チャン!!」
そんな事を考えているとみくちゃんが私に抱きついて来る。
「もう!手を抜いて戦うなんて危ないよ!心配したんだからね?」
「ウフフ、心配かけてごめんね。」
どうやらバレバレだったみたいね。もっと上手くやらないとダメね。演技は下手だからなぁ。
『セリザワサマ。流石デスネ。』
みくちゃんと話しているとツヴァイが割り込んでくる。わざわざ話しかけてくるなんてなんなのかしら?
「どうも。」
私は警戒しながら素っ気なく対応する。特にツヴァイとする話も無いしね。
『マツシマチアキサマはまだ生きておられますがどうなさるのでスカ?』
「どうって?」
ツヴァイは何を言ってるのかしら。
『とどめを刺すのカ、支配下プレイヤーとするかデス。』
「あぁ、そういう事。それなら別に彼女を殺すつもりも無いし、奴隷にするつもりも無い。彼女を解放するわ。」
『カカカカカ!甘いですネ。別に構いませんガ。でハ、マツシマチアキサマは解放とシ、予備軍から除名と致しまス。マツシマチアキサマはペナルティーとして手持ちのスキルカードを1枚セリザワカエデサマに差し出す事となりマス。』
「ペナルティー?」
なんなのかしら?そんな話は聞いていなかったのだけれど。
『予備軍側が負ケ、且ツ、命があった際は所持しているスキルカードを1枚勝者に渡さなければなりマセン。セリザワサマはマツシマサマから1枚スキルカードを頂けるのデスヨ。』
「へぇ、そうなのね。」
『通常バトルに於いても同じデス。死亡したプレイヤーは数秒の後に強制退去させられますガ、その間にスマートフォンを操作して御自身のスマートフォンに持ち物を贈る事も出来まス。一部のプレイヤーはやっておられマスヨ。』
知らなかったわ。というか、私たちのクランって情報に疎いわよね。でも…なんか死体漁りしてるみたいでイヤ。
「貰えるんなら貰っておくわ。」
『こちらがマツシマチアキサマのスマートフォンでス。終わりましたらスマートフォンと一緒に退去させますので御返し下さイ。』
私はツヴァイからスマホを受け取る。
一応確認はするけどサブスキルは良いの持ってないわよね。《爆破の種》を貰うのが無難かな。でもこのスキルは時空系の中でもハズレじゃないかしら。牡丹ちゃんの《水成》と比較しても使用条件にかなりの差がある。ガスありきの話ならバトルエリアにプロパンガスでもあればいいけど無ければ使用を制限しながら戦わないといけない。瞬間火力はあるかもしれないけど持久力は無いわよね。
ーー楓が松嶋のスマホでスキル効果を確認する。
《 アルティメットレア 爆破の種 効果 空間内のガスを制御する事が出来る。使用時間は1時間。更に、身体能力が100%上昇する。但し、1日に1回のみ。Lv.1 》
時空系は身体能力上昇値が固定なのかしら?強化系が150%という事を考えればこれで問題無いわね。やっぱり時空系を貰いましょう。
「はい、終わったわ。」
処理が終わったので私はツヴァイにスマホを返す。
『ではこれにて入替戦第3戦は終了とさせて頂きまス。続きましテ、予備軍序列第5位アラマタトシオサマ、誰を指名致しますカ?それとも回避されますカ?』
ーー荒俣俊夫、48歳、会社員。至って普通のオッさんだ。極道というわけでもチンピラのような輩でも無い。ごくごく普通のどこにでもいるオッさんだ。こんなオッさんが”闘神”予備軍にまで上り詰めたのだから人は見た目で判断してはいけないという事だ。
だがそんな荒俣という男は非常に用心深い性格だ。絶対に勝てるという場面でしか勝負をしない。相手が万全な状態では勝負をしない。それらの事を徹底して行って来た。そして今回も同じだ。己の力量と照らし合わせても必ず勝てる相手が”闘神”にはいない。そう判断した荒俣の返答は決まっている。
「俺は回避させてもらうよ。別に戦意は無くはないよ。それなら構わないんだろう?」
『構いませんヨ。戦意があるのでシタラネ。それではアラマタトシオサマは回避とさせて頂きまス。序列はどうされまスカ?』
「そうだね、2番目にしてもらえるかな?」
『かしこまりましタ。それでハ、予備軍序列第6位カサハラツバササマ、誰を指名致しますカ?それとも回避致しますカ?』
ーー笠原翼、28歳、キックボクサー。
荒俣とは打って変わって、金髪に色黒、タトゥーといった悪そうな風貌をしている。サイズも188cm、103kgを誇るヘビー級だ。体格は慎太郎をはるかに凌ぐ三國級。純粋なバトルならこの男を倒すのは相当に大変であろう。
「やらないわけがないだろ。俺はあそこの可愛いお姉ちゃんにしようかな。」
ーーそう言って笠原が指差す先にいるのは綿谷みくだ。
「え?ウチ?やだなぁ…ああいう臭そうなのはウチ苦手や…」
みくちゃんが凄く嫌そうな顔をしている。確かに私も嫌かな。ああいうイカついタイプは特に苦手。
私はみくちゃんを激励しようと声をかけようとした時、牡丹ちゃんが非常に厳しい表情で口を開く。
「……みくちゃん、気をつけて下さい。何だか嫌な予感がします。」
その牡丹ちゃんの雰囲気にみくちゃんの表情も強張る。
「…うん、わかった。ありがとう、牡丹チャン。」
私は少しでも彼女の緊張をほぐそうとそっと肩を抱く。
「落ち着いてみくちゃん。冷静にね。」
みくちゃんの肩がピクッと震える。
「…ありがとう楓チャン。大丈夫。ウチは負けへんから。負けるわけにはいかへんもん。絶対勝って来るで!」
みくちゃんがニコっと笑いながらバトルフィールドへと降りて行った。何だかそれが最期の別れのように感じてしまったのは私の気の所為だと思いたい。また…みくちゃんと話をしたい。
『でハ、入替戦第4戦を始めましょうカ。』
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